父が残した物3
失敗は許されない。自分達の手でやるためには、これで決めなくてはいけないのだ。
(信じてるのか)
(飛狛の動く気配はない。けれど、これを失敗すれば……)
甥であり、魔法槍士である飛狛が動く。彼が一人で動くだろう。琅悸の手助けなど受けない。
そうなれば、どのようなやり方をするかも容易に想像がつく。あの力を全力で使うと断言できた。それだけはさせるわけにはいかないのだ。
自分達以上に身体へ負担がかかってしまうから。可愛い甥にそのようなことをさせるわけにはいかない。
(あれをやらせるわけにはいかない)
(絶対、飛狛に回しちゃいけねぇ!)
二人の力は共鳴し、互いの力を高め合うように上がる。
膨れ上がった魔力には、さすがの飛狛も驚いた。見たこともないほどの魔力。双子の底力だろう。
(終わらせる!)
秋星が一歩を踏み出す。足元を風が渦巻き、紫の瞳が強く輝いた。
(終わらせてみせます!)
一秒の狂いも見せず、夜秋も踏み出す。同じように紫の瞳を輝かせながら。
(そうか……魔眼が共鳴して、魔力を底上げしてるのか……)
瞳が輝くのを見て、飛狛はなぜここまで魔力が膨れ上がったのか理解した。
二人のコンビネーションは、飛狛も認めるほどの良さ。一瞬の狂いも起こさず、一切のハンドサインもない。アイコンタクトせずに、互いに同じ考えで動くのだ。
「まるで、一心同体だな。双子だからなるってもんじゃない。これも父親が意図的にやったのか。それとも、父親を越えるために自分達でやったのか」
自分も双子だからこそ、星霜はすごいと思えた。陽霜との戦い方に関して、タイプ的には同じ双子だと思っていたが、これは真似できるものではない。
――後者だ。あいつも、初めて見たときは驚いてたさ――
珍しく話しかけてきたのは、魔法槍士に仕えるもう一匹の魔道生物。銀梨という名の白い馬だ。
「なるほど」
この魔道生物は一時期主から離れていた。話だけは聞いていた為、その間に紅飛といたのだろうとわかる。
「これなら、やれるかもしれないな」
自分が相手でも、琅悸は苦戦を強いられるだろうと苦い表情を浮かべた。双子の実力で隙のない戦いをされれば、一筋縄ではいかない。
やれなくはないが、やるための労働力は尋常ではないだろう。
二人の武器が同時に輝く。見た目は同時だ。だが、琅悸は見逃さない。
微かに二人はずれている。ここにきてずらすということは、そのことに意味があるということ。
結末はすぐそこまできていた。
甲高い鳥の鳴き声。崩れ落ちた身体と転がる竜玉。すぐさま鳥が竜玉を拾う。二度と利用させないというように。
「終わった……」
「秋星!」
限界を迎えた秋星の身体が倒れ、琅悸が受け止める。
「……わりぃ」
「いや…」
見た目以上のダメージ。怪我だけではなく、内側にもダメージを受けているようだ。これでは歩くこともできないだろう。
これ以上、彼をつれていくわけにはいかない。
腕にかかる重みを感じながら、琅悸の視線は黒耀へ向けられる。
どうするかと問いかけているのだ。置いていくにも、敵地と考えれば無謀なこと。
襲われれば、彼に戦う力は残されていない。過去から来た彼らは協力する必要などないのに、手助けをしてくれた。
見捨てることなど、当然ながらできない。敵はまだどこかに潜んでいる可能性があるのだから。
(抱えてでもつれていくべきか。戦闘になれば氷穂といてもらえば、護れなくもない)
悩んでいれば、隣から槍が落ちる音が響く。
「夜秋!」
(あっちもか)
ふらりと倒れ飛狛が慌てて受け止めるのを見て、琅悸は険しい表情に変わる。さすがに二人も抱えていくことはできない。
だからといって、戦えない二人を放置するわけにもいかないだろう。敵が過去から来た二人を見逃してくれる可能性も低いと思えた。
ふらついた身体を見て、飛狛は慌てたように受け止めた。
「夜秋!」
「大丈夫…です……」
大丈夫ではない。見た目の怪我は秋星ほどではないが、使った力は夜秋の方が強かった。
彼は秋星のように、力を抑えることはしていないからだ。
「夜秋…」
彼がここまで力を使ったのは初めてのこと。普段は力を抑えないとはいえ、秋星に負担をかけないために力を多用することはない。
双子の弟は自分の歯止め役であり、飛狛の歯止め役でもあるからだ。
「すみま…せ…ん……」
なにかを言おうとした瞬間、夜秋の身体がビクリと跳ねた。そのまま、慌てたようにふらつく身体を引き離す。
「夜秋!」
明らかな異変に、飛狛が精霊眼を発動させた。なにが起きているか見るためだ。
「クッ……」
苦しげに左目を抑え込む夜秋に、他の仲間達もなにかが起きていると気付く。
「一体、なにが起きて……」
「近づくな!」
気になった柊稀が近づこうとした瞬間、険しい表彰を浮かべた飛狛が止める。
「……ふざけた……真似、しやがって……」
事態を理解した秋星が、怒りの表情を浮かべる。夜秋になにが起きているのか、彼は正確に理解していた。
「なんでぇ? 最高でしょ!」
どこからか聞こえてきた声に、ふざけるなと怒鳴る秋星。先程、父親を利用されたときに見せた怒りよりも、さらに強い怒りを見せている。
「夜秋の魔眼を……強引に発動させたのはお前か」
同じように怒りを露わにする飛狛は、どこかを睨みつけた。まるで、そこにいるとわかっているかのようだ。
「最高の力じゃない! 周囲の魔力も生命力も、根こそぎ奪う力なんて!」
姿の見えない誰かが、笑いながら言う。これほど最高の力があれば、この場の全員を殺せると。
「魔眼って……」
それは一体なんなのか。わからないと柊稀が仲間を見れば、誰もが困惑したような表情を浮かべる。
少なくとも、彼らの中に魔眼を持つ者がいなければ、知識として知っている者もいない。黒燿ですら、魔眼という存在は知っているがそれだけだ。
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