双子の決意4
二人の魔力が互いに影響を与えて高めているのはわかるが、それを続ければどうなるかは容易にわかる。身体が耐えきれなくなると。
「ふざけるな……」
そんなこと許せるわけがない。
「ふざけんな……ふざけんな!」
飛狛の怒鳴り声に、誰もが驚いたように彼を見る。魔法槍士として穏やかに笑う青年が、一人の青年として感情を剥き出しにしているのだ。
「相討ちなんて許さない! 約束しただろ!」
約束という言葉に、二人の魔力は高まりを止める。
「俺の任期が終わるまで傍にいるって。もう一人じゃないって……俺を支えるって言っただろ!」
ハッとしたように今度は動きが止まった。
先程、飛狛の過去を覗いてしまった柊稀達は、言葉の意味を正確に理解して俯く。彼の孤独を知ってしまったからこそ、双子がどれほど大きな存在か知っている。
「また……一人にするの……」
小さく呟かれた言葉に、高まっていた魔力が急速に静まっていく。
いくらでも返す言葉はあったはずなのだ。二人がいなくなっても、彼には仲間がいる。
今は妻もいて家庭を築いているのだから、一人ではない。支えてくれる存在は十分すぎるほどいるのだ。
「飛狛…」
振り返った先で、青年は昔と同じように不安げで、寂しそうな表情を浮かべていた。今にも涙がこぼれ落ちるのではないか、と思うほど素だ。
(そう、だったのか……)
昔はよく見た表情だった。いつから見なくなったのかと考えれば、秋星は自分の判断が間違いだったと気付かされる。
(俺達は不要じゃなかった……)
いてもいなくても同じだと思っていたことは、間違いだと気付かされてしまった。
(そうだったんですね)
夜秋も同じようにすべてを察する。
死ねない。かわいい甥を見て夜秋はそう思う。自分達が支えてこそ、彼は魔法槍士として振る舞えるのだと気付いてしまったから。
今ここで死んでしまえば、彼は二度と魔法槍士としてやっていくことはできない。それは、元の時代に戻れても未来が変わるということでもある。
知らないうちに、自分達は三人で魔法槍士となっていたのだ。
才能は間違いなくあるはずの少年は、青年になっても変わらない。両親に、祖父に、妹に劣等感を感じ、いつも自信なさげにしていた。
自分は弱いと思い込み、夜秋よりも強いはずなのに負け続けたのも、すべて自信がないから。
「自信がつけば、もっと伸びるんだけどなぁ。親父じゃ無理だし」
誰かに一度、勝たせた方がいい。父親が言っているのを聞き、名乗り出たのは夜秋だった。
「お前ならちょうどいいかもな。けど、いいのか?」
「僕より強いのは事実ですから」
穏やかに笑って、それで済ませる。これは自分のためでもあるのだと。実力差が明らかになれば、自分の力がどの程度なのか把握できると思っていた。
飛狛ではないが、自分の周りは超人だらけ過ぎてわからない。これが普通なのか、弱いのかもわからないのだ。
結果は、かわいい甥が超人なのだとわかっただけ。自分の力がどのようなものかはわからなかった。
わからないことで、さらに自棄を起こしたこともあったし、いつ死んでもいいとすら思っていたのも事実。死ぬためだけに日々を過ごしていたが、妻は気付かせてくれた。
三人で過ごす日々に、本当は救われていたのだと。
力の使い方が同じで、でも強さは違う。それは秋星を見て学んだ。
そして、なにが違うのか必死に考えた。
「……約束は、守らないといけないですよね」
護るものがあるかないか。これは大きいのだと知れた。妻はもちろんだが、夜秋が一番護りたいのは秋星と飛狛。
「……そうだったな。俺ら、約束した。死ぬときも一緒だと」
同じ苦しみを味わい、同じものを背負う。死ぬとき、もしくは飛狛が引退するまで、ずっと一緒だと約束した。
「ここで、死ぬわけにはいかねぇか」
秋星がなんとか立ち上がると、夜秋が近寄り支える。まだ彼の方が余裕はあるようだ。
「ですね…そうなると、こちらを使いましょう」
胸元から黒いペンダントを取り出す夜秋。同じように秋星が取り出せば、黒耀が驚いたように二人を見る。
それが一体なんなのか、彼だからわかるのだ。
「僕達は、魔法槍士が得るものはすべて得てきましたから」
「驚くことじゃねぇよ」
すべては父親のやったこと。父親が二人に与えたものだ。
黒水晶――魔法槍士のみが手にすることを許されたもの。強力な武器を作りあげる以外、一般的には知られていない。
使いこなす方法に至っては、魔法槍士でも知らないと言われている。
「これは、父さんが持っていた物です」
「俺達にくれた。ヤバイときにはこれを使えってな」
だから使ったことはないが、父親が言うのだから意味があるのだ。
自分達の手でやるには、これがラストチャンスとなる。これを使ってもダメなら、飛狛に委ねるしかない。
「これでダメなら、本当に飛狛へ任せますよ」
「夜秋…」
それがどれだけ悔しいことなのか、飛狛には痛いほど通じた。
夜秋の表情を見て、自分が初めて勝った日と同じだと気付く。あのときも、こんな表情だったと。
「無駄よ無駄よ。この人、強いんでしょ」
嘲笑うような声に、飛狛が鋭い目付きで睨む。声の持ち主がどこにいるのか、予想がついているのだろう。
なにかあればすぐに動くつもりだ。造られた祖父へ。姿を見せない敵へ。大切な二人を護るために。
飛狛が魔法槍士としての姿を取り戻せば、双子もようやく本来の姿を取り戻した。
戦いはこれからだ。
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