風が吹くとき2
一人で行くと言った蒼翔は、虚空、黒耀、柏羅と共に風の塔へ。
水の神具の際に邪教集団がいた為、援護のために虚空が、柏羅のサポートをする為に黒耀がついてきたのだ。
風の神具は弓。魔法専門同様、前線で戦える末端が派遣されているかもしれない。
さすがに邪教集団から派遣されていれば、蒼翔一人では対応しきれないだろう。
「塔の内部は、雪精の塔と同じ作りなんだな」
魔法槍士でも風の塔内部へ入ったことはない。入ってみれば、螺旋階段が続くだけの塔。
部屋はなく、おそらく儀式の間と同じような空間が最上階にあるだろうと、見てわかる造り。
「きっと、創歴には珍しくない造りなんだよ。天使族の塔もこんなんだったよ」
「なるほど」
現在も残る創歴の塔は、わずかしかない。跡地はいくつか存在したが、実物は残っていないからだ。
そのため、黒耀は気にしたことがなかった。
ひたすら階段を上れば、最上階も同じ造りとなっている。そこへ、やはりと言うべきか邪教集団の黒いローブを着た者がいた。
「周りは引き受ける。蒼翔は彼女を頼む」
黒いローブの後ろ。神具を持つ女性が無機質に見ている。
風の神具使い手、蒼翔にとっては先祖に当たる女性。世界初となる学校を作り、創立者の一人として肖像画を見たことがあった。
優しく微笑む絵は、目の前にいる人物と同じ顔だが、同じではない。
「うん。僕に任せて」
伴侶と共に、安らかに眠っていたはずの先祖。伴侶と共に、このような形で呼び覚まされた先祖。
(邪教集団……許さない!)
感情に呼応するよう、風が巻き上がる。
昔から蒼翔を知る虚空ですら、見たことがないほど真剣な表情。彼女の矢は、迷うことなく神具使い手へと飛んでいった。
普段は学校の教師として過ごす女性。街の管理者としても有能だが、誰も知らない顔が存在した。
弓の名手が多くいる天使族。新年祭として弓技大会が行われ、彼女は大会常連者だった。
(僕は、あなたが神具を扱うと知って、同じになりたかった。いつか、あなたが扱った神具を扱いたいと。こんな形になるとは思わなかった)
誰にも言わず、隠れて弓を特訓したのだ。風の神具が弓だとわかっていたから。
神具から放たれる矢。避けて矢を放つ。何度も繰り返し、頬や腕にかすり傷を増やす。
弓自体の性能が違う。やはり神具はすごいと蒼翔は思う。矢の威力が違いすぎる。直撃すれば腕一本は、簡単に吹き飛ばしてしまいそうだ。
(でも、威力があれば勝てるわけじゃない)
勝機は必ずやって来ると信じていた。自分はただ、それを待てばいい。逃すことなく、彼女の動きを見て。
周りをすべて仲間が押さえてくれているため、蒼翔は目の前だけに集中することができた。
(来た!)
一瞬の隙。待っていた瞬間は、死体が障害物になり作られた。
風が渦となり矢に集まる。蒼翔の渾身の一撃が胸を貫いた。
「見事な一撃だったな」
「虚空も、見事な戦いだったよ。僕が褒めてあげるのは、珍しいんだからね」
笑いかける姿はいつもの姿。けれど、彼は知った。自分が知らない姿があるのだと。
「さぁて、あとは神具本体だね。いってくるよー!」
笑顔で近寄る蒼翔。付き合いはそれなりに長いが、今日ほど心惹かれたことはなかった。
「惚れたか?」
「ぶっ、なにを言うんだ」
「惚れる? なんですか?」
慌てたように黒耀へ言えば、足元では不思議そうに見上げる少女。
「柏羅! なんでもない。忘れるんだ!」
「顔が赤いぞ」
「赤いですね」
からかうな、と虚空は視線を逸らしたが、その顔は真っ赤に染まっていた。
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