覚醒した炎4
神具が強い力を放つ。戦闘が再開されたと察し、柊稀と黒耀が身構える。
「へぇ、強くなったな。未来に来ちまったもんは、どうしようもねぇ」
「見物しましょうかね」
夜秋と秋星が、一瞬で背後に移動した。見物とは言いつつ、瑚蝶と柏羅を護るように立つ。白秋という敵を相手するうえで、この二人では無理という判断だ。
同じように下がった飛狛は、戦闘体制をとる。父親が自分に望むこと。それをやらなくてはいけない。
「柊稀、父さんの精霊眼は俺が封じる。それが、父さんが打つ手だ。あとはお前らでやるんだ」
「はい!」
精霊眼を封じるということは、かなりのハンデをもらったことになる。魔力も一部が封じられてしまうからだ。ここまでやってくれた白秋の気持ちに、応えたい。
闘志と同時に、瞳が赤く輝き出す。蒼い炎が巻き上がり、柊稀は静かに剣を構えた。
その決意を見て、黒耀は構えを解く。彼の中にある、眠れる力が覚醒しようとしている。邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
飛狛の精霊眼が発動し、空気を震わせる。目には見えない攻防が始まった。
しばらく攻防が続いたが、白秋の瞳から波が引いたように光が消えていく。柊稀にはわからないが、激しい攻防が行われていたのだろう。
タイミングを逃さないよう、攻防の終わりと同時に踏み込む柊稀。下から燃え盛る剣を振り上げる。
振り下ろされた白秋の剣と重なり合い、炎が絡み付く。
「聖緋竜双破!」
剣へ絡み付く炎と、白秋へ向かう炎。
「聖竜空牙破!」
しっかりと押さえつけられた状態から、少しずらして魔技を発動する。造られた存在とはいえ、技量は柊稀よりも格段に上。
頬を血が流れるのを感じながら、柊稀が体制を整えると、すでに次は向かってくる。
(負けない……絶対に負けるものか!)
「蒼炎竜激破!」
それは身体に染み込んだものだったのか。普通なら、絶対的に相手を殺せると思う一撃。
その一撃を、身体を捻って避け、柊稀の一撃が直撃した。
まさか、ここまでやれるとは思わなかった。静まり返った空間に、柊稀の荒い呼吸だけが響く。
呼吸が整うまで一言も発する者はいない。別人じゃないかと思うほど、彼の戦いがすごかったから。
「いい戦いだった。これなら、父さんにいい報告ができそうだよ」
最初に労ったのは飛狛。いつもの穏やかな表情で、緊張感をほぐすようだった。
「あ、ありがとうございます。飛狛さんや白秋さん、みんなのおかげです」
自分一人でやったわけではない。仲間とやったからこそ、ここまで強くなれたのだ。
「仲間の大切さはわかっているみたいだね」
「はい」
微笑む飛狛に、柊稀は少し嬉しかった。彼が自分の力を認めてくれたように思えたのだ。
「柊稀、あとは神具だ。あれはお前一人でやるしかない」
「そうだね……」
ここからは一人で戦う。自分一人で、神具と戦わなければいけない。戦って勝つのだ。
浮いている神具を見ると、剣をしまう。そのまま近寄り、一瞬の迷いもなく柊稀は神具へと触れた。仲間が見守るなか、静かなる戦いが始まった。
寒い空間に放り込まれた感覚が襲う。それが神具の中だと察するには、数秒の時間を要した。
「これが神具の中……」
『そうだよ。そこは神具の中』
懐かしい声に、柊稀はハッとしたように辺りを見渡す。神具の中は風景などなく、ただ闇が広がっているだけ。そこに誰かがいるわけではない。
けれど、彼女がいる。
「朱華……」
『強くなったね』
「朱華! 僕は……」
帰ってきてほしい。離れていた日々が長くなればなるほど、その想いは強くなっていく。
『言わないで』
その言葉をいうなと彼女は言う。柊稀の気持ちを痛いほど理解して、それでも彼女は戻れない。
『次に会うときは、敵だよ』
一言、それだけを最後に、彼女の気配は消えてしまう。一方的に現れる朱華に、本当は戻りたいのだと柊稀は感じた。
それができない理由も、今の彼ならわかっている。
だから、会ったときに言うのだ。帰っておいでと。その一言があれば十分なのだ。会って話さなければ、自分がどれほど本気なのかわかってもらえない。
華朱のことを知った上で言っているのだということも。
(だから、まずは神具だね……)
神具を取り戻すことが先。目を閉じて意識を集中させる。ゆっくりと魔力を高めていった。
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