魔道技師
懐かしい。住み慣れたフェラード地方の空気を感じ、柊稀は帰郷した気分になった。
村に寄ることはないが、平和そうな雰囲気に母親は大丈夫だと思う。もちろん、実際には邪教集団を止めなければ、世界はどうなるかわからない。
(朱華を連れ戻すまで、村には行けないよな)
本当は村に立ち寄るかと聞かれていた。彼の家は母親が一人残されているから。
それを断ったのだ。朱華を連れ戻したら帰ると。それまでは帰らない。ハッキリと言った。
それは、彼なりの決意だったのだろう。なにがなんでも一緒に帰るという。
華朱のことを知っても、それでも柊稀の中には朱華しかいない。彼女を傷つけることは間違いないが、二人は同一人物ではないと思うから。
だから、柊稀は華朱ではなく朱華を連れて帰る。たとえ、華朱を――彼女を傷つけてしまったとしても。
懐かしい気持ちで旅ができたのは、ナタールの街までであった。
水の神具が保管されている清令山を目指し、水の町と呼ばれるドリーナを目指す。
呼び名の通り水の魔力が濃い町であり、火竜には辛い場所のため覚悟しろと言われたばかりのこと。
「琅悸、地の結界を頼む」
神具の影響なのだろう。ナタールを出発してすぐ、黒耀は水の魔力を察知した。
「早いな。水の魔力が濃くなるのは、もう少し先だったはず」
この辺りはよく来るのか、琅悸が言えば黒耀が同意するように頷く。
「神具の影響だねぇ。僕、火竜じゃなくてよかったぁ」
(他人事だと思って……)
体調へ関わるだけに、柊稀は笑い事ではない。少し水の魔力を感じただけでも、吐き気が襲ってくる。
町についたらどうなるかと思うと、憂鬱な気分になった。火竜族はまったく近寄らないと聞いていたが、これでは近寄りたくない気持ちが理解できる。
(僕、たぶん二度といかない)
しみじみと思ってしまう。もうここに来たくはないと。
ドリーナの町へ着くなり、一行は急いで宿を取りに行く。柊稀が水の魔力にやられ、完全にダウンしてしまったからだ。
結界を張ることで軽減させていたが、琅悸自身の魔力が落ちており、水の神具の力が強く放たれているため効果はいまいちといった状態。
「柊稀は置いていくとして、誰が残る?」
一人にはできないだろ、と虚空が言えば、氷穂が残ると言った。
「私は、サポートにもならないみたいですから。柊稀さんを看ていますよ」
「僕も残るよ。清令山には興味がないんだ」
そんな理由かと突っ込みたくなったが、誰も言わなかった。彼女はただ、自分の手で先祖を眠らせるためについてきたのだ。
それをわかっていたから、協力しないと言われても当然だと思えた。
「あ、町が騒がしくてね。話を聞いたら、魔道技師が清令山へ行ったらしいよ」
急いだ方がいいよ、と蒼翔はのんびり言う。いつの間に、そのような情報を手に入れたのか。
自分勝手なのか協力的なのか。どちらなのかよくわからない女性だった。
清令山へは琅悸と虚空の二人が行くと決まり、神具のために柏羅も同行する。
留守番になにかあるかもしれない。一応、一人は戦える者を残そうと黒耀が残ることに決まった。柊稀は戦力外であるため、一人で対応できる人材として、魔法槍士である彼は最適だ。
決まれば、三人はすぐさま出発する。町の魔道技師が向かったなら、急ぐ必要があるからだ。
「んー、急がなくても実は危なくないんだけどね」
「魔道技師を知っているんですか?」
他にもなにか情報を持っているのかもしれない。残ると言ったのも、それが理由だったのかも。
氷穂は彼女が目的ではないから行かない、と言ったように思えなかった。
「ここの魔道技師って、魔法の専門家で、とんでもなく強いらしいよ」
ニヤリと笑う女性は、やはりわかっていて残ると言ったのだ。
「魔法の専門家……確かに、凄腕の使い手がいると噂だったな。ドリーナにいるとは思わなかったが」
魔法槍士の情報にも引っ掛かるなら、よほどの腕前なのだろう。
氷穂も、それなら心配はないだろうと思うことができた。
「なら、なんで急がせたり……」
「楽しいから。見たらすごく驚くよ」
それを想像して楽しんでいるだけ。彼女の言葉に、二人は苦笑いを浮かべた。
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