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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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双子の決意4

 二人の魔力が互いに影響を与えて高めているのはわかるが、それを続ければどうなるかは容易にわかる。身体が耐えきれなくなると。


「ふざけるな……」


 そんなこと許せるわけがない。


「ふざけんな……ふざけんな!」


 飛狛の怒鳴り声に、誰もが驚いたように彼を見る。魔法槍士として穏やかに笑う青年が、一人の青年として感情を剥き出しにしているのだ。


「相討ちなんて許さない! 約束しただろ!」


 約束という言葉に、二人の魔力は高まりを止める。


「俺の任期が終わるまで傍にいるって。もう一人じゃないって……俺を支えるって言っただろ!」


 ハッとしたように今度は動きが止まった。


 先程、飛狛の過去を覗いてしまった柊稀達は、言葉の意味を正確に理解して俯く。彼の孤独を知ってしまったからこそ、双子がどれほど大きな存在か知っている。


「また……一人にするの……」


 小さく呟かれた言葉に、高まっていた魔力が急速に静まっていく。


 いくらでも返す言葉はあったはずなのだ。二人がいなくなっても、彼には仲間がいる。


 今は妻もいて家庭を築いているのだから、一人ではない。支えてくれる存在は十分すぎるほどいるのだ。


「飛狛…」


 振り返った先で、青年は昔と同じように不安げで、寂しそうな表情を浮かべていた。今にも涙がこぼれ落ちるのではないか、と思うほど素だ。


(そう、だったのか……)


 昔はよく見た表情だった。いつから見なくなったのかと考えれば、秋星は自分の判断が間違いだったと気付かされる。


(俺達は不要じゃなかった……)


 いてもいなくても同じだと思っていたことは、間違いだと気付かされてしまった。


(そうだったんですね)


 夜秋も同じようにすべてを察する。


 死ねない。かわいい甥を見て夜秋はそう思う。自分達が支えてこそ、彼は魔法槍士として振る舞えるのだと気付いてしまったから。


 今ここで死んでしまえば、彼は二度と魔法槍士としてやっていくことはできない。それは、元の時代に戻れても未来が変わるということでもある。


 知らないうちに、自分達は三人で魔法槍士となっていたのだ。




 才能は間違いなくあるはずの少年は、青年になっても変わらない。両親に、祖父に、妹に劣等感を感じ、いつも自信なさげにしていた。


 自分は弱いと思い込み、夜秋よりも強いはずなのに負け続けたのも、すべて自信がないから。


「自信がつけば、もっと伸びるんだけどなぁ。親父じゃ無理だし」


 誰かに一度、勝たせた方がいい。父親が言っているのを聞き、名乗り出たのは夜秋だった。


「お前ならちょうどいいかもな。けど、いいのか?」


「僕より強いのは事実ですから」


 穏やかに笑って、それで済ませる。これは自分のためでもあるのだと。実力差が明らかになれば、自分の力がどの程度なのか把握できると思っていた。


 飛狛ではないが、自分の周りは超人だらけ過ぎてわからない。これが普通なのか、弱いのかもわからないのだ。


 結果は、かわいい甥が超人なのだとわかっただけ。自分の力がどのようなものかはわからなかった。


 わからないことで、さらに自棄を起こしたこともあったし、いつ死んでもいいとすら思っていたのも事実。死ぬためだけに日々を過ごしていたが、妻は気付かせてくれた。


 三人で過ごす日々に、本当は救われていたのだと。


 力の使い方が同じで、でも強さは違う。それは秋星を見て学んだ。


 そして、なにが違うのか必死に考えた。


「……約束は、守らないといけないですよね」


 護るものがあるかないか。これは大きいのだと知れた。妻はもちろんだが、夜秋が一番護りたいのは秋星と飛狛。


「……そうだったな。俺ら、約束した。死ぬときも一緒だと」


 同じ苦しみを味わい、同じものを背負う。死ぬとき、もしくは飛狛が引退するまで、ずっと一緒だと約束した。


「ここで、死ぬわけにはいかねぇか」


 秋星がなんとか立ち上がると、夜秋が近寄り支える。まだ彼の方が余裕はあるようだ。


「ですね…そうなると、こちらを使いましょう」


 胸元から黒いペンダントを取り出す夜秋。同じように秋星が取り出せば、黒耀が驚いたように二人を見る。


 それが一体なんなのか、彼だからわかるのだ。


「僕達は、魔法槍士が得るものはすべて得てきましたから」


「驚くことじゃねぇよ」


 すべては父親のやったこと。父親が二人に与えたものだ。


 黒水晶――魔法槍士のみが手にすることを許されたもの。強力な武器を作りあげる以外、一般的には知られていない。


 使いこなす方法に至っては、魔法槍士でも知らないと言われている。


「これは、父さんが持っていた物です」


「俺達にくれた。ヤバイときにはこれを使えってな」


 だから使ったことはないが、父親が言うのだから意味があるのだ。


 自分達の手でやるには、これがラストチャンスとなる。これを使ってもダメなら、飛狛に委ねるしかない。


「これでダメなら、本当に飛狛へ任せますよ」


「夜秋…」


 それがどれだけ悔しいことなのか、飛狛には痛いほど通じた。


 夜秋の表情を見て、自分が初めて勝った日と同じだと気付く。あのときも、こんな表情だったと。


「無駄よ無駄よ。この人、強いんでしょ」


 嘲笑うような声に、飛狛が鋭い目付きで睨む。声の持ち主がどこにいるのか、予想がついているのだろう。


 なにかあればすぐに動くつもりだ。造られた祖父へ。姿を見せない敵へ。大切な二人を護るために。


 飛狛が魔法槍士としての姿を取り戻せば、双子もようやく本来の姿を取り戻した。


 戦いはこれからだ。






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