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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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隠された神殿2

 決して力があるわけではない。女と男の体格差もある。それでも、槍を交えてみればなぜか彼女の方が優勢な戦況。


「これが、聖なる王に仕えた魔法槍士なのか」


――神具の手助けもあり、力が膨れ上がっているのかもしれません――


 元からある力に加え神具の力が加わっている。そのため、本来より強い力を発揮しているのだ。


 本来の力は黒耀よりは強くないと、彼女をよく知る黒欧は言う。


「神具…手元から離すしかないか」


 それすらも厳しい状態ではあったが、今は二人で乗りきるしかない。他に仲間はいないのだ。


 どうやれば彼女を止められるか。生きているのか死んでいるのか、それすらもわからない彼女を。


 頭はフル回転しながらも、視線は油断なく相手を見る。背後には柊稀と柏羅と黒欧の三人。


(黒欧は問題ない。柏羅も護ってくれるだろ。だが、柊稀は彼女とやるには早い。今の力では……)


 一人で食い止める。黒耀は槍を構えた。


 踏み込みは二人同時。互いの槍が輝き、魔技が発動する。


竜殺爪(りゅうさっそう)!」


黒鳳槍(こくほうそう)!」


 二人の槍が重なり合い、黒耀が少しばかり押された。


「くっ…技の威力が違いすぎる」


 まさか押されるとは思わなかったのだろう。黒黒耀の驚きは大きい。


――飛朱殿は歴代の中で一番の禁技使いです! 神具で禁技を使えば、破壊力はすさまじいことになります!――


 禁技は今や魔法槍士にしか伝えられていない代物。使えれば威力は高いが、扱いも会得も難易度が高い。そのため、黒耀は禁技の会得を諦めたほどだった。


 過去の魔法槍士はすごいな、と一瞬笑みを浮かべる。火竜族ほどではないが、黒竜族も戦闘好きな一面を持つ。


 その上彼を燃え上がらせたのは、目の前にいるのが過去の魔法槍士だから。


「柊稀、手を出すなよ」


「う、うん」


(倒してやる)


 あまりの意気込みに、柊稀も頷くしかない。割り込ませない雰囲気を、彼は醸し出していたのだ。


 それに、と柊稀は内心思う。自分では彼女には適わないだろうと。


 自分の力は自分が一番わかっている。黒竜族最強と呼ばれる魔法槍士と戦えるほどの力は、今の彼にはない。柏羅を護る。自分にできることはこれだけだ。


 ここは現代の魔法槍士である黒耀に任せるしかないのだ。


 激しく槍が重なる音が響き渡る。しばらく見ていれば、目の前の女性は禁技と雷の魔技を主に使うのだと気付く。


 それにたいし、黒耀は完全に闇の魔技がメインとなっている。


 辺りを闇の力が覆い、雷は迸る。力強い禁技の破壊力は余波が柊稀の元までくるほどのもの。受け止める力は相当なものだと思う。


(これが魔法槍士というもの……)


 これほどの力を代々受け継ぎ、衰えることが許されない。重い肩書きを背負う家系。その重圧は計り知れない。


 長く続いた攻防。最初は黒耀が押されていたが、今は互角にまで持ち込んだ。男女の差がここにきて現れてきたのだろう。


(やっぱり、男の方が強いのかな)


 魔法槍士同士が争えば、やはり男女の差は出るのだとわかる。それを埋めるために彼女は禁技を会得したのかもしれない。魔法槍士として、最強であるために。


 柊稀にもそれぐらいはわかった。


 それにしても、と柊稀は思う。あまりにも無機質過ぎる。これでは到底、彼女が生きているようには見えなかった。


「黒欧、あれって……死んでるんだよね」


――朱華殿と同じ、と言えば、今のあなたならわかるのではないでしょうか――


「……そっか」


 十分に意味は理解できた。彼女は生きているが、飛狛の母親ではない。


 見た目も力も彼女と同じかもしれない。同じだが同じではない。彼女は、あくまでも造られた存在なのだと。


「大丈夫かな」


――大丈夫です。主殿も気付いています。どうするのが一番いいのか――


 自分達は、ただ見守るだけなのだ。魔法槍士同士というこの戦いを――――。






.


 激しくぶつかる黒耀は、禁技を使わせないように動く。


(発動させるための動きはわかった。もう、二度と使わせない)


 そこまで見抜けば、あとは問題ない。一度目を見開き、鋭く細める。瞳に光が宿り、波を起こすように金色に変わっていく。


 力の高まりを表すよう、左頬から首にかけ長い刻印が浮かび上がる。


 黒い炎が巻き上がった。まるで闘志を表すように。


焔獄竜激破(えんごくりゅうげきは)!」


「炎…」


 槍を包む炎が渦となり放たれる。


闇粒陣(あんりゅうじん)!」


 避けようとする飛朱を逃さず、束縛する力。一撃目の炎は真っ直ぐに胸を貫いた。


 貫かれた胸から炎が溢れ、身体へ巻き付いていく。本来なら悲鳴を上げるところだが、造られた彼女は表情も変わらず無言だ。


 造られた身体には、感情も痛覚もない。なら、と柊稀は思う。


(朱華はなぜ)


 同じ造られた存在である彼女は、しっかりと感情を持っていた。自分の意思というものがある。一体、なにが違うというのか。



 黒い炎に焼かれ、身体は崩れ落ちた。禍々しい力を放つ神具は、使い手を失いその場に浮いている。


(見間違いか。一瞬、笑ったような……)


 そんなはずはない。けれど、なぜだかそのような気がしたのだ。解放されたことへ喜んでいるような。


「神具はどのような状態と、判断するべきか」


 何事もないように振り返り、黒耀が黒欧を見る。この相棒は答えを知っているはずだというように。


――邪教集団に取られた、と考えるべきです。主殿、推測ばかりで確定な情報はありません――


 すべては過去で立てられた推測。これをどうにかできる保証はない。


 当たり前である。過去で推測を立てた者達はここにいない。実際に見ているわけではないのだから。


「言え。俺が試す」


――わかりました――


 やってみないことには始まらない。問題が起きているのは、ここだけではないのだ。


 これから、すべての神具を相手にやらなくてはいけない。黒耀はそれを察していた。


 そのために自ら仕える王にも、同じことをさせる。ならば、まずは自分がやらなければ。


(最初だったのは助かったな)


 危険を伴うなら、いきなりやらせるわけにはいかない。仕える王にもだが、他の者達にもだ。自分が最初に確認出来ることは、なによりもの救いだ。


 黒欧がそうなるように仕向けたのだが、この際それは考えないことにした。






.

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