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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
三部 神具編
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失われたもの

――帰ってきちゃったんだね――


 光と炎に包まれた瞬間、そんな声が柊稀には聞こえた。


 懐かしい声だった。聞き間違えるわけがない。彼にとって、とても大切な存在なのだから。


「朱華……」


 残念そうに言う声。帰ってこなければよかったと、彼女は思っているのだろう。


 それがわかったからこそ、敵ではないと確信できた。彼女は他の邪教集団とは違うのだと。


「朱華……必ず迎えに行くよ…一緒に村へ帰ろう……」


――無理……私は帰れない。帰るのは私じゃない。あの子がいるから……あの子に全部返さなきゃ――


「あの子?」


 返すとはどういう意味なのか。もしかしたらと思う。朱華に似たあの女性のことだろうか。


 やはり、自分はなにか大切なことを忘れているのかもしれない。朱華と女性に関係する、なにかを。


――大丈夫。あの子はあなたを攻撃しないから――


「なんで?」


 どうして、そのような悲しそうに言うのか。朱華に似た子のことより、朱華のことが知りたいと思った。


 自分の知らない、朱華の抱える問題を知りたいと。


 こうなって気付かされたのだ。自分は幼馴染みである朱華のことをなにも知らないのだと。



――もう行かなきゃ。さようなら、柊稀――


「朱華!」


 姿はどこにもない。わかっていながら、柊稀は咄嗟的に捕まえようと手を伸ばす。


 もちろん、いないのだから捕まえられるわけもなく、彼女の気配が消えていくのだけを感じた。


 それと同時に、どこかへ引っ張られる力を感じる。誰かが呼んでいるような、そんな力だ。


(未来に戻るんだ)


 自分が本来いるべき場所へ自然と引き戻されているとわかり、柊稀は流れに身を任せた。戻らなければ、大切な者を取り戻すこともできない。


 最初の一歩を踏み出すために、まずは自分の時代へ戻る。そして、仲間達と合流しなくてはいけない。


 引っ張られる感覚が止まると、ひんやりとした感覚が肌に触れる。


 帰ってきた。最初に思ったのはそれだった。ここは未来だと。


「闇の塔……」


 過去に行ったときと同じ場所だとわかり、気持ちは落ち着く。どうやったのかはわからないが、飛狛は言った通り竜の神殿へ送ってくれたのだ。


 柏羅だけが気を失っているが、移動の衝撃だろう。小さな身体には、二回目でも耐えられなかったのだ。


ゆっくり立ち上がったが、少し足元がふらつく。それが柊稀の身体にかかった負担なのだろう。


(でも、前よりは軽い。飛狛さんが負担を軽くしてくれたのかな)


 自分が気を失ってないのがその証拠なのだろう。おかげで、すぐに動ける。


(ありがとう、飛狛さん)


 二度と会うことのない彼に感謝しつつ少女を抱くと、塔を出ることにした。迎えがくることになっていたが、帰りはどれぐらいの誤差がでているかわからない。


 竜の神殿は一般公開されているから、誰か見つけることができれば今の日付がわかると考えたのだ。


 塔の外は過去も未来も関係ない。穏やかな風が吹き、暖かい陽射しが降り注ぐ。


「戻ってきたか」


 息を吐くと同時に、低い声が聞こえた。穏やかな風に揺れている黒髪は長く、腰まである。黒い瞳は力強く、一目でわかった。


「魔法槍士……」


 穏やかに笑う飛狛とは、印象が真逆なほど違う。なによりも、魔法槍士としての威圧が強い。


 彼が特殊だと言うのも納得できるというもの。本来なら、これが魔法槍士というものなのだろう。


「そうだ。現在の魔法槍士、黒耀(こくよう)という」


「黒耀さん…」


「黒耀でいい。少し歩いた先に噴水がある。そこで軽く話をしよう」


「はい」


 未来に関わることを渋っていた彼らが、どこまでこの人物に話しているのか。少し興味があった。


 すべてを話しているのだろうか。それともすべては知らないから、自分から聞きたいのだろうか。


 そのどちらかだと思っていた。後者だった場合、自分でうまく話せるだろうかという心配がある。


「座るといい」


「うん」


 過去では魔法で移動した為、初めて見る噴水。陽の光でキラキラ輝く水しぶきは、とてもきれいだった。


 噴水を背に座れば、涼やかな風を感じる。水音に陽射しに風。とても癒される空間だ。


「日付のずれは七日ほど。今は雨竜月(うりゅうづき)だ」


「これで!」


 故郷の雨竜月はもっとジメジメした感じだというのに、それを感じないことに驚く。


「シェサーラは年中この気温だ。冬はさすがに下がるが、厚着する必要はない」


 冬は寒いのにと思ったが、ベル・ロードにも行ったことがあるだけに文句は言えない。


 あの地に比べれば、故郷の村はマシだからだ。あれほど寒くはない。


「詳細は、俺ではなく、こいつから聞いてくれ。黒欧」


――はい――


 黒耀の影が動いたと思えば、穏やかな笑みを浮かべた一人の青年が姿を現す。黒耀に負けないほど長い黒髪に、深緑色の瞳。


 普段は馬の姿をしているのだが、神殿に暮らす者達が通ることもあるため、人の姿で現れた。


――柊稀殿、姿を見せるのは初めましてですね――


 声だけでの対面しかしていないが、柊稀は懐かしい気持ちになる。






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