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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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雪精の塔

 過去も未来も建物は変わらない。目の前に立つ塔は、同じように待ち構えていた。


 二度目の雪精の塔。蒼翔が行きたいと言った為、柊稀は同行させてもらったのだ。


 どうしても気になることがあった。過去で行った際、壁をみていたときに感じた違和感。なにかがあるような気がした。


 彼女と行けば、それがなにかわかるような気がしたのだ。


「これが塔の内部か。階段しかないんだなぁ。んー、儀式の間に行ってみるか」


 スタスタと進んでいく女性に、柊稀と黒耀は顔を見合わせる。とりあえずついていくかと視線だけの会話。


 出会ったばかりなのが嘘のように、二人の間には信頼関係がある。


 おそらく、柊稀には過去で出会った魔法槍士との信頼関係が影響し。黒耀には相棒である黒欧の評価が影響しているのだ。


「過去でもここに来たけど、なにかあるような気がするんだ」


「なにか?」


「壁に……」


 階段を登りながら、柊稀は壁ばかり気にする。


 この違和感がなにかわかるかもしれない。そんな思いでついてきたが、気のせいかもしれない。確証なんてどこにもないのだ。


「うん。気のせいじゃないよ。僕の思ってた通りだ! ここには仕掛けがある!」


 二人の会話をしっかりと聞いていたようで、蒼翔が壁に魔力を当てる。すると魔力の当たった部分に、なにやら文字が浮かぶ。


「たぶん儀式の間に行けば、この壁全体の文字を浮かび上がらせる仕掛けがあるはずさ! 精霊の古代文字の可能性もあるけど、魔法槍士殿がいるんだ。読めるだろ」


 精霊の古代文字は、精霊眼があれば読める。彼女は始めからそれを狙って、黒耀の同行を求めたのかもしれない。


「仕掛けがフェンデの巫女に反応するものだったら、どうするんだ」


「ないない。もしそうなら、入口からそうなってるさ」


 創歴の文明はそういったものだと、彼女は笑いながら言った。魔力で判別する機能だと。


 何段かもわからない階段を登りきり、儀式の間へ。とくに仕掛けのような物は見当たらないが、気にした素振りは見せない。


 そこには過去でも見た絵や文献。薄れることもなく現在も残されていた。保存できるような細工がされているのかもしれない。


「うんうん。やっぱ精霊喰らいは古代種だね」


「精霊喰らい?」


 ここでその名前をまた聞くとは思わない。過去を襲った謎の生き物。精霊を食べ、精霊眼を持つ者を苦しめた獣。


 精霊の森で見た姿は、今でも鮮明に思いだすことができた。


「あれ? 知ってるんだ。すごいねぇ。創歴以前は、いくつもの古代種がいたとされてるんだよ。精霊喰らいも古代種の一種さ。今でもどこかにいるって噂だよ。居場所まで知らないけど」


 詳しいと虚空が言う通り、蒼翔は創歴に詳しい。ずっと調べているのかもしれない。


 そのために、今回もここへ来たいと言ったのだろう。自分の中でなにか結論をだすために。


 真剣な表情で儀式の間を調べる蒼翔。過去で調べられた壁は一回見ただけで、あとは天窓を気にしているようだ。


「光……やっぱこれかなぁ」


 儀式の間を照らす光。その中心に、家から持ってきていた透き通った玉を置く。


 次の瞬間、玉は光を浴びて輝きだし、塔の壁へ魔力を放ちだす。


「ビンゴ!」


 ガッツポーズをとる蒼翔を見ながら、柊稀は浮かび上がる文字に驚いた。


 文字は壁一面に書き込まれており、淡く輝いている。これが彼の感じていたものの正体だったのかもしれない。


「ねぇ、黒耀さん読める?」


「あぁ、これは精霊の古代文字で間違いない」


 精霊眼を発動させるように目を細めれば、金色の波が広がっていく。


 すべてを読むには苦労しそうなほどの量。なによりも、精霊眼は魔力を消費するため、ずっと使い続けることはできない。


 そう告げれば、蒼翔は知りたい部分が記載されているか、それだけ見てくれと答えた。


 幾度となく二人でやりとりをし、蒼翔は文字を消すように玉をしまった。


「もういいの?」


「うん。僕の知りたいことはわかったからね。全部内容を知りたい気持ちはあるけど、それはいつでもいいことだからさ。帰ろうか」


 家でゆっくり考えたいと言われれば、二人は頷いた。彼女がなんらかの答えを得たのは、間違いないだろうから。


「そうそう。僕にも色々聞かせてね。末裔の力が消えたこととか、神具を探す理由とか。なんかありそうじゃん!」


「えっ?」


 神具はともかく、なぜ末裔の力が消えたと知っているのか。不思議そうに見れば、蒼翔はニヤリと笑ってみせた。


「僕、風竜王の末裔なんだ。でも、突然力が消えちゃってびっくりさ」


「えぇー!」


 さすがに予想していなかったのか、黒耀も蒼翔を見ながら固まる。


 力を無くしてしまい、末裔を判別できなくなっていたのだ。


――やはりそうでしたか。いやぁ、家を見たときにそのような気がしていました――


「気付いていたなら言え!」


――聞かれませんでしたから――


 しれっと言う相棒に、珍しくも殴りたくなったのは秘密である。


 もちろん、そんなことも黒欧はわかっているのだろう。産まれたときから見てきた主であるからこそ、誰よりも理解していた。


 三人での移動ということもあり、行きも帰りも魔法槍士に仕える魔道生物に乗っていた。


 そのため、一瞬の帰宅で済んでしまう。感覚で数歩といった時間だ。何度体験しても慣れそうにない、と柊稀は内心思う。


 魔刻山に行った仲間は、まだ戻るのに時間がかかる。


「ふむふむ。なるほどねぇ。だから神具を探してると。探すっていうか、場所はわかってるんだから、取りに行くか……」


 事情は黒耀がわかりやすく説明した。手短に話しても、この女性は理解してもらるのは大助かりだ。


「じゃあ、僕もついてくよ。色々見られそうだし。それに、風の神具は大おば様が使ってたものだし。自分の手で眠らせてあげたいな」


 使い手が造られていると知り、彼女はそう言った。


「新たな神具の使い手は必要だ。来てくれるのはありがたいな」


 下手に関係ないものを連れていくより、王の末裔に来てもらえる方が力の扱いや神具の扱いも安心できる。


「じゃあ、よろしく!」


 差し出された手を握れば、目の前の女性がただの研究者じゃないと気付く。


 これなら、邪教集団に襲われても大丈夫だな、と柊稀は思った。






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