新たなる王の末裔
「別行動、大丈夫だろうか」
「大丈夫ですよ、琅悸。黒耀がついていますから」
「私達はこっちを考えよう」
目の前にそびえ立つ魔刻山を見上げ、虚空は言う。今は、別行動をしている柊稀達を気にしている場合ではない。
彼らがなぜ別行動になっているかというと、蒼翔から話を聞こうとした際に、雪精の塔を見たいと言われた為。
あの塔を調べていいことを条件に、聞きたいことを話すと彼女は言った。
提案したのは黒耀だ。調べている間に、魔竜族の神具を取り戻す。なるべく時間をかけないために、そうしないかと。
その提案を断る理由は、どこにもなかった。
「ユフィ、魔竜族の神具は誰が使っていた?」
戦う相手を知る必要がある。幸いにも、この精霊が知っているので戦略は立てやすい。
「七星剣を使っていたのは、聖なる王の伯母にあたる女性の護衛だ。腕は火竜族がやってる大会で、上位から抜けたことがない。剣技だけではなく、魔法も得意だな」
どうする、と問いかけるように見られ、虚空は険しい表情を浮かべた。
戦力は琅悸と虚空の二人。援護ならば氷穂でもできるが、三人でどこまでやれるのか。
それに、彼はどうしても自分でやりたかった。己の一族に託された神具であったから。
「この奥へ行くのは久しぶりだな」
大きな扉を前に虚空は呟く。長を継いだときに、一度だけ来たことがあったのだ。
「来たことがあるんですか?」
始祖竜は神具のある方へいるべき。黒耀の一言で、柏羅はこちらについてきた。
柊稀に一番なついているため、引き離すのは無理かと思ったが、彼女なりにしっかりと考えているようだ。
自分がどのような存在で、どのような立場に置かれているのか理解している。過去での経験が、ただ護られるだけのか弱い少女から、抜け出させたのかもしれない。
「ここは、魔竜族にとって特別な場所なんだ。長になったときと、過去を繰り返さないため、定期的に来ることになっている。と言っても、私は長になったときしか来ていないが」
その余裕がなかったというわけではなく、邪教集団のことを黒耀と追っていたのが原因だ。
「じゃあ、神具も見たことが?」
氷穂の問いかけに、彼は頷いた。
「神具の保管をここにしたのも、世界統合の際に長をしていた者だと、家には伝わっている」
なぜ遠く離れたここだったのか、虚空は疑問を覚えていたが、意味があることなのだと信じている。この場所を特別な場とする意味があるのだと。
重い扉は、虚空が触れただけで開かれる。本来は魔力を判別して開くはずだが、過去の使い手にも扉は反応するのかもしれない。
もしくは、この扉を開かせる秘密が使い手にあるのか。
扉の奥は広い空間となっており、昔のまま。ここで激しい戦闘があったのだと、見ればわかるほど荒れている。これも過去を忘れないため、わざと保存しているのだ。
「こりゃすげぇ」
精霊も口笛を吹くのか、と突っ込みたくなる反応を見せるユフィ。
目の前に立つ無機質な青年は、間違いなく彼が知る全盛期の使い手。ここまで力の再現をできる相手に、恐怖すら覚えた。
「彼が過去の使い手。造られた者か」
火竜族独特の緋色に髪は、洞窟の中にいてもハッキリとわかる。無機質な表情と感情の読めない茶色の瞳。
意思があるのかもわからないが、手練れだということはわかる。それも、修羅場を知っているほどの。この青年は、何度も命をかけて戦っている。
「伊吹に会うなんてなぁ。造られたのだが」
一瞬だが複雑そうな表情を浮かべるユフィは、すぐさま笑った。始まったばかり。かつての仲間は、これからまだ現れるのだ。
その度に干渉に浸っていてはキリがない。
「やっちまおうぜ!」
「お前はなにもやらないだろうが」
深くため息をつき、琅悸が動くのは俺達だと視線を向ければ、ユフィは笑うばかり。
試すように動いたのは琅悸が先。一撃入れれば、あっさりと受け止められ弾かれた。
(さすが過去の使い手。これが何人もいるのか)
「琅悸!」
迫る炎に、氷穂が氷を放つのは同時。いつでも放てるよう準備していたのだろう。しかし、魔力は相手の方が強いらしい。
氷穂の魔法はあっさりと飲み込まれ、琅悸は剣で切り裂く。
「ユフィ、氷穂と柏羅を頼む」
目の前の人物を相手するには、氷穂の魔力ではサポートすらもできない。
いや、違う。神具を奪われた状態では力が弱くなるのただと、その場にいた誰もが気付かされる。
「黒耀は一人でやったんだったな。さすが魔法槍士だ」
「精霊眼がある。俺達とは違うということだな。俺も、この剣がなければ危ないかもしれない」
魔法を裂く剣だからこそ、対抗できるのだ。なければ、魔法合戦になった瞬間に負けてしまう。
剣を握る手に汗がにじむ。末裔の力には頼らないようにしていたが、どれだけ強い力に頼っていたのか、それを思い知らされた。
二人が入れ替わるよう、交互に剣を交える。相手の動きを見抜かないことには、攻めることができない。
攻めるポイントを探るような攻撃。どうしても詰めが甘くなってしまう。その上、二人は初めて一緒に戦う。互いのこともわからない状況なのだ。
「くっ…」
肩に巻き付く炎を振り払えば、目の前に迫る剣。割って入る琅悸の背中を見ながら、虚空は瞬時に動く。
「狼斬波!」
「真空刃!」
放たれた魔力の波動は、伊吹の放つ真空の刃にすべて打ち消される。
「火竜爆裂剣!」
追い討ちをかけるよう伊吹の魔技は放たれた。爆風に吹き飛ばされ、身体は強く叩きつけられる。
「あ、伊吹は爆発系が得意なんだよ」
「先に言え!」
思いだしたようにユフィが言えば、二人は同時に怒鳴った。
情報を出すなら始めから得意技までくれ、と二人は思う。
「わ、わりぃ」
苦笑いしながらユフィが頭を掻く。
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