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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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双子の決意

 駆け下りる階段。開かれた扉を通り、光り溢れる中庭へ飛び込む。


「夜秋!」


「秋星殿!」


 吹き飛ばされた身体を慌てて受け止めたのは、琅悸と虚空の二人だ。


 向かいからゆっくりと歩いてくるのは、一人の男性。赤混じりの黒髪に黒い瞳。頬には深く刻まれた傷跡。


 無機質な表情に、造られた存在だとすぐさま察した。


「ユフィ、あなたわかるのよね?」


 絶句している精霊は、今までとは反応が違う。それは、双子も同じこと。


「離してください!」


「ちょっ」


 受け止めた琅悸を弾くと、槍を握り締めて斬りかかる。隣で虚空が同じように弾かれ、秋星が攻撃体制に入った。


「少し落ち着け!」


 誰が見ても、二人が感情的なのは明確だ。こうまでも二人が感情的になるとは、さすがに思ってもみなかったこと。


 二人とも魔法槍士補佐官という肩書きを持つだけあって、なにがあっても冷静に対処できる。


 それなのに、琅悸が落ち着けと促すが、二人には届かない。


「手を出すな!」


 止めに入ろうとした虚空へ、秋星が剣を突きつける。


「お前らは、絶対に手を出すな」


 見たこともない表情を浮かべ、手を出せば仲間であろうが容赦しないと鋭い目付きが言う。


 ふざけていた面影はどこにもない。どちらも表情から見えるのは怒りだ。


「どうしたんだ、あの二人。ユフィ、わかるんだろ」


 お前は知っているはずだと琅悸は問いかける。あまり関りがないと言いながらも、目の前に現れた男性を見て絶句している姿は、なにか知っているということだ。


「……あれは、紅飛(こうひ)だ。飛狛の先々代魔法槍士。二人の…父親……」


 苦しげに吐き出された言葉に、琅悸は男性を見る。言われてみれば赤混じりの髪も同じだが、雰囲気も似ている部分があった。


 双子にわざと父親をぶつけてきたのかと、相手の考えに苛立ちを覚える。


 邪教集団のやっていることは、死者を道具のように扱うだけではなく、こちら側の心理すら利用してくるやり方だ。


 明らかに、双子を狙ってやっている。


「聖なる王の後継人じゃねぇか。強いのか?」


 有名な魔法槍士だと星霜は言う。聖なる王が憧れである双子の天竜王は、彼に仕えていた魔法槍士についても当然詳しい。


 特に、後継人となっていた人物に関しては、ピナスで本を見つけたときに徹夜で読みふけったほどだ。


「強いなんてもんじゃねぇよ。あいつは黒竜王と火竜王の力を持つんだぞ」


 どちらも戦闘能力が高い。その力を魔法槍士が使えば、尋常ではない力になる。


 それを誰よりも知っているだけに、星霜は言葉を失う。つまり、ここにいる誰よりも強いということではないのかと。


「飛狛と俺でやるしかないか」


 当然ながら、琅悸にも意味がわかっていることだ。末裔である以上、その力の強さを誰よりも理解している。


 だが、飛狛はこちらにいない。その上、怒り狂った双子が乱入を許さない状況。


「確かに、琅悸と飛狛なら対応ができるだろうが」


 ユフィも正確な力を理解していないことから、不安は残る。それでも、飛狛と琅悸の実力は理解していることから可能だろうとも思えた。


「あの二人が手出しを許さないとダメだな」


 虚空が険しい表情で戦いを見る。どう見ても戦況は二人に悪い。急いで手を打つべきだ。


 わかっていても、割り込むこともできなければ、琅悸以外はほとんど戦力にもならないだろう。


 状況を理解した虚空と星霜が、どうするべきなのかと必死に考える。過去から来ている二人を、ここで死なせるわけにはいかないと。


 その視線は、自然と琅悸に向けられた。


 琅悸ですら、今の双子に割り込むのは厳しいと感じている。実力だけなら双子を抑え込めるが、そのために負う負担も大きい。


 どうにかできるとしたら、それは繋がりの深い飛狛だけだろう。


 だが、双子を狙うように用意されていた父親を見れば、あちらにもなにかしらの出来事が起きているはずだ。飛狛を嵌めるための。


「夜秋! 秋星!」


 どうするかと悩んでいると、飛狛が中庭へ駆けつけた。


 向こうでもこれを推測する事態があったのだろう。だから、光景を見ても驚くことはない。


 むしろ、これを想定して急いでやってきたのだとわかるほどだ。


――紅飛殿……――


 かつての主を見て、黒欧の切ない声が漏れる。すべての主を平等に見てきた彼にとって、珍しくも思い入れの深い主だった。


 最初の主以降、初めて特別だと思った存在だったのだ。


「飛狛、邪魔をしないでくださいね」


 いつもの柔らかい表情ではない。口調こそは変わらないが、その視線は鋭く刺さるほどのもの。


「ふざけるな! できるわけないだろ!」


 自分が一人で戦っても、正直勝てるかわからない相手。造られた存在という意味では、まだやれるとは思うのだが、双子では確実に勝てない。


 二人もわかっているはずなのだ。


「それでも、手を出すな!」


「秋星……」


 わかっている。二人は実力差を誰よりも把握しているのだ。


 ずっと傍にいたのだから、わからないはずがない。自分達では勝てないともわかっていて、それでも二人は挑むのだ。


 飛狛が拳を握り締める。自分達が誇る父親がこのような形で利用されているのだから気持ちはわかるが、受け入れるべきなのか考えているのだ。


 大切な二人を危険に晒すような真似、簡単にはできない。


(できないが……)


 自分達の手でやりたいという気持ちを尊重したいとも思う。


(割り込もうと思えば、俺ならできる)


 それをしたところで、いざとなれば双子は従うかもしれない。


 けれど、確実に双子との関係は変わってしまうだろう。完全に魔法槍士と補佐官になってしまう。それだけは言い切れた。






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