双子の決意3
すべてが終わったあと、飛狛の扱いはまた変わった。正式に魔法槍士の後継者として公表されたのだ。
周りからの好奇の視線を浴び、頼りないと噂が流れ、それでも心配かけないよう必死に笑う。造り笑顔しか見せなくなった。
同じで同じではない。ハッキリと感じた瞬間だった。
「自分からそれを望むのか」
決意の眼差しを向ける幼い双子に、父親は真剣な表情で問いかける。
「望む。僕は、僕達は飛狛の傍にいる」
「俺達は、なにをしても許されるから。そのために最後の教えをくれよ」
魔法槍士が独自に使う、末裔の力の使い方。それが絶対に必要だと、二人は思った。
彼が継いだとき、同じ道を進んでいくために。魔法槍士と同じものを手にする。
「……早死にするぞ」
「わかってんだよ! 死ぬまで飛狛といてやるさ!」
「死ぬまで……今のままだと、秋星が先に死にそうだよね」
「うっせぇ! どうせ、俺は弱いですよーだ!」
拗ねたようにそっぽ向く秋星に、夜秋と父親が笑う。
懐かしくも遠い昔の記憶。
「秋星!」
地面に叩きつけられた身体。これが何回目になるかもわからない。痛みなど、すでに感じなくなっていた。
(昔と、なんも変わってねぇ。結局、俺は弱いままだ。夜秋にも劣る)
ぼんやりとした霞む視界。父親の姿を見ながら、父親と過ごした日々を思いだす。
「なぁ、なんで俺の精霊石、変化しねぇの? 夜秋はあんなに変化したのに」
秋星は精霊石を育てる、という行為に苦戦していた。教わった通りにしているのに、精霊石はまったく変化しなかったのだ。
「夜秋は、確かに優等生だ。なにをやりたいって、迷いがないんだろうな」
俺だって迷ったのに、と父親が笑った。
「迷ったのか?」
幼い秋星が知る限り、父親が迷ったりする姿は見ていない。いつも真っ直ぐ、自分の道を歩いていた。
そんな父親のうしろ姿は、秋星にとって憧れだ。
「まぁ、な。六歳でもらったが、俺が変化させたのは四年後だ」
無敵と信じるほど強い父親が、四年もかけた。信じられないと見上げれば、苦笑いを浮かべる。
「迷うことは悪いことじゃない。ゆっくり考えろよ、付き合ってやるからさ」
幼い少年が悩む姿を知っている父親は、いくらでも付き合うと笑った。その迷いが晴れるまで、どこまででも付き合ってくれた。
優しく笑いかけてくれた父親。厳しくて、けれど誰よりも理解してくれた、秋星にとって自慢の父親だ。
自慢の父親をこんな風に利用された。許せるわけがない。絶対に許せないことなのだ。
(なんとか、俺達の手で……)
自分達の手で、造られた父親を消したかった。どれだけ無謀なことだとわかっていても、それは息子としてどうしてもやりたかったこと。
しかし、気持ちに身体はついていかない。起き上がろうとしているのに、まったく力が入らないのだ。
(このまま、ここで死ぬ……)
そうしたら、どうなるのだろうか。過去に戻ることができない。それだけだと秋星は思った。それによってなにか変化があるわけではない。
(俺達は、所詮飛狛の下にいるだけだ)
抜け道であるということは、彼を支えることに役立ちはした。したのだが、いてもいなくても同じ存在であるということでもある。
魔法槍士ではない自分達は、歴史を変えるほどの存在ではない。まったく変わらないわけではないが、それは個人的なもの。
子供もいるのだから、産まれる予定の命が産まれない、などということもない。
(なら……)
どんな戦い方をしてもいいと思えた。目的のために手段は選ばないと決めたのだから。
片割れもそのつもりだ。秋星が動けば夜秋も動くとわかっている。あとは、必要な力を解放するだけでいい。
高まっていく力を感じ、夜秋がチラリと視線を向ける。片割れがなにをやろうとしているのか察したのだ。
(秋星…まさか、あなたが先に動くとは……)
一番力を使うことを避けてきた。力を過度に使えば、命を削るからだ。それが魔法槍士と同じ力の使い方をするということ。
家庭を大切にする秋星は、なるべく命を削らないよう。一分一秒でも長く生きるため、基本的に剣以外を使わない。
そんな彼が自ら命を削る選択をした。ならば、夜秋に拒否する気持ちはない。
「飛狛……これでダメでしたら、あとお願いしますね」
にっこり笑うと、飛狛の表情が強張った。高まっていく二人の力は、嫌な予感しかしない。
「なにをする気だ」
「なにって、力を使うだけですよ。ただ、それだけです」
彼の直感が違うと感じる。ただ力を使うだけではない。これは、もっといやな使い方だ。それこそ、命を捨てるやり方だと、飛狛の直感が訴える。
「……たとえ、相討ちになっても……あれだけは僕達でやります!」
黒い影が身体を覆う。力が高まり、魔力が溢れているようだ。その溢れる魔力は、飛狛から見ても異常なもの。
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