隠された神殿2
決して力があるわけではない。女と男の体格差もある。それでも、槍を交えてみればなぜか彼女の方が優勢な戦況。
「これが、聖なる王に仕えた魔法槍士なのか」
――神具の手助けもあり、力が膨れ上がっているのかもしれません――
元からある力に加え神具の力が加わっている。そのため、本来より強い力を発揮しているのだ。
本来の力は黒耀よりは強くないと、彼女をよく知る黒欧は言う。
「神具…手元から離すしかないか」
それすらも厳しい状態ではあったが、今は二人で乗りきるしかない。他に仲間はいないのだ。
どうやれば彼女を止められるか。生きているのか死んでいるのか、それすらもわからない彼女を。
頭はフル回転しながらも、視線は油断なく相手を見る。背後には柊稀と柏羅と黒欧の三人。
(黒欧は問題ない。柏羅も護ってくれるだろ。だが、柊稀は彼女とやるには早い。今の力では……)
一人で食い止める。黒耀は槍を構えた。
踏み込みは二人同時。互いの槍が輝き、魔技が発動する。
「竜殺爪!」
「黒鳳槍!」
二人の槍が重なり合い、黒耀が少しばかり押された。
「くっ…技の威力が違いすぎる」
まさか押されるとは思わなかったのだろう。黒黒耀の驚きは大きい。
――飛朱殿は歴代の中で一番の禁技使いです! 神具で禁技を使えば、破壊力はすさまじいことになります!――
禁技は今や魔法槍士にしか伝えられていない代物。使えれば威力は高いが、扱いも会得も難易度が高い。そのため、黒耀は禁技の会得を諦めたほどだった。
過去の魔法槍士はすごいな、と一瞬笑みを浮かべる。火竜族ほどではないが、黒竜族も戦闘好きな一面を持つ。
その上彼を燃え上がらせたのは、目の前にいるのが過去の魔法槍士だから。
「柊稀、手を出すなよ」
「う、うん」
(倒してやる)
あまりの意気込みに、柊稀も頷くしかない。割り込ませない雰囲気を、彼は醸し出していたのだ。
それに、と柊稀は内心思う。自分では彼女には適わないだろうと。
自分の力は自分が一番わかっている。黒竜族最強と呼ばれる魔法槍士と戦えるほどの力は、今の彼にはない。柏羅を護る。自分にできることはこれだけだ。
ここは現代の魔法槍士である黒耀に任せるしかないのだ。
激しく槍が重なる音が響き渡る。しばらく見ていれば、目の前の女性は禁技と雷の魔技を主に使うのだと気付く。
それにたいし、黒耀は完全に闇の魔技がメインとなっている。
辺りを闇の力が覆い、雷は迸る。力強い禁技の破壊力は余波が柊稀の元までくるほどのもの。受け止める力は相当なものだと思う。
(これが魔法槍士というもの……)
これほどの力を代々受け継ぎ、衰えることが許されない。重い肩書きを背負う家系。その重圧は計り知れない。
長く続いた攻防。最初は黒耀が押されていたが、今は互角にまで持ち込んだ。男女の差がここにきて現れてきたのだろう。
(やっぱり、男の方が強いのかな)
魔法槍士同士が争えば、やはり男女の差は出るのだとわかる。それを埋めるために彼女は禁技を会得したのかもしれない。魔法槍士として、最強であるために。
柊稀にもそれぐらいはわかった。
それにしても、と柊稀は思う。あまりにも無機質過ぎる。これでは到底、彼女が生きているようには見えなかった。
「黒欧、あれって……死んでるんだよね」
――朱華殿と同じ、と言えば、今のあなたならわかるのではないでしょうか――
「……そっか」
十分に意味は理解できた。彼女は生きているが、飛狛の母親ではない。
見た目も力も彼女と同じかもしれない。同じだが同じではない。彼女は、あくまでも造られた存在なのだと。
「大丈夫かな」
――大丈夫です。主殿も気付いています。どうするのが一番いいのか――
自分達は、ただ見守るだけなのだ。魔法槍士同士というこの戦いを――――。
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激しくぶつかる黒耀は、禁技を使わせないように動く。
(発動させるための動きはわかった。もう、二度と使わせない)
そこまで見抜けば、あとは問題ない。一度目を見開き、鋭く細める。瞳に光が宿り、波を起こすように金色に変わっていく。
力の高まりを表すよう、左頬から首にかけ長い刻印が浮かび上がる。
黒い炎が巻き上がった。まるで闘志を表すように。
「焔獄竜激破!」
「炎…」
槍を包む炎が渦となり放たれる。
「闇粒陣!」
避けようとする飛朱を逃さず、束縛する力。一撃目の炎は真っ直ぐに胸を貫いた。
貫かれた胸から炎が溢れ、身体へ巻き付いていく。本来なら悲鳴を上げるところだが、造られた彼女は表情も変わらず無言だ。
造られた身体には、感情も痛覚もない。なら、と柊稀は思う。
(朱華はなぜ)
同じ造られた存在である彼女は、しっかりと感情を持っていた。自分の意思というものがある。一体、なにが違うというのか。
黒い炎に焼かれ、身体は崩れ落ちた。禍々しい力を放つ神具は、使い手を失いその場に浮いている。
(見間違いか。一瞬、笑ったような……)
そんなはずはない。けれど、なぜだかそのような気がしたのだ。解放されたことへ喜んでいるような。
「神具はどのような状態と、判断するべきか」
何事もないように振り返り、黒耀が黒欧を見る。この相棒は答えを知っているはずだというように。
――邪教集団に取られた、と考えるべきです。主殿、推測ばかりで確定な情報はありません――
すべては過去で立てられた推測。これをどうにかできる保証はない。
当たり前である。過去で推測を立てた者達はここにいない。実際に見ているわけではないのだから。
「言え。俺が試す」
――わかりました――
やってみないことには始まらない。問題が起きているのは、ここだけではないのだ。
これから、すべての神具を相手にやらなくてはいけない。黒耀はそれを察していた。
そのために自ら仕える王にも、同じことをさせる。ならば、まずは自分がやらなければ。
(最初だったのは助かったな)
危険を伴うなら、いきなりやらせるわけにはいかない。仕える王にもだが、他の者達にもだ。自分が最初に確認出来ることは、なによりもの救いだ。
黒欧がそうなるように仕向けたのだが、この際それは考えないことにした。
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