ひとときの休息2
男が一人吹き飛ばされた。騒ぎを知った野次馬に二人目が投げ飛ばされる。
「俺の女に手を出そうなんざ、いい度胸してんな! 死んで償え!」
その瞬間放ったのは王としての威圧だ。
どこかから、王の一人だと声が上がる。なぜこのようなところにいるかより、天竜王を怒らせたことの方が問題。
周囲がざわつき出す。鳥獣族に関わらないと言っていても、怒らせれば話は違う。なにせ黒竜族最強の魔法槍士がいるのだから。
「星霜殿、なんの騒ぎですか」
「黒耀……」
呆れたように見るのは魔法槍士だ。まるで星霜がやらかしたように見るが、怯えた少女を見れば違うとわかる。
「天使族も巻き込みますよ。穏便に済ませてください」
「あー、わかったわかった。あの兄貴に知られたら、町ごと消しかねないな」
過保護な兄だと知っているだけに、厄介さも理解している。
それはそれで面倒だと思ったのだろう。あとは任せると黒耀に丸投げするなり、星霜は莱緋を連れて帰った。
楽しい外出の予定が最悪な外出になり、星霜のテンションは下がってしまった。
気分屋なのは彼の悪い部分。こんなときはと考えるが、莱緋相手にはできない。
(ったく、どうすっかな)
自分のことより、少女の笑顔がなくなってしまったことが一番の問題だった。
(離れるべきじゃなかったな)
わざとゆっくり歩いたのだが、それが尻目にでてしまった。買い物をゆっくりできるよう気を使ったつもりだったのだ。
「泣いていいんだぞ」
涙を堪える少女を抱き寄せれば、声を上げて泣き出す。
「怖かったか?」
「星霜様がっ…来てくれましたからっ……」
大丈夫だと言う少女に護らなきゃと思う。
普段気にもしていなかったが、天使族の容姿は目立つ。外に出れば変な奴がよってくることもあるのだと、この日、星霜は思い知らされた。
「それで、穏便に済んだの?」
予定より遅く戻ってきた黒耀から、町での一連の騒ぎを聞いた華朱は大変ねぇと苦笑いを浮かべる。
どちらも厄介な王なのだと、彼女もわかっているのだ。
「あぁ。あちらも、天竜王は敵にしたくないだろ」
「それはそうね」
敵にしたら最後、黒竜族最強と言われる魔法槍士が襲ってくることになる。そのようなことになれば、鳥獣族では対抗できないだろう。
「観光に来た竜族の若者も、災難というか」
莱緋にちょっかいをかけたのは、鳥獣ではなく竜族の青年。だからこそ鳥獣族との話し合いが必要になり、帰りが遅れた。
竜族の青年とも話をすることになり、こちらは軽くお灸を与えるだけで済ませたのだ。
自業自得な気もすると華朱はため息をつく。出来心で許されることではない。今回はたまたま相手が莱緋だったが、そうでなくてことが起きてからではいけないのだ。
「それより、どうだ?」
「大丈夫。だいぶよくなったみたい。黒欧のおかげだね」
膝の上で眠る水色の獣を撫でながら、にっこりと笑う。
――昔馴染みですから、詳しくないですがわかりますよ――
琅悸にやられた傷が酷かったが、魔道生物は魔力を源とする。天使族では対応できなかったのだ。
それを同じ魔道生物である黒欧が診てくれた。
彼に頼らなくても九兎に任せればなんとかなるのだが、決戦に向け休息している。
失った尻尾の回復と同時に、力の回復をするためだ。
なるべく頼らないようにするつもりではあったが、なにかあったときのことを考え、黒欧が提言した。
――李蒼は一番冷静ですから、いざというときにいないと大変です――
「ふふっ。李黄が聞いたら怒るわよ」
と言いつつ、華朱も同意見だったりする。魔道生物達の中で一番頼りになるのが、李蒼なのだ。
――慣れています――
あっさりと言えば、黒耀と華朱は顔を見合わせ笑った。
姿を現していなくても、今どのような表情を浮かべているのか想像がついてしまったのだ。
「大物ね」
「あぁ。さすが、誰よりも長生きしているだけあるな」
こんなのが相手では、さすがに李黄も噛みつかないだろう。
――年寄りなだけです――
「労らないぞ」
主で遊んでいるのだから、当然だろうと黒燿は言った。
――ダメでしたか――
年寄りは通じないかと笑うと、黒欧は気配を消した。普段いる奥底へと戻ったのだろ。
隣へ座る黒耀に華朱は寄りかかる。ここからは二人の時間だ。
察したように目を覚ました李蒼が、なにも言わずに部屋を出ていく。
今日は一日、休息と聞いている。魔法槍士も例外ではない。
「どこか出掛けるか?」
「ううん。一緒にいられるだけで私は十分よ」
短命だと聞かされたが、それは力を使えばなのだと華朱は双子から聞いていた。
ある程度、力を抑えれば命は削られない。短命といっても、一概に早く死ぬとは言えないのだ。
さらに、昔と今では力に変化もある。自分達の時代と比べれば、魔法槍士は短命ではないはずだと言われた。
「ねぇ、これが終わったら……」
「わかってる」
肩を抱き寄せ、優しく微笑む。その姿は、華朱へしか見せない表情。双子の王すら見たことがない。
少しでも長く、二人で暮らす。そのために、黒耀は力を使わないと約束をした。
この戦いが終わったら、二人で築く幸せを考えるのだと。
そのためなら、必要があれば華朱は自分が力を使うとも考えていた。そうすれば、彼が命を削ることはない。
「過去の魔法槍士……謝らなきゃ」
色々と助言をくれているのは飛狛なのだと気付いていた。あいだに双子を入れているのは、華朱を気遣ってのわざとだ。
「彼は、気にしないと思う。謝罪より華朱が幸せになることを望むだろう」
彼らがここまで関わってくるのは、華朱が飛狛の妹の家系だから。
自分のせいでこうなってしまったという思いがあるのも間違いないが、それだけだと黒燿は思っていた。
「そっか。じゃあ、お礼かな?」
「あぁ、世話になってるからな」
終わりがくれば、別れも来る。過去から来た三人とは、二度と会えない別れが待っていた。
そう思うと、少し寂しくもある。それほど、彼らと過ごす日々が当たり前になりつつあったのだ。
.




