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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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孤独の記憶4

「柊稀! 飛狛殿だ!」


 父親と話す風景の奥、真っ暗な空間が広がるのを黒耀が見つけた。ついに追いついたのだ。


 身体から力は抜け、宙にふわりと浮いている。瞳は固く閉じられ、どのような状態なのかは読み取れない。


「飛狛さん!」


 過去を覗く力に追い付いたのだろうか。それとも、もう覗く必要がないのか。どちらなのかと黒燿が鋭く見る。


 最悪も想定しなくてはいけないが、なぜかその必要はないとも思っていた。


「驚いた。入ってきたの?」


 突然の乱入者に、無機質な少女の声。驚いたと言いながら、声から驚きはまったく感じられない。


 わかることといったら、黒いフードで顔を隠した少女は、琅悸の後ろにいたのと同一人物だろうということだけ。


「飛狛さんは渡さない!」


 ならば、この少女を追い出せば彼を救える。単純な考え方かもしれないが、柊稀は疑っていなかった。


「もう、遅い。術は最終段階へ…」


「いいえ、あなたに飛狛さんは渡しません。なぜなら、飛狛さんの中には私がいますから」


 眩い光が暗闇を照らし、一同の視界を奪う。


 その中で、柊稀は見た。自分達を案内していた光が、女性の姿へ変わっていくのを。


 金色の光が身体を包み、銀色の髪が暗い空間になびく。肩に小さな獣を乗せた女性に、誰もが息を呑む。


 まるで女神が現れたような神々しさだったのだ。


「ここは飛狛さんの記憶の中。飛狛さんの心の中。私がいる限り、何人たりとも手出しさせません!」


「……氷那さん?」


「間違いないわ。過去のフェンデの巫女よ……」


 一度会っているから、柊稀と華朱はすぐに気付いた。現れた女性が過去でのフェンデの巫女。飛狛の妻であると。


――案内してくれたのも、氷那殿でしたか――


「うん、そうみたい」


 記憶の中で迷わないよう、夫の仲間を助けたのだろう。


 これも飛狛の記憶であり、彼の中に存在する氷那への想いが成したことなのだろうと推測された。


 そして、その想いが彼を護っている。敵へ捕らわれないように。


「あれだけ引きずり出して、まだ抗うのか……」


 無機質な声は少しばかり苛立っているようだ。少女が初めて見せた感情だったかもしれない。


「正直なところ、お前は攻めるところを間違えたのだ。飛狛の中には、もっと簡単に堕とせた記憶がある。そこを攻めていたなら、今頃は終わっていた」


 李蒼の言葉に、驚く柊稀。孤独の記憶は軽いと言われているように思えたのだ。


 きれいな歌声が周囲を包む。氷穂の声ではなく氷那の声だ。


 巫女は歌声で儀式をするからだろうか。氷穂の歌声もきれいであったが、氷那の声もきれいだ。


 心地よい歌声で、思わず聴き惚れてしまったほど。


「過去の巫女…邪魔……」


「危ない!」


 黒い影が氷那へ襲いかかるのを見て、瑚蝶が魔法を発動させるため杖を打ち鳴らそうとした。


「まって!」


 それを止めたのは華朱だ。過去の出来事を考えても、妻のピンチに彼は動く。たとえ自分がどのような状態でも。


 それに、と考える。あの歌声は飛狛を呼び覚ますためのものだと思えたのだ。だからこそ、あの少女も攻撃を仕掛けてきた。飛狛を目覚めさせないために。


――過去の経験は生かされていますね。えぇ、華朱殿の考えに間違いはありませんよ――


 聞いた黒欧はハッキリと言う。華朱の考えに間違いはないと。


「……氷那ちゃんに、指一本触れるな!」


 同時に、普段より低い飛狛の怒声が響いた。妻が攻撃されそうなのを察知し、目を覚ましたのだ。


「バカな…術を破った……」


 腕の中へ氷那を抱え込む姿を見て、少女はあからさまに驚いてみせた。なぜ術にかからないのかと思っているのかもしれない。


 けれど、彼を見てすぐさま納得する。鋭く睨み付ける瞳は金色ではなく、銀色に変わっていたのだ。


「そう…ただの精霊じゃなく…あなた…精霊王の力を使うわけ……」


 銀色の瞳は精霊王の証だとされている。当然ながら、普通の精霊眼より強い力を発揮するのだ。


――飛狛殿!――


 さすがにやばいと思ったのか、黒欧が止めるよう呼び掛ける。


「大丈夫です。ここは現実であって、現実ではないですから。肉体に負担はかかりません」


 安心させるように柏羅が言えば、全員がホッと息を吐く。彼になにかあれば、未来が大幅に変わる可能性がある。


 聖なる王へ仕える魔法槍士は、それだけ歴史上で大切な存在なのだ。


「……過去の魔法槍士は潰せなくても、あなたの補佐官は今頃死んでいるはず。大人しく退くことにする」


「えっ…」


 柊稀達が驚く中、飛狛が怪訝そうな表情を浮かべる。双子の強さは誰よりもわかっていたし、あちらには琅悸もいる。


 簡単に殺されるはずがない。






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