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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
五部 氷鬼なる琅悸編
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最後の神具2

 傷の具合は、軽傷から重傷まで様々。飛狛の一言で呼ばれた天使族のおかげで、死者を出さずにすんだのは幸いであった。


「それを私に頼みたいと?」


「できるか?」


 先日の戦闘で、虚空は酷く痛感した。させられたと言うべきだろうか。剣一本では、やれることに限界があると。


「もちろんできるわよ。私は魔道技師だもの」


 魔道技師とは、魔具を扱う者。けれど魔具職人とは違い、魔道技師がやるのは生活のサポートということ。


 通常、魔具は魔力を補う為だけに使う。そのため、増幅効果を持つ魔具が多く、次に多いのは魔法が封じられた魔具だ。


 少し変わったので魔封じの類となるのだが、使う者は珍しい。


 けれど魔道技師が作り出すのは、視力を補ったり、聴力を補ったりする物ばかり。


 話を聞いて虚空は悩んでいたのだが、ついに決断した。瑚蝶に聴力を補う魔具を作ってもらえば、この先の戦いでは魔力が使える。


 邪教集団との決戦では全力でやるつもりなのだ。


 彼の決意を感じたのだろう。瑚蝶は力強く頷いた。


「わかったわ。少し時間はかかるけど、必ず間に合わせるから」


 本来、何ヵ月もかけて作る物。それを決戦までに作り上げるのは、さすがに瑚蝶でも簡単なことではない。


 しかし、幸いなことと言うべきか、魔具の知識に長けた琅悸がいる。彼からの協力を得られれば、早く作れるはずだ。


 なによりも、彼女のプライドが間に合わないなど許せるわけがない。


「助かる」


「ふふっ。魔竜族の長に恩を売って、損しないものね」


「しっかりしてるな」


 苦笑いを浮かべつつも、彼女の技術は認めている。この技術が広まれば、自分と同じような者達が救われるだろうと。


 もしかしたら、と虚空は思う。魔道技師という道が出来上がったのは、彼女の祖がきっかけだ。氷晶は盲目の白秋と友人であることから、なんとかしようとした結果かもしれないと。


「当然よ。その後のことも考えないとね」


 旅の終わりは見えてきた。日常に戻る日は近いのだ。


 瑚蝶だけではなく、誰もがその後を考え始めていた。


「その後か……頭がいたくなりそうだ」


 考えることが多すぎて、虚空は嫌な気分になる。氷鬼の件を知ってしまった以上ほっとけないのだ。


 ほっとくわけにはいかないと思う。今なら、琅悸が一人で動く可能性があると思えたから。


「救えると…いいわね……」


「あぁ……」


 こればかりは、虚空一人ではどうにもできない。どうにかなると願うしかなかった。


 どちらにしても、琅悸本人の協力が必要になるわけで。まずは彼が目を覚ますのを待つしかない。





「怪我人をこき使いやがって」


 文句をいいながら書類を片手に持つのは星霜だ。自分ですぐさま止血していたのと陽霜の処置が早かった為、傷は深かったが生きている。


 正直、すべてにおいて少しでも遅かった場合、自分は助かっていなかっただろうとわかっていた。それほど、琅悸の剣に迷いはなかった。


 働けるなら働けと言われ、書類整理に使われている星霜。


「あいつは?」


「誰のことかな?」


「あいつだよ」


 ぶっきらぼうに言う星霜に、あいつではわからないとバッサリ切るのは陽霜。


 わかっていてわざとやっているのだ。それがわかるから、また機嫌は悪くなる。早く教えろとすら思っていた。


「……わざとだろ」


「まさか。普通、名前を言わなきゃわからないよ」


 やはりわざとだと察し、舌打ちする。この片割れは、弟として見ても性格が悪い。悪すぎるのだ。


「態度が悪いね。仕事追加する?」


 にこやかに笑う半身は、悪魔にしか見えなかった。この恐ろしさを知らない民が、なんだか羨ましく感じるほどに。


「遠慮します。で、莱緋は?」


「大丈夫ですよ。命に別状はありません」


 ただし、と半身は続ける。この先は連れていくべきではないと。言うことを聞くような少女でもないとわかりつつ、陽霜は伝えた。


 外傷はたいしたことがないが、琅悸に折られた翼が問題だと言う。


「あれは完治に時間がかかるらしいよ」


 里からやってきた天使の中に、兄の莱輝がいたのだ。勝手に里を抜け出したのだから、それはこっぴどく叱られながら手当てを受けていた。


 叱り終わったあと、状態を陽霜に伝えた内容からして、翼を傷つくだけなら問題ないが、骨が折れてしまった場合は厄介なのだと言う。魔力の流れも途切れてしまうから。


「まぁ、翼以外は問題ないから、元気だけどね」


 むしろ星霜が自分のせいで怪我したと気にしているらしく、ここには来づらいようだ。


「あのバカ……」


「顔を出さない方が、気にすると思うよって言ったんだけどさ……星霜?」


 突然書類を置いた星霜に、嫌な予感しかしない。止めようとしたが、止められるわけもなく。


「行ってくる」


「……ど、どうぞ」


(素直に好きなら好きと言えばいいのに。しかし、あの星霜がねぇ)


 噂のすべてが本当ではないが、女性関係がよくないことは事実で、妹を大切にする兄が許すかどうか少し心配になった。


 自分に妹がいたら、半身のようなタイプには大切な妹を渡したくないな、と陽霜ですら思ったのだ。


「にしても、部屋わかってるのかな」


 さっさと出ていったが、部屋は教えていなかった。


 痛む身体で出歩けば、どの部屋を使っているか聞いてないことを思いだす。


「やべっ、あいつどこだ?」


 いまさら引き返せない。だが、このままだとたどり着かない。わかっているが、これで引き返せば陽霜になにを言われることか。


 容易に想像がつく。なにせ生まれたときから一緒なのだから。


「…星霜様? なにやってるんですか! 部屋で休んでてください!」


 運がいいのか、悩んでいれば目当ての人物はやってきた。やってきたが、中々情けない姿を見せてしまい星霜は落ち込む。


「星霜様!」


「うっせぇな! てめぇがこないから、部屋から出てきたんだろうが! 寝てろっつうなら部屋にこい! 勝手にうろつくんじゃねぇ! ……あっ」


 怒鳴るだけ怒鳴り、言い過ぎたと視線を逸らす。我に返ると、なにを言ってしまったのだと自己嫌悪に陥る。


「あ、あの……すみません。お部屋、戻りましょう」


「あ、あぁ…」


 穴があったら入りたい気分だった。けれど、小さい身体で一生懸命支えようとする姿は愛しくて、心が暖まるのを感じる。


 このような気持ちは初めてなのだ。だからこそ、この少女を手放せないと思ってしまう。






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