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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
二部 過去編
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精霊の森2

 そういえばと氷那は思いだす。儀式のときも、飛狛は身体をおかしくした。


 あのときは儀式の影響だと思っていたし、狛琉もそうだろうと話していたのだが。


(あのときも、飛狛さんは精霊喰らいに反応していたのかも)


 もしも精霊が集まったことで彼が不調になったのなら、それ以降にもあったはず。


 精霊の儀式は可能な限り参加していたし、氷那が歌うことで精霊は集まるが、歌っても飛狛は平然としていた。


「とりあえず、いっちょやるか!」


「ですね」


 二人が武器を手に飛びかかるのは同時。挟むように左右から斬りかかると、その獣は風圧で二人を弾く。


「精霊を食べたら食べただけ、強くなるのか!」


 昔とは違う強さに、狛琉は警戒する。双子は魔法槍士の家系。実力は間違いなくこの中で一番だ。


 そんな二人をあっさりと吹き飛ばす力は侮れない。


「ちっ、ここには餌がいくらでもあるってか!」


「甘くみないでもらいたいですね!」


 木へ叩きつけられそうになり、二人は難なく逃れる。


 すぐさま体制を整え、夜秋が斬りかかった。槍から放たれる振動が、吹き飛ばそうとする力を防ぐ。


「タフだよなぁ」


「ですね。柊稀さん、なにか見えたら教えてください」


「うん……」


 双子の攻防をみながら、なんて呑気なのだと言いたくなる狛琉と氷那。


 会話だけ見れば呑気だが、狛琉はしっかりと剣を持っているし、氷那は周囲を警戒している。


 二人の視線は鋭く精霊喰らいを見ていた。一瞬も逃さないように。


「ちっ、竜族を甘くみるなっつうんだよ!」


 食べた精霊で能力も強化されるのか。吹き飛ばすのは風の力。風の精霊を食べた分だけ威力があがり、大地の精霊を食べただけ結界は強くなる。


 結界を破壊しないことには傷ひとつ付けられないと悟り、秋星が二本の剣を構えた。


 風が吹き荒れ、剣へ巻き付く。輝くのは魔技の発動を意味し、柊稀はじっと見た。


 手合わせをするときは一本の剣で魔技も使わない。二刀流に興味があれば、二刀流が使う魔技にも興味があった。


風刃斬(ふうはざん)!」


 十字に放たれた風の刃。一直線に結界へ向かい、ぶつかった瞬間にミシッと音を立てる。


霊波槍(れいはそう)!」


 追い討ちをかけるよう、さらに夜秋の槍が軋んだ結界へ突き刺さった。


「壊れた!」


 柏羅が嬉しそうに跳び跳ねると、氷那は獣へ向けて氷の刃を放つ。


「狛琉さん、柊稀さん、結界を張らせないでください!」


 ここには力の源となる精霊がたくさんいる。すぐに倒さなくては、また精霊を食べて強い結界を張られてしまう。


 警告を受ければ、二人はすぐさま斬りかかった。強い結界を張られれば、壊すのがさらに大変になってしまう。


 双子に負担をかけることになるのだ。


 二人が足止めするように攻撃をし、夜秋と秋星がダメージを与える。その繰り返しで少しずつ力を削いでいった。


 精霊喰らいが弱っていき、秋星の放った風が身体を切り刻む。


 見た目と同じよう獣の断末魔を上げ、身体が砂のように崩れ落ちた。


「ハァハァ…お、終わった?」


 こんなに激しく動いたのは、初めてのこと。柊稀は体力のなさを痛感した。


「そうみたいですね」


 崩れ落ちた砂が微動だにしないのを確認し、氷那もホッと息を吐く。


「んー、明日から体力作りも必要だな」


「あ…あはは」


 自分のことを言われているとわかり、柊稀は力なく笑う。強くなる前に体力が必要だったようだ。


「私も、体力作りします」


 ぎゅっと抱きついてくる少女に、みんな笑みを浮かべる。やはり場の空気を和らげるのは彼女の存在だ。


「よしよし、柏羅もやろうな」


 そして、やはりというか少女には甘かった。


 一同が盛り上がっていると、辺りの空気が変わっていく。なにかがいるような重い空気になったのだ。


――精霊喰らいを倒してもらい、感謝する――


 姿は見えないが、確かに精霊がいる。それも、精霊王だと直感がいう。


「精霊王ですね。私は精霊の儀式をやらせて頂く、フェンデの巫女です」


――知っている。巫女に頼みがあるのだ――


「お任せください」


 言われなくても氷那にはわかっていた。だから、彼女は問いかけることもなく即答する。


 森の中へ澄んだ歌声が響き渡る。歌声に乗せ、魔力が柔らかく森へ広がっていく。


(きれいな歌声)


 ついつい、うっとりと聞き入ってしまう巫女の歌声は、精霊にとって癒しの歌声となる。誕生を促す力となる。


 儀式の間では実感できないことだが、精霊の森で巫女が歌えば目に見えて効果は発揮した。






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