風が吹くとき3
神具へ触れた蒼翔は、風が嵐のように荒れているのを感じた。これをなだめなければいけないと。
魔法は専門外なため、正直なところ自信はない。魔力を送るだけでどうにかできるものなのか。
「大丈夫だ…そのまま…ゆっくりとやるんだ……」
金色に輝く瞳がじっと自分を見ていた。噂の始祖竜が力を貸してくれている。
三つの神具を取り戻し、力はだいぶ戻ってきているのだろう。
(大丈夫。流れに身を任せれば)
そっと後押しする力。暖かい風が身体の中を吹き抜けていく。
それが柏羅の力だとわかれば、あとは逆らうことなく流れに乗るだけでいい。それだけで、あの風には負けない。
荒れ狂う風を受け流し、奥へ、奥へ風を送る。そして、彼女はどこかに投げ出されたことに気付く。
音もない。風も吹いていない空間。ただ冷ややかな神具の中へ。
記憶のようなものが流れ込む。風の記憶、風の想い。
その中に、無力に嘆く女性がいる。蒼翔はなにをみているのかと周りを見た。
無力を嘆いていた女性は、やがて力強く動いていく。瓦礫の山に囲まれた中で。
「ここは…クーサ……」
瓦礫の山でしかなかった街。その街を建て直した女性。
『これは、世に再び神具が必要になった際に、新たな使い手へ残された力。それまでは、何人たりとも触れることは許されません。今は、この力が必要ですか?』
真っ直ぐ見てくる瞳。無力を嘆いていたなど、嘘のような力強さを持っている。
「うん。必要なんだ。だから、取りに来たよ」
彼女のような強さはないが、それでも真っ直ぐに見つめ返す。
残像のような女性に、自分の気持ちが通じるかはわからない。けれど、きっと見えている。そう信じていた。
『持っていきなさい。あなたの仲間のために。あなたが大切に想う人のために』
「あ、ありがとう!」
微笑む女性が光の玉を差し出す。蒼翔が手を伸ばせば、光は強く輝き視界を奪う。
『旅立ちの風を……』
最後に聞こえた声と、身体の中を強く吹く風。大空を飛んでいるような、まるで自分が風になったような感覚。
ふわりと浮く感覚を味わっていると、風景は再び変わる。
「朱華お姉ちゃん……」
緋色の髪をした女性が立っていた。神具の力を通し、柏羅が同じ風景を見ているのだろう。
おかげで、蒼翔には彼女がそうなのだとわかった。迷ったような表情を浮かべ、空を見上げている。
敵じゃないと力説した柊稀の言葉は、嘘ではない。蒼翔にも彼女が敵には見えなかったから。
「戻ろう、柏羅。今はまだ、彼女には会えないから」
これは風となり、見ているだけ。接触はできないのだ。
「うん…」
風が渦を巻くのを感じながら、蒼翔は本来あるべき場所へ戻った。
身体が後ろにふらついた瞬間、がっしりとした腕に受け止められた。
「大丈夫か?」
「……うん。疲れた」
見上げた先に虚空がいるのを見て、このまま身体を預けてしまおうと力を抜く。
「帰りはおぶって」
長い階段を降りるだけの体力は、さすがに残っていない。
どれだけ時間をかけたのかわからないが、心配そうに見てくるのを考えればかなり長かったのだろう。
(そりゃあ、身体は限界になるよね)
負担が大きいのは当たり前。魔力を長時間使ったのは初めてだった。
「ゆっくり休め。宿まで運ぶから」
受け止められた身体が抱き上げられる。
「ありがとー」
恥ずかしいという気持ちもあったが、それよりも眠い。胸に頭を預けると目を閉じた。
(落ち着くなぁ)
昔もこんなことがあったなと思いだしつつ、疲れを癒すよう蒼翔は眠りについた。
腕の中で眠る女性を見る虚空の表情は、とても慈愛に満ちている。
同じように眠ってしまった柏羅を抱き、黒耀は笑みを浮かべた。どうやら、この二人がくっつくのは時間の問題のようだと。
――もしかすると、彼のためについてきたのかもしれませんね――
「そうかもしれないな」
どのような理由にしろ、彼女は創歴に詳しい。力を貸してもらえることは、この先も助けとなること間違いないだろう。
「虚空、帰ろう」
「そうだな」
二人を休ませ、明日には次へ行かなくてはいけない。
この先は今までのようにいかない場所。火の神具、地の神具は最大の山場となる。過去の使い手を考えれば、誰でもわかること。
今まで以上に気を引き締めなければと、黒耀は自分へ言い聞かせた。
――いつでも動けますよ――
「できれば、頼りたくないな」
頼もしい相棒だが、魔道生物も無限で力が使えるわけではない。頼らないようにする。それが彼の本音だ。
いや、思うだけではなく実行するつもりだった。
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