魔道技師3
「ふん。たいしたことなかったわね」
あっさりと氷晶を倒す女性。神具へ迷うことなく手を伸ばそうとするのを見て、さすがに琅悸は止める。
「それに触れるな」
「神具だから? 悪いけど、これの管理はうちの家系でやっているの。聞けない話ね」
「……氷晶の血族はあんたか!」
それなら魔法の腕がいいはずだと、納得するユフィ。魔道技師というのも、その関係だろうと推測する。
「……えぇ、そうよ。さっきまであの杖を持っていたのは、魔道技師という技術を作った方。先祖に当たるわ。とっくに死んでいるはずなのだけど……」
なんでいたのかと呟く女性に、琅悸と虚空が顔を見合わせる。
過去の使い手。その子孫との出会い。まるで、誰かに導かれているようだと感じさせる流れ。
もしかすると、本当に誰かが導いているのかもしれない。
(過去の使い手達の絆か。変事があれば動くのは、きっとそうなんだろうな)
一度深く深呼吸をすると、琅悸は今起きていることを説明した。これを聞いてもらう必要があると思ったからだ。
先祖からの教えがあるのだろう。蒼翔と同じく、簡単に説明しただけで大体のことを理解した。
「邪教集団ね。まだピンとこないけど、とりあえずこれは私がやるわ。この辺りの力を戻さないといけないし」
「頼む」
彼女が使い手の血族であり、水竜王の末裔であるとわかれば、二人には反対する理由もない。
また、旅についてくる必要性はなく、神具の安全面だけ確保できればいいのだが。
その面もこの女性には心配いらないと、間違いなく言えた。
「やるわ」
自分の力に絶対的な自信があるのだろう。見ていてもわかるほど、女性は自信に満ちている。
神具にたいして魔力が放たれれば、場所の影響力もあるのだろう。魔力が低下しているとは思えないほど、強い力を放つ。
「魔力の増幅魔具を使っている」
さらに力を増幅させる魔具を使っているのだと琅悸は気付いた。
「増幅? 力が落ちたから使っているのか?」
魔具の存在は一目ではわからない。腕のいい魔法の使い手である彼女は、魔力の低下を悟らせないために使っているのかもしれない。
当然不本意なことだけに、魔具もわかりやすくは身に着けていない。服で見えないよう隠しているのだろう。
女性は、神具の使い手であった先祖にたいし、特別な感情があるわけではない。
好きも嫌いもなく、ただ、先祖が残した魔道技師の技術だけは興味があった。己の魔力でどこまでやれるか、それを試したかったから。
魔法専門へ手を出したのは、魔道技師の能力を高めるため。そして、彼女は出会った。
(偉大なる魔法の天才。まさか、先祖の遺品にあるとは思わなかったわ)
今現在、彼を越える魔法の使い手はいないと言われる。魔法の天才と呼ばれた一人の火竜。
難易度が高い魔法や、呪文を使わずに魔法を使用する方法も、すべて記載されていた。
魔道技師としての技術を求めたところ、とても貴重な本が出てきたのだ。見た瞬間に思った。すべてを会得し、魔道技師という肩書きを広めるのだと。
(こんなににも素敵な技術なのに。魔具と同じ扱い。ずっとバカにされてきた。もう、誰にもバカにはさせないわ)
そのためにも、自分の存在をアピールする。女性は、そのためだけになんでもやってきた。まずは自分を売らなければ、技術も広げられない。
今回も、この異常を収めたらと考えていた。
(けど、名前を売るよりも、もっと大切なものがあるのかも)
先祖の繋がりがもたらした出会いに、女性の心は酷く揺れる。外という世界に興味がでたのだ。
『不純な気持ちでもいい。ついていけばいいんじゃないか?』
突然した声に、女性は驚いたように辺りを見た。当然ながら、誰もいない。いるのは、背後にいる三人と精霊のみ。
『仲間を得ることで、得られるものもある。怖がらずに、一歩を踏み出してみるんだ』
うっすらと見える男性。神具に宿る使い手の力だと気付くのに、数秒を要した。
すでに死んでいる人物。一度も会ったことなどないというのに、なぜか誰よりも自分を理解している。
暖かい光に包まれ、それがずっと自分をみていた光だと知った。神具がずっと自分を見ていたのだと。
そのようなことがあるのかと思ったが、神具は武器であると同時に、自分の意思を持つ。考えることができるのだから、あり得るのかもしれない。
そして今、光は再びやってきた。新たな姿へ変わり、彼女の元へ――――。
見ている側からしたら、今回はほんの一瞬のこと。かかった時間は虚空の半分ほどだ。
三度目になれば柏羅への負担も軽くなったのか。それとも彼女の力が戻りだしたからなのか。小さな身体は、少しふらついただけで済んだようだ。
「終わったわ。町へ帰りましょう」
疲弊したようにも見えず、さすが魔法専門だと二人は思う。大量の魔力を使うことにも慣れているようだ。
「ところで、名前聞いてなかったわね。私は瑚蝶。しばらくついて行くことにしたから、よろしく」
振り返った女性は微笑みながら言った。
出会いが戦闘中だったこともあり、互いに名乗る暇もなかった。二人は苦笑いを浮かべながら名乗り、眠そうにする柏羅を紹介。
初対面にも関わらずなぜか信頼できたのは、やはり先祖が繋いだ絆なのか。三人ともが、そう思わずにはいられなかった。
「琅悸お兄ちゃん、もう、眠いです」
少女が欠伸をすると、場の空気は軽くなる。誰もがこの少女には甘くなってしまうからだ。
琅悸と虚空は仲間に紹介すると瑚蝶へ言い、清令山をあとにした――――。
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