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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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仲間達との再会3

 アジトがわかっても、中へは入れない。結界は特殊で、魔法槍士である黒耀一人では破れなかったのだ。腕のいい魔法の使い手が、もう一人二人必要だった。


 おそらくだが、神竜の力が使われている。始祖竜から造られたなら、他の竜族より強い力を持っていてもおかしくない。


「未来を変えてはいけない。それはわかるが、もっと早く知りたかったな」


――すみません。知っていて手が出せないのも、もどかしいですよ――


 何度、主である魔法槍士に言いたくなったかわからない。その度に、自分を抑えられたのは、この日がくるとわかっていたからでしかない。


 それがなければ、手を出していたことだろう。


「もっとも、過去の推測がなければ気付けなかったこちらも不甲斐ないものだ」


 虚空が言えば、黒耀も悔しげに俯いた。魔法槍士としてこれほど悔しいことはない。


「とりあえず、俺達はどうする? 神具の奪還か? あれが世界を支える物なら、このままではいけないのだろ?」


 護衛という立場からかあまり口出しはしなかったが、琅悸は先を促すように問いかける。


 ここで過去や推測の話をしていても仕方がない。先へ進むことが大事なのだから。


 神具へ話が戻されれば、黒耀が一本の槍を取り出す。ここへ来る前に取り戻した闇の神具だ。


「推測を確信にするため、来る前に立ち寄ってきた。これが闇の神具。神具には使い手が必要で、試練を受けなくてはいけない強い力を秘めているからこそ、誤った使い方をしないよう、神具には意思が存在するんだ」


 しかし、現在はなんらかの手段により、神具の力は邪教集団の物となっている。今の流れで考えれば、神竜の力を使ったであろうということ。


 向こうの力を打ち消し、取り戻すしか方法はない。だが、失敗すれば逆に神具へ取り込まれてしまうリスクがある。


「さらに問題がある。邪教集団は、おそらく神具を使いこなすための手段だろうが、過去の使い手を造っていた」


 話を聞いた三人が、不愉快そうに表情を歪めた。死者を冒涜しているようで、嫌な気分になったのだろう。


「力も、そのまんまだったのかぁ?」


――えぇ。飛朱殿の全盛期で造られていました。おそらく、他の方々も――


 すべての使い手が、一番強かった頃で造られているはずだと黒欧は言った。


「全盛期、か……」


 それまで明るくしていたユフィは、急に厳しい表情を浮かべた。長い付き合いである琅悸すら、そのような表情は見たことがない。


 彼はいつも明るく、笑顔でいるからだ。


「厳しい場所が二ヶ所……いや、もっとか?」


――私も、一番の問題は彼だと思っています。地竜王の末裔にして、地の神具使い手。彼の全盛期は、飛朱殿の比ではないほど強い――


「そうだな……あいつは、一筋縄じゃいかねぇ」


 生前を知る二人が、それほどまでに言う人物。それが自分の先祖だと思えば、琅悸は挑みたいと思った。


 自分という存在の、なにかが変わるかもしれない。そんな予感がしたのだ。


「まっ、とりあえず行けるとこから行こうぜ! のんびりしてる暇はないんだろ」


 いつもの調子を取り戻し、ユフィは笑った。その場の空気が軽くなるのがわかる。


 気を張っても仕方ない。前に進めば邪教集団も華朱も関わることに関わりはないのだ。


 行動が決まれば、行き先も決まる。神具を取り戻すのなら、保管されている場所へ行くだけ。


「魔竜族に伝わるのは、クリエーサ区にある魔刻山(まこくざん)だ。ちょうどいい。クーサに行けば、先ほど話していた人物にも会える」


 ベル・ロード独自の文化や、伝わっている文献。それらの研究をしている詳しい風竜は、クーサにいると虚空は言った。


 創歴にいた生物も調べている。少し変わった女性だと付け足すことを忘れない。


「今から出て、ティーファで一泊。それがいいな。楓斗、留守の間は任せた」


 それまで脇に控えていた青年に声をかける虚空。彼は魔竜族の長を支える副官のような存在であり、友人でもある。自分が留守にする際は、必ず彼に任せていた。


「わかりました。気を付けてくださいね」


「わかってる」


 すぐさま出掛ける支度をすれば、一行は馬獣に乗る。


 支度といっても上着を着る程度。合流と同時に、出掛けられるようにしていたのだ。


「氷穂さんもくるの?」


「はい。関わった以上、最後までついていきます」


「なんか、似てるなぁ」


 過去の巫女に似ている。ぼそりと呟けば氷穂は微笑んだ。


「私は巫女ですから」


 同じ血族なのだから、と言われているようで、柊稀も笑ってそうだねと答えた。同じフェンデの巫女なのだから、似ていてもおかしくない。


 なるべく急ぐようにした。けれど、魔法槍士が連れている魔道生物みたいには、馬獣は速く走れない。


 馬獣で旅をすること二十日ほど。普通よりは急いだ強行で、クリエーサ区のクーサに到着した。


 クリエーサ区では一番発展している街で、世界で初めて学校と呼ばれる学び場ができた街でもある。


 魔竜族の長を手助けするように、クリエーサ区を見ている街の管理者。それが訪ねる女性だと、歩きながら虚空が説明する。


「へぇ…学校かぁ。ナタールにあったなぁ」


「学校、気になります」


 キョロキョロと街を見る柏羅に、虚空は大きな建物を指差す。


「あれがそうだ。少しなら見に行く時間がとれるだろうし、あとで行くか?」


「いきます!」


 キラキラと目を輝かせる少女に、琅悸や黒耀もダメとは言えず。氷穂は妹を見守るように微笑んでいた。


 どちらにしても、ここで一泊は間違いない。酷い強行に疲れたとも言わなかった少女へ、息抜きを与えることぐらい誰も文句はなかった。


 案内された場所は学校より少し離れた家。他とは空気が違うな、と柊稀は感じた。


 よくはわからないが、この家の風だけはなにかが違うような気がしたのだ。


 ドアの金具を叩き来客を知らせれば、待たせることもなく一人の女性が現れた。


 肩まで伸ばされた黄緑色の髪は緩やかなウェーブがかかり、水色の瞳は空にも負けないほど澄んでいる。


「なぁんだ虚空かぁ。僕になにか用? あっ、もしかして……こないだ約束すっぽかしたから、怒りに来た?」


 見た目の第一印象は可愛い女性。けれど、喋った途端にイメージは変わった。


「そんなんじゃない。聞きたい話があるんだが、とりあえず休息させてくれ」


 さすがに身体は疲れきっている。まずは休息だと彼が言えば、女性は後ろにいる仲間達を見た。


「うん。確かに休息が必要そうだ。僕は蒼翔。ここは僕のうちだから、ゆっくり休んでいいよ」


 新たな出会い。ようやく旅が始まった。長い、長い旅の始まり。


 その終焉には一体なにが待っているのか。それは誰もわからない。






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