過去での一時3
今までできなかった分、飛狛とたくさん手合わせをし、汗を流してこいと言われるままに風呂へ。
風呂から出るなり秋星に連れていかれた部屋に入り、柊稀は驚いた。まさかこんなことをしているとは思わなかったのだ。
「せっかくだから、お別れ会的な?」
少し広めの部屋に、飾りつけと料理が並ぶ。過去で知り合ったみんなが待っていて、柊稀は思わず泣きそうになったほどだ。
「泣くなよ」
「泣かないですよ」
「ほんとかなぁ」
すっかり秋星のおもちゃになってしまった柊稀。その光景を見ながら、誰もが笑う。
「さぁ、楽しもうぜ!」
「はーい!」
柏羅が元気よく返事をしたのを合図に、その場は大騒ぎになった。
盛り上げるのは夜秋、秋星の双子コンビだ。絶妙に突っ込む夜秋が、この二人の名物である。
そこに飛狛が引っ張りこまれれば、もはや収集不能。狛琉が止めようとしても無理。
散々騒ぎ、最後は氷那の歌で幕を閉めた。とてもきれいな歌声に、騒いでいたのが嘘のように静まり返った。
明日には帰る。そう思えば、寝付きは悪い。本館と別館の間にある一般公開されている庭へ出てみれば、柏羅もついていく。
「柏羅も寝られない?」
「はい」
彼女にとっては、わけのわからないことが嵐のように過ぎ去った感じかもしれない。
文句も言わず、よくついてきてくれたものだ。もう少しわがままを言ってもいい気がするほどだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……戻って来ますよね」
「戻ってくるよ。僕は信じてる」
「私も、信じてます」
「ありがとう」
戻ったら、琅悸と氷穂にも話そうと思った。朱華は敵じゃないと。
信じてもらうためには、自分が動くしかないのだ。彼女のことを誰よりも知っているのは、自分だけなのだから。
「また、三人で遊びたいです!」
「うん。遊ぼう!」
遊ばれる、なんだろうなと柊稀は内心笑う。そんな日々も、今は懐かしい記憶だった。
広い中庭をよく見れば、そこにはお墓のようなものがある。
少しばかりその場には似合わないなとも思ったが、たくさんのお花が供えられているのをみれば、みんなが望むものなのだろう。
「あれが気になるか?」
「あなたは……飛狛さんの」
「あれの父親だ」
ゆっくり近づいてくる人物は、一輪の花をお墓に供えた。
「これは、白麟の……天竜王の両親が眠る墓だ。王族の墓所は一般人が入れない。民のためにあいつが作ったものさ。先の世にあるかは知らねぇが」
なにか用がある。話し方だけで柊稀はそれを察する。
しかし、この人物がどのような用があるのか。それがよくわからない。
深く関わってもいないし、彼自信も関わらないと言っていた。お別れ会にも彼はいなかったほどだ。
「関わるべきではない。だが、あれを見てほっとくわけにもいかない」
言うべきなのか、酷く迷っていた。
長い沈黙が辺りを包む。静寂は、彼が言うべきか悩んでいる証。
「お前はこのあと、俺と戦うことになると思う。もちろん、俺の予想が当たれば。正直、外れてほしい予想だ。考えたくもねぇ」
一体、彼になにが見えたのか。彼の中で、どんな真実に行き当たったのか。
飛狛の父親だと思えば、その言葉は無視できない。きっと間違ってはいないだろうから。
「打てる手は打つ。正直、お前じゃ俺には勝てない」
「そう、でしょうね」
実力差がわからないほどバカではない。目の前にいる人物は、飛狛と同じかそれ以上だろうと推測していた。
「仲間がいる。それを忘れるな。仲間がいれば、自分より強い奴にも勝てる」
「はい」
「しかし、問題はあいつだよな。それが当たれば、あいつとも戦うのか」
険しい表情を浮かべる白秋。自分のことは自分でどうにかするつもりだった。
けれど、もう一人はと悩む。
「心配はいらないよ。たぶん、相手をするのは巫女護衛だからさ」
穏やかな青年は唐突に現れた。
「巫女護衛だからって、どうにかなるわけ」
反論しようとした白秋は、楽しげに笑う息子へ怪訝そうな視線を向ける。
「さっき聞いた話だと、巫女護衛は彼の血族だって。かなり強いらしいよ」
「……同格か」
「たぶんね」
なら大丈夫かと納得する姿に、一体誰のことなのか気になる。
琅悸に関係のある人物。つまり、彼の先祖の話をしているらしい、ということはわかるのだが。
どれだけすごい人物なのだろうか。聞いても会えないのだから聞くのはやめようと、柊稀は思うことにした。
ただ、いずれこの人と戦う。それは少し不安で、どんな状況なのかと考える。
未来では絶対にいないはずの彼と戦う。きっと、負けられない戦いなのだろうと。
翌朝、現場までついて行くと言った夜秋と秋星を加え、飛狛と共に火炎山へ向かう。
「送り先は竜の神殿にする。そこへ迎いが行くように手配もする」
それが誰かなんて飛狛は言わない。彼が迎いの手配と言うからには、おそらく未来の魔法槍士だろう。
「その先は、柊稀が頑張るだけだよ」
「わかってます」
「お土産は、未来の魔法槍士に託すことにしました。詳しくはそちらから聞いてください」
精霊王から一度だけ手助けを受けられる件。未来で使えるようにしてくれたのは、夜秋であった。
「ありがとうございます」
「それだけじゃねぇから、期待しといていいぜ」
不敵に笑ったのは秋星だ。まだなにかあると彼は言っている。
「術が発動する」
飛狛の言葉を合図に、槍は強く輝き出す。火炎山に元からある力を重ね合わせていく飛狛。
強い光が二人を包み、さらに炎が包み込み、やがてすべては消え去った。光も炎も、二人の姿さえも。
「無事戻れればいいんですが」
「始祖竜がいる。大丈夫だよ」
「なら、俺らも動くか。あー、引き続き休みなしかよ!」
家族に会いたいとこれ見よがしに叫び、秋星は火炎山を出ていく。
(柊稀……頑張れ……)
父親と話し、彼は大方の状態を理解していた。未来がどうなるかは、彼と仲間達に委ねられる。
無事、彼らが幸せになれるよう、飛狛は祈った。過去の世界から――――。
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