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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
五部 氷鬼なる琅悸編
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ひとときの休息3

 未来を堪能していた三人は、一度宿に戻り、再び外出していた。今回は飛狛と夜秋の二人だけで、秋星は宿に残っている。


 未来などと、本来ならありえない場所へ来てしまったが、悪いことばかりじゃない。いや、むしろのんびりとくつろいでいた。


「仕事じゃ、こんなところ来ることないもんなぁ」


「そうですね」


 もう少し見て回りたいと飛狛が言った為、二人は町中をのんびり歩いている。


 鳥獣族の暮らす場所は、基本的に魔法槍士が行かない場所だ。関わらないと天竜王が決めているから。


「あっ、あれ美味しそう」


「えー、僕が嫌いなの、わかってて言ってませんか?」


 食べ物を見て嫌そうに視線を逸らせば、苦笑いを浮かべるのは飛狛。


 目の前にいる叔父は、好き嫌いが激しい。双子は同じ育ちをし、技術や知識は同じなのだが、食べ物の子のみは極端に違う。


 なんでも食べる秋星に比べ、夜秋はかなり好き嫌いが激しいと、もちろん飛狛は知っている。


「秋星も大変だなぁ」


「これぐらいの苦労、いいんですよ」


 仕事面は夜秋が苦労していることも、当然知っていた。だから、飛狛は笑うばかりだ。


 一通り見て回り、宿の一室へ戻れば、秋星が一人で作業している。先程買った物を加工しているのだろう。


「食うだろ」


「食う」


 見ることなく答えれば、二人が顔を見合わせて笑う。作業を始めれば、終わるまで手を止めないとわかっていたから。


「器用だよなぁ」


「さすがに、ここまで器用だとすごいですよね」


 手元を見れば、細工をしているのがわかる。その細工は細かく、自分達には真似できないとも思う。


 決して不器用なわけではないが、秋星ほど器用でもない。


「これをギャップ萌えというのですかね」


「あぁ、瑠璃がよく言ってるよね」


「えぇ。瑠璃が言うに、秋星はギャップ萌えというものらしいですよ」


 いつもなら秋星が乱入する流れだが、それすらもしない集中力。


「やれやれ。しばらくほっときましょうかね」


「そうだね。終わるまで無理そうだ」


 会話は聞いているはずだが、混ざる素振りは見せない。これ以上は呼びかけても無駄だと笑う。




 夜になれば、仲良く温泉に入る。町での騒ぎがあった為、天竜王の仲間とバレてしまい貸しきり状態。


「うー、莱緋にも負けてる」


 チラチラと見ながら、蒼翔はしょんぼりとする。


「ふふっ。気にすることないわよ」


「瑚蝶に言われると腹が立つ」


 ジーッと見る視線は胸元だ。見た目を裏切らない見事な胸に、蒼翔はまた落ち込む。


「虚空は気にしないと思うけど」


「えっ、違う! あんな奴なんとも思ってないから!」


 朱華の言葉に慌てれば、みんなが笑った。彼女が虚空へ想いを寄せているのは、見ているだけでわかるというもの。


 虚空も、蒼翔に少なからず気持ちがあると、女性陣は思っている。


「素直じゃないんだからぁ」


「朱華!」


 真っ赤になって抗議する姿は、恋する女の子の姿だ。僕と言いながら、普段男の子っぽく見せているのが嘘のよう。


「なにさなにさ。朱華も華朱も幸せだもんねー」


「お子ちゃまね。莱緋の方が大人かも」


 柏羅と楽しそうに話す姿を見ながら、瑚蝶は笑った。


 どうやら莱緋は、柏羅と仲良くなったらしい。人見知りの少女も、柏羅だけは警戒心が薄れていたのが一番の理由だ。


 散々に子供扱いされれば、蒼翔は拗ねたように湯に浸かる。


「揉んでもらえば? 胸が大きくなるって言うよね」


「虚空に頼んで? いいわねー」


「でしょ!」


 朱華が言えば華朱が同意。見た目だけではなく、考え方も同じなのかもしれない。


 必ずといって、どちらかの発言にどちらかが同意していた。


 そのお陰もあってか、二人の距離は急速に縮めている。柊稀は双子みたいだと言っていて、二人もそれでいいかと思っていたりする。


「でも、一理あるわね。なんなら頼んできてあげましょうか?」


「やめてやめて!」


 慌てる蒼翔に、三人は声を上げて笑う。柏羅と莱緋は話がわからず、不思議そうに四人を見た。


「なんの話でしょうか?」


「さぁ? 楽しそうですね、莱緋ちゃん」


「うん。混ぜてもらいましょうか?」


「……そうですね! いきましょう!」


 にっこりと笑うと、柏羅と莱緋は混ざるために四人の元へ向かった。


「私も混ぜてください!」


「私も!」


 無邪気な二人が混ざれば、騒ぎはさらに大きくなる。それが実は男性陣に丸聞こえだったとは、秘密の出来事だった。


 疲れきったように湯から上がる蒼翔。散々にいじられ、反論する気力すらなくしたようだ。


「やり過ぎたかしら」


「そう、みたいね」


 瑚蝶と華朱が苦笑いを浮かべれば、莱緋はキョトンと首をかしげる。


「莱緋、早くいこー」


「うん!」


 一番安全な存在である親しい友人を連れ、急いで部屋へ戻っていく。


 やれやれと笑いながら顔を見合わせ、瑚蝶と華朱も出る。少し遊びすぎてしまったようだ。


「朱華お姉ちゃん、背中の薄くなってますよ」


「えっ? ほんと?」


「はい。それって……」


 始祖竜としての本能を取り戻し、彼女はどのような意味があるのかわかっている。


 これは、造られた朱華が朱華という存在でいるためのもの。消えてしまったら、彼女は自分の存在を保てない。


 つまり、死んでしまうということだ。


「酷いかな?」


「いえ、少し薄れてるぐらいです」


「じゃあ、大丈夫だよ。よくあるんだ」


 気にしないで、と笑いながら朱華は言った。これぐらいなら勝手に戻るから、心配するほどのことではないと。


 けれど、柏羅はなぜだか不安になる。大丈夫じゃない気がしたのだ。これはなにかの予兆なのではないか。


 背中を見ながら、思わずにはいられない。






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