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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
六部 最終決戦編
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孤独の記憶3

 どれだけ記憶の道を進んでも、少年は一人でいる風景しかない。


 寂しげにしているか、無理して笑っているか。そのどちらかの表情を浮かべて。


「どうして……」


 なぜこんな風景しかないのか。親元から引き離された理由が知りたいと思った。どう見ても、魔法槍士を継ぐからという理由だけに見えなかったから。


「一緒にいられなかったんだ」


 黒欧よりも幼少期に詳しいのは、李蒼と李黄だった。


「妹といれば、精霊眼が共鳴してしまう。幼くて二人とも制御ができなかった。その結果、暴走させてしまった。父親はあまり身体が強くはなかったし、二人の面倒は負担になるだろうとも言われていた。実際、あいつは何度か倒れてるし、飛朱がこれ以上は無理と判断したんだ」


「珍しく、あのときだけ夫婦喧嘩したな。基本的に、あいつは飛朱の方針には口出しはしなかったのにな」


 昔を思いだすように李黄も言えば、これも話せる範囲内だと李蒼が付け足す。


 結果、後継者なのもあって、母親が連れていくことにしたのだが、魔法槍士として飛び回る母親に、子供を育てる余裕がなかったのだ。


 なにせ、世界統合が成された前後だったから。


「当時、両親を亡くしたばかりで、双子の妹は行方不明。白麟は元気がなくてな」


 黒欧より詳しく話してくれた李蒼は、これしか手がなかったのだろうかと本気で思っていた。魔法槍士というものを理解はしていたが、それでも思わずにはいられないほど、幼い少年は孤独な日々を送っていた。


 時折会う飛狛に、何度同じことを思ったかわからない。


――彼に預けようと、二人で決められました。可愛がってくれるだろうと。一番信頼できると思っていたのもあったとは思います――


 預け先として間違いはなかっただろう。飛狛のお陰で白麟は救われたことも多々あったが、逆に飛狛は孤独な日々を送ってしまった。


 どれだけ大切にされていても、やはり両親といられない孤独は消し去れなかったのだ。


 幼いながらに自分の立場を理解していたのも、この場合いけなかったのかもしれない。母親の跡を継いで魔法槍士になるから、と自分へ言い聞かせるのが日課だった。


 魔法槍士というものすら、幼いながらに理解してしまったのだ。


 家族と離れ、竜王山での生活。それにより、飛狛は友達すらいない状況だったと言う。


 今でこそ、夜秋や秋星とバカして騒ぐような子だが、昔は一歩引いているような子供だった。


『俺に…俺なんかに…できるかな。じいちゃんや母さんみたいに…俺強くないし……』


 自信なさげに膝を抱える姿は、今の姿からは考えられない。


「いつも自信なさげだったな。よくあそこまで成長したものだ」


 李蒼が懐かしいと、昔の風景を見ている。会う頻度は少なかったが、当時の主の息子。


 いつも気にかけていたのだろう。


――隠しているのですよ。なにかある度に、よく落ち込んでいました。けれど、その姿を見せるわけにはいかない。魔法槍士ですからね。その辺りは今も変わりませんよ。だからこそ、あの双子は傍にいるんです――


 穏やかに笑うのは見せかけでしかない。すべてを隠す仮面のようなもの。内面は酷く脆いのが、彼本来の姿なのだ。


 わかっているからこそ双子は彼といる。彼を支え、一緒に背負うために。


 魔法槍士と補佐官という関係だが、三人で魔法槍士なのだと黒欧は思っていた。三人に上下関係などないと。


 案内する光を追っていった先に、小さな獣といる飛狛の姿を見つけた。これも本人ではなく記憶。


 まだ彼の元へは辿り着かないようだ。


「あれは、巫女殿にいる……」


――はい。聖獣と呼ばれていますが、飛狛殿が造った魔道生物です。妻であるフェンデの巫女へ、傍にいられない代わりとして与えたんですよ――


 魔法槍士分家の証と伝わっていたが、黒耀は理由を聞き納得する。離れて暮らす妻を護るため、交流をするためなのだと。


 それが後の世で、巫女と魔法槍士を繋ぐ役割となっただけのことだった。


『喧嘩したんだってな』


 珍しいこともあるものだ、と父親が話しかける。


『……バカにされた。朱秋は立派な魔道生物造ったのに、俺はこんなのでって。やっぱ、ダメなのかな。父さん……』


 姿は今と変わらない青年になった飛狛。けれど、その表情は今とまったく違う。どうすれば、あのように穏やかに笑えるのかと思ったほどに。


『俺から見れば、いいの造ってるぜ。いつか、お前の役に立つさ』


『……立たないよ。こんなのじゃ。朱秋には魔法で勝てないし、剣も槍もダメだし。後継者としての評価も低い。母さんの跡、継いでいいのかなぁ。はく兄さんの評価下げない?』


 不安げな青年の瞳。何事にも臆病で、けれど表面に見せることのなかった本音。孤独の日々。


 記憶の中にあるそれらはすべて掘り出されていた。








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