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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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孤独の記憶5

 少女が去るのと同時に、元の空間へと戻る。どうやら広場にこの仕掛けはあったのだと、彼らは知った。


 正面から入れば、飛狛をこれで捕らえる予定だったのかもしれない。左右から入れば、ここの仕掛けか中庭の仕掛けに引っ掛かる。


「中庭に、なにかあるのか」


 全員が同じことを考えたのだろう。そして、中庭へもなにかしらの仕掛けがあるだろうことも。


「けど、精霊眼はないけれど、あの双子が罠にかかるように見えないわよ」


 普段はふざけている姿ばかり見せていたが、見た目と内面が違うことぐらい全員気付いている。


 瑚蝶はあの二人が引っ掛かるはずはないと思っていた。


「罠じゃないってことだね。たとえば、あの双子が勝てない敵を用意した、とかかな」


 それでも琅悸がいるのだから、死ぬようなことはないだろうと陽霜は付け足す。


 双子の実力は飛狛より劣る。けれど、飛狛と対等にやれる琅悸があちらにはいるのだ。最悪の事態は想像がつかない。


「勝てない、敵……」


 一言聞いただけで飛狛の胸がざわつく。なにか嫌な予感がしたのだ。


 まさかと小さく呟くと、黒欧が同じ考えへたどり着く。


――飛狛殿! 二人が危険です!――


「やっぱり、その考えか……」


 自分達をずっと見てきた黒欧が同じ考えなのだとしたら、それに間違いはないだろう。考えたくないことだが、考えなくてはいけない。


――他に考えられません。そうなら、あの二人に勝機は……――


 口ごもる黒欧に、深刻な表情を浮かべる飛狛。


 どちらも同じ考えにたどり着き、そのやばさを感じていた。


「……急ぐ。早くしないと、夜秋と秋星が死ぬ」


「えっ」


 問いかけたそうな柊稀を無視して身を翻すと、飛狛はすごい速さで駆け抜けていく。駆け抜けようとした。


「なっ…」


 向かいから迫る蒼い炎に、飛狛は飛び退くこととなってしまう。この広場で侵入者を殺すため、用意されたであろう人物によって。


「……くそっ。こんなときに、よりにもよってじいちゃんかよ!」


 さすがにここまでは考えていなかった。考えればありえたはずなのだ。


 自分の考えの甘さに舌打ちしながら、飛狛は槍を取り出す。


――カミュ殿……やはり、広場にいるのは――


「あぁ…じいちゃん……先々代の魔法槍士。あの二人の父親……あいつらじゃ、絶対に勝てない!」


 苛立ったように飛狛が怒鳴れば、柊稀達もそのやばさがわかった。だからこそ、この二人はこうも深刻そうに話していたのだと。


 取り込んだ琅悸を失い、飛狛を取り込めなかったとき、すべてを殺せるように造られたのだ。それが目の前にいる人物であり、双子の前へ現れているだろう人物。


 もしも目の前に父親が現れたら、あの双子がどのような行動にでるかは容易に想像がつく。自分ですら、あの祖父が現れたらと思うのだから、双子なら確実だ。


 自分達でどうにかしようとするだろう。たとえ敵わないとわかっていても、二人は誰の手も借りない。父親を使われたら、冷静でいられるかもわからない。


(あの二人は、父親を大切にしていた……俺だって、父さんを使われたのは腹が立ったんだから……)


 それらがわかるからこそ、先へ急がなくてはいけない。


 だからといって、目の前の人物を簡単に倒すことはできないのだ。この人物も祖父同様に強いから。


「くそっ……」


 何度目かわからない舌打ちをすると、飛狛は覚悟を決めた。本気でやらなければ、ここを突破することはできないと。


 手段を選んでいる場合ではない。先へ急がなくてはいけないのだから。


 飛狛の瞳が一気に金色となり、銀色へ変化しようとする。


「飛狛お兄ちゃん、私がやります。だからみなさんと先へ行ってください」


 それを見た柏羅が、一歩前へ出た。力強い瞳で前を見ながら。


 さすがに精霊王の力を使わせるわけにはいかない。この先で必要になる場合もあるかもしれないし、もっと力を使うかもしれないと思えば、自分がやるべきだと思えたのだ。


「柏羅?」


「その方は造られた者。ここは私の神殿。躊躇わずにこの力を使えます。こんなときは、始祖竜を利用していいんですよ」


 迷うように見てくる仲間へ、にっこりと笑う。


「私の力は、皆さんがいたら巻き込んでしまうかもしれませんし」


 一人の方がやり易いと言われれば、飛狛は迷わなかった。彼女はか弱い少女ではない。始祖竜なのだ。


 始祖竜の力なら問題ないと判断した。それに、柏羅は秋星に懐いていたことから、早く助けに行けということだと思えたのだ。


 あっさりと抜けていく姿に黒耀が続く。それが柊稀達を決断させた。


「行ってください」


「一人ぐらい残るよ。邪魔はしない」


 唯一残ったのは陽霜だった。彼だけは、柏羅を見守ると決めたのだ。一人ぐらい残るべきだと思い。






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