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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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風が吹くとき

 初めて会ったのは、学校の視察へ来たときであった。真剣な表情で見て回る姿に、心惹かれた。


 そのとき決めたのだ。彼のために勉学を学ぼうと。この大陸を一人で支える魔竜族の族長を少しでも助けられるように。


「虚空殿、娘の蒼翔です」


 こっそり見ていたら、母親が気付いて娘を紹介する。紫の瞳が自分へと向けられると、胸がドキリとときめく。幼いながらに、恋をしたのだ。


「蒼翔、おいで」


 差し出された大きな手。ごつごつとした手に、恐る恐る触れれば、フッと笑う。


 彼にとっては、子供に対しての接し方でしかなかったのかもしれないが、蒼翔は嬉しかった。


 あの笑みは蒼翔の中で一番好きな表情だ。なにかあったときに、必ず思いだすようにしていた。それだけで、なんでも頑張ることができたから。




 鳥獣族が暮らすセーベル地方。北にそびえ立つ鳥海山には、長達が話し合いをする場があり、今は神鳥がいると言われている。


 実際的には、民の前に一度も姿を現したことはない。


「風の神具は、風の塔にあるよ。街に影響がないのは幸いかなぁ」


 フェラード地方からセーベル地方。一ヶ月近くかけ、ミロネという大きな街へ到着した。


 水の神具は魔力を放つという影響が出ていたが、ミロネの街ではなにか影響が出ているようには感じられない。


 世界統合前、やはり天界へ行くための鍵が保管されていた風の塔。現在は神具の保管場所となり、塔は完全に封鎖されている。


 中へ入るための鍵は、蒼翔の家系に受け継がれていた。そのため、鍵がなければ入れないはずなのだが。


「魔刻山と同じで、過去の使い手に反応して勝手に神具が入れてしまったのかもしれないな」


 意思があるからこそ、神具が動いてしまうのかも。すでに死んでいるとわかっていても、突然現れ戸惑ってしまったのだろう。


 宿で地図を見ながら、一同は話を進める。


「二手に分かれてみませんか?」


「二手に?」


 氷穂からの思ってもみない提案。黒耀もさすがに不思議そうに見ている。


「はい。ダリウスへ行くのとバーバラへ行くの。黒欧と銀梨の二匹がいれば、日にちをかけずに行けます。火の神具を最小人数でやるのです」


「残りをダリウスへ進ませ合流する。なるほど。それならダリウスへ行くあいだに、火の神具を取り戻せる」


 バーバラからダリウスへ行くより、時間は短縮されるだろう。


 ずっと氷穂は考えていた。けれど、火の神具の使い手は強いとユフィが言う。彼が言うならば、それだけ強いのだと信じられる。どうするべきかずっと悩んでいた。


 柊稀の成長と瑚蝶の参加。それを見て、提案することを決断したのだ。


「柊稀さんはだいぶ成長されました。黒耀に柏羅、瑚蝶さんで十分にやれます」


 四人だけなら二匹の魔道生物で移動できる。計算では四人が先にダリウスへ着くことにもなるのだ。


 その先は船を使うことになるのだから、毎日出ているかそうでないのかも、調べておくことができる。


 このようなことを言われるとは思わなかった。けど、柊稀はとても嬉しかった。


 彼女は柊稀の力を評価したのだ。以前、戦えなかった頃とは違うのだと。


「僕はそれで構わない。白秋さんと戦うのは僕だ」


 過去の世界で、彼は手を打つと告げた。どんな手かはわからないが、それは自分のためにやってくれるのだ。


 その気持ちに、応えなくてはいけない。


「私は、そちらに混ぜてもらえるなら異論ないわ。魔法専門の天才……戦えるなんて光栄ね」


 二人が同意すれば、琅悸と虚空は反対することもできず。


「それじゃ、僕が風の神具を取り戻しに行くから、みんなは旅支度でもしててよ」


 あっさりと言う蒼翔に、頼もしい仲間達だと誰もが笑みを浮かべる。


 神具と過去の使い手達がもたらした出会い。出会ったばかりだが、そこには確かに信頼関係が築かれていた。




 向かう先が違うこともあり、柊稀と瑚蝶は別行動。二人で買い出しを始める。


「黒耀と柏羅の分で、四人分かぁ」


「うふふ。任せたわ」


「えー!」


「私、自慢じゃないけど、魔法以外はまったくできないの」


 艶やかに笑う瑚蝶。買い物だ、料理だ、などやったことがないと断言。


 普段どのような生活を送っているのか。とてもじゃないが、見たくない。


(そういえば、ドリーナでは家に入れてくれなかったっけ)


 柊稀でも美しい女性だと思う。外見とは裏腹に、家は酷そうだなと思った。


「大丈夫。魔法の腕は間違いないから」


 うふふ、と笑いながら街中を歩く女性に、苦笑いを浮かべる。


 ドリーナから出たことがない瑚蝶は、見知らぬ土地へ行くことを楽しんでいるようだ。


「早く買っちゃうわよ」


「そうだね」


 終わったら琅悸と手合わせの約束もある。時間は無駄にできないのだ。


 街中を歩いていれば、霜月の店を見つける。各地に広がっているというだけあり、セーベル地方にも出ているようだ。


「霜月がどうかしたの?」


 視線に気が付いた瑚蝶が不思議そうに問いかける。


「いや、幼馴染みが好きだったんだ」


「朱華、という子ね」


 事情を説明した際、朱華のことも話していた。取り戻したいのだと、仲間に告げていたのだ。


 もちろん、華朱という女性の問題も話されている。敵か味方かわからないため、どう出てくるか読めないからだ。


「好きなんでしょ。なにかプレゼントでも買う? 帰ってきたときに、渡せばいいじゃない」


「でも、なにがいいかわからないし」


「お姉さんに任せなさい!」


 柊稀の方が年上なのだが、引っ張られる姿は誰が見ても年下に見えたことだろう。


 艶やかな女性が美男子を引っ張り歩く姿は、とても目立った。本人は無自覚だが、柊稀は目立つのだ。


 目の保養だと、うっとり眺める民は多かった。





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