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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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父が残した物4

 魔眼とは、隔世遺伝されるといわれる能力のひとつ。能力は発現してみなければ、どのようなものなのかわからず、発現しない者も中にはいる。


――発動時、瞳が紫に変わるのが魔眼です。ですが、あの二人は珍しいことに、魔眼持ちであることが表に出ています――


 片目が紫なのは、そういった原因があるからなのかと納得する柊稀。


「それで、夜秋殿の力が今言われたものなわけか」


 やばいと黒燿の表情は険しくなる。それは琅悸も同じことで、魔力を奪うということは結界魔法など効果を成さないと気付いてしまった。


「琅悸……わりぃが、俺を……夜秋の元へ……」


 連れていけと鋭い視線が言っている。


 身体は一人で動かせる状態ではなく、誰かに連れて行ってもらうしかない。


「秋星!」


 それに対し、やろうとしていることがわかる飛狛が止めにかかる。今の秋星にやらせるわけにはいかないと。


「なら……どうする……あれは、飛狛でも……無理だ……」


 飛狛には魔眼を封じる術がない。ないというよりは、夜秋の力を抑えることはできないという意味だ。使った魔力は奪われてしまうから。


 わかっているが、秋星の魔力自体も現状は足りていない。


「足りねぇ力は……夜秋で補う……」


 力不足は誰よりも理解している秋星。けれど、彼だからできる手がある。


「やらせろ! 飛狛!」


 カッと目を開くと、右目が強い輝きを放ち始めた。魔眼を使っているとわかれば、琅悸は意を決したように秋星の身体を支えて進む。


「……わかった。その魔力は、俺が出せばいいんだろ」


 強引に発動させられた魔眼。それを苦しげに抑えようとする夜秋に、飛狛が視線を向ける。


「夜秋! 俺と繋いで、飛狛の力を奪え! そいつを止めてやるから!」


 なにをやるのか、という視線が飛び交う仲間達。中でも、秋星を支えている琅悸が巻き込まれるのではないかと、氷穂はハラハラしていた。


「安心しろ。秋星といれば巻き込まれない」


 気付いた李黄が言えば、驚いたように見る。


「夜秋の魔眼は、周囲の魔力と生命力を根こそぎ奪うが、秋星の魔眼は無効化させる。あれに、夜秋の魔眼は効かない。それどころか、魔眼の繋がりで魔力の横流しまで出来る」


 双子であることから、魔眼も二人でひとつなのかもしれない。それが左右色違いの瞳に表れているのではないか、とは昔の主が言っていた言葉だと李黄が言う。


 近づいた秋星が、ここまででいいと琅悸から離れた。誰かを護りながらやれるほど、今の状態が万全ではないことを理解しているからこその行動だ。


「夜秋……俺の目をしっかり見ろよ」


 そうじゃなきゃ、今の自分ではやれない。言われている意味は夜秋も理解できる。片割れの状態は誰よりも理解しているし、本来ならこのようなこともさせたくはない。


 けれど、自分で抑えられないなら止めてもらうしかないこともわかっている。


 二人の瞳が強く輝き、抑えようとする力とそれに抗う力が拮抗した。


「なに……これは、封印の力?」


 戸惑った声は、秋星の力に驚く。彼の力は魔眼を無効化すると思われていたのだ。それは間違ってはいない。


 間違っていないのだが、それとは別にもうひとつ力があった。それが封印の力だ。効果は飛狛の力すら抑えるもの。彼が歯止め役と言われる理由は、この力あってのこと。


 力が不足して不安定ではあるが、夜秋は飛狛から魔力を奪い、秋星に流すことで補う。それが夜秋にできる最低限のことだが、苦しげな表情から強引にやっていることもわかる。


「声の持ち主がやった、と思うべきなのかな」


 陽霜は、これを誰がやっているのかと疑問をぶつけた。


 合流してみれば、とんでもないことになっていると陽霜は驚く。双子が傷だらけなことも気になるところだが、今は目の前のこと。


「ちげぇな。あれじゃない誰か、それがいる。夜秋は魔眼の制御ができねぇガキじゃない。力をほぼ使い切って無抵抗なところ、魔眼の制御権を奪われてるんだ。秋星の力は想定外だったみてぇだが」


 ユフィも珍しく真顔で様子を見ている。彼の魔眼が抑えられなければ、間違いなくこの場の全員を全滅させられるからだ。


 例外などない。精霊である自分ですら、彼の魔眼から逃れることはできない。飛狛ぐらいなら無事かもしれないが、とは思うが、確証はない。


「夜秋お兄ちゃん……秋星お兄ちゃん……」


 祈るように柏羅が二人を見ている。柏羅にとっても双子は特別だったから。


 誰もが祈ることしかできない中、夜秋の身体は力を失い崩れ落ちた。ぐったりとした身体を受け止める秋星も、そのまま支えきれずに崩れ落ちる。


 どうやら、無事に抑えられたらしい。


 荒い呼吸を繰り返す二人に、慌てたように駆け寄るのは陽霜と星霜だ。魔眼の知識などないが、診られる範囲は診ようと思ってのこと。


 天竜王の家系が医療を得意とするのは、今の時代も変わらない。噂の酷さで隠れているが、双子の天竜王も得意なのだ。


「夜秋……」


 腕に抱えた片割れは、未だ苦しげにしており、状態は最悪だとわかる。


 無理矢理に魔眼を発動させられた上に、その力は限界を超えるほどまで引き上げられた。当然ながら、身体にかかる負担は今までの比ではない。


 先程の戦闘で負ったダメージも大きいだけに、このままではいけないとわかる。わかるが、ここが未来である以上、手段がなかった。


 今までにないほどの怒りを覚えていた秋星。正直なところ、夜秋でここまでの怒りを感じるとは思っていなかった。


「許さねぇ……」


「秋星?」


 怪我の手当てをしていた星霜が、どうしたというように見る。


「ぜってぇ……許さねぇぞ!」


 次の瞬間、秋星の怒声と同時に黒い気が膨れ上がった。


「やめろ! 秋星!」


「止めるな! 飛狛!」


 片割れをこのような目に遭わせた誰か。それを許す気はないと、秋星の力が膨れ上がっていく。どこに残っていたのか、と思わせるほどの力が。


 縦に金色の瞳孔が入った瞳に変わっている姿を見れば、やばいと思ったのは飛狛だけではなかった。


「やめるんだ! 秋星! それ以上はお前の身体が耐えきれない!」


 李黄が怒鳴れば、驚いたのは華朱だ。彼女がここまで誰かに肩入れする姿を、見たことがなかったから。


「やめろ……これは、命令だ!」


 今まで、一度だって魔法槍士として命令したことのなかった飛狛。補佐官とは自分の下につく存在ではあるが、二人には命令などしたくはなかったのだ。


 けれど、これを止めるには他に手がない。


 補佐官という肩書きをもつ以上、飛狛が命令だと言えば、秋星は従うしかないのだ。


「秋星……俺にやらせろ。お前の、その怒りもすべて、俺が預かる」


 しばらく睨み合っていた二人。やがて、秋星が力を完全に解いて視線を逸らした。


「……命令、だからな。俺は引く……」


 納得はしていないが、命令には従う。秋星が落ち着いたのを見れば、飛狛は小さく魔法陣を描く。


「みゅー!」


 魔法陣から、小さな獣が姿を現す。真っ白な獣は、どことなく嬉しそうに尻尾を振っていた。


「あれは…聖舞(せいむ)


 巫女殿にいるはずの聖獣。それがなぜと思ったのは最初だけで、すぐさま気付く。この聖舞は自分達といる聖舞ではないと。


「黒欧……止めるなよ」


――……止めたいというのが本音ですが、お二人の怒りも理解しています。それに、現在の主ではありませんから……――


 自分に止める権利はないと、黒欧が言う。そこまで確認すると、それ以上はどうでもいいというように飛狛が動いた。


 今までにない威圧を放ちながら。






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