雪精の塔
過去も未来も建物は変わらない。目の前に立つ塔は、同じように待ち構えていた。
二度目の雪精の塔。蒼翔が行きたいと言った為、柊稀は同行させてもらったのだ。
どうしても気になることがあった。過去で行った際、壁をみていたときに感じた違和感。なにかがあるような気がした。
彼女と行けば、それがなにかわかるような気がしたのだ。
「これが塔の内部か。階段しかないんだなぁ。んー、儀式の間に行ってみるか」
スタスタと進んでいく女性に、柊稀と黒耀は顔を見合わせる。とりあえずついていくかと視線だけの会話。
出会ったばかりなのが嘘のように、二人の間には信頼関係がある。
おそらく、柊稀には過去で出会った魔法槍士との信頼関係が影響し。黒耀には相棒である黒欧の評価が影響しているのだ。
「過去でもここに来たけど、なにかあるような気がするんだ」
「なにか?」
「壁に……」
階段を登りながら、柊稀は壁ばかり気にする。
この違和感がなにかわかるかもしれない。そんな思いでついてきたが、気のせいかもしれない。確証なんてどこにもないのだ。
「うん。気のせいじゃないよ。僕の思ってた通りだ! ここには仕掛けがある!」
二人の会話をしっかりと聞いていたようで、蒼翔が壁に魔力を当てる。すると魔力の当たった部分に、なにやら文字が浮かぶ。
「たぶん儀式の間に行けば、この壁全体の文字を浮かび上がらせる仕掛けがあるはずさ! 精霊の古代文字の可能性もあるけど、魔法槍士殿がいるんだ。読めるだろ」
精霊の古代文字は、精霊眼があれば読める。彼女は始めからそれを狙って、黒耀の同行を求めたのかもしれない。
「仕掛けがフェンデの巫女に反応するものだったら、どうするんだ」
「ないない。もしそうなら、入口からそうなってるさ」
創歴の文明はそういったものだと、彼女は笑いながら言った。魔力で判別する機能だと。
何段かもわからない階段を登りきり、儀式の間へ。とくに仕掛けのような物は見当たらないが、気にした素振りは見せない。
そこには過去でも見た絵や文献。薄れることもなく現在も残されていた。保存できるような細工がされているのかもしれない。
「うんうん。やっぱ精霊喰らいは古代種だね」
「精霊喰らい?」
ここでその名前をまた聞くとは思わない。過去を襲った謎の生き物。精霊を食べ、精霊眼を持つ者を苦しめた獣。
精霊の森で見た姿は、今でも鮮明に思いだすことができた。
「あれ? 知ってるんだ。すごいねぇ。創歴以前は、いくつもの古代種がいたとされてるんだよ。精霊喰らいも古代種の一種さ。今でもどこかにいるって噂だよ。居場所まで知らないけど」
詳しいと虚空が言う通り、蒼翔は創歴に詳しい。ずっと調べているのかもしれない。
そのために、今回もここへ来たいと言ったのだろう。自分の中でなにか結論をだすために。
真剣な表情で儀式の間を調べる蒼翔。過去で調べられた壁は一回見ただけで、あとは天窓を気にしているようだ。
「光……やっぱこれかなぁ」
儀式の間を照らす光。その中心に、家から持ってきていた透き通った玉を置く。
次の瞬間、玉は光を浴びて輝きだし、塔の壁へ魔力を放ちだす。
「ビンゴ!」
ガッツポーズをとる蒼翔を見ながら、柊稀は浮かび上がる文字に驚いた。
文字は壁一面に書き込まれており、淡く輝いている。これが彼の感じていたものの正体だったのかもしれない。
「ねぇ、黒耀さん読める?」
「あぁ、これは精霊の古代文字で間違いない」
精霊眼を発動させるように目を細めれば、金色の波が広がっていく。
すべてを読むには苦労しそうなほどの量。なによりも、精霊眼は魔力を消費するため、ずっと使い続けることはできない。
そう告げれば、蒼翔は知りたい部分が記載されているか、それだけ見てくれと答えた。
幾度となく二人でやりとりをし、蒼翔は文字を消すように玉をしまった。
「もういいの?」
「うん。僕の知りたいことはわかったからね。全部内容を知りたい気持ちはあるけど、それはいつでもいいことだからさ。帰ろうか」
家でゆっくり考えたいと言われれば、二人は頷いた。彼女がなんらかの答えを得たのは、間違いないだろうから。
「そうそう。僕にも色々聞かせてね。末裔の力が消えたこととか、神具を探す理由とか。なんかありそうじゃん!」
「えっ?」
神具はともかく、なぜ末裔の力が消えたと知っているのか。不思議そうに見れば、蒼翔はニヤリと笑ってみせた。
「僕、風竜王の末裔なんだ。でも、突然力が消えちゃってびっくりさ」
「えぇー!」
さすがに予想していなかったのか、黒耀も蒼翔を見ながら固まる。
力を無くしてしまい、末裔を判別できなくなっていたのだ。
――やはりそうでしたか。いやぁ、家を見たときにそのような気がしていました――
「気付いていたなら言え!」
――聞かれませんでしたから――
しれっと言う相棒に、珍しくも殴りたくなったのは秘密である。
もちろん、そんなことも黒欧はわかっているのだろう。産まれたときから見てきた主であるからこそ、誰よりも理解していた。
三人での移動ということもあり、行きも帰りも魔法槍士に仕える魔道生物に乗っていた。
そのため、一瞬の帰宅で済んでしまう。感覚で数歩といった時間だ。何度体験しても慣れそうにない、と柊稀は内心思う。
魔刻山に行った仲間は、まだ戻るのに時間がかかる。
「ふむふむ。なるほどねぇ。だから神具を探してると。探すっていうか、場所はわかってるんだから、取りに行くか……」
事情は黒耀がわかりやすく説明した。手短に話しても、この女性は理解してもらるのは大助かりだ。
「じゃあ、僕もついてくよ。色々見られそうだし。それに、風の神具は大おば様が使ってたものだし。自分の手で眠らせてあげたいな」
使い手が造られていると知り、彼女はそう言った。
「新たな神具の使い手は必要だ。来てくれるのはありがたいな」
下手に関係ないものを連れていくより、王の末裔に来てもらえる方が力の扱いや神具の扱いも安心できる。
「じゃあ、よろしく!」
差し出された手を握れば、目の前の女性がただの研究者じゃないと気付く。
これなら、邪教集団に襲われても大丈夫だな、と柊稀は思った。
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