最後の神具
月明かりに照らされたお墓を見ながら、ため息がこぼれる。何度目になるかわからないため息。
これでよかったのか、間違っていなかったのかと考えては答えがぐるぐる回る。どれだけ繰り返したことだろう。
「飛狛…帰りますか?」
帰ろうと思えば、三人はいつでも帰ることができるのだ。方法もわかっていれば、いつでも行うことができる。
残りたかった問題は解決しており、これ以上関わる必要もない。
「俺らは、お前についてくぜ」
どのような道でもついていく。そう覚悟して、魔法槍士補佐官の肩書きを得たのだ。
恨まれるときも、死ぬときも、重い肩書きを得た甥と共にする。二人は自分達の意思で決めた。
「……帰らない」
迷いはしたが、飛狛はハッキリと帰らないと言う。だからどうするのか、すごく悩んでいる。
「……では、言葉を変えましょう。彼らに関わりますか?」
過去から来たという概念を捨て、柊稀達と共に戦うか。
「……迷ってる」
自分達が来てしまったことで、本来とは違う流れになってしまったかもしれない。
そう考えれば、選択を間違えたのかもと思う。すぐに帰るべきだったのかもと。
けれど、ここは自分達にとって未来だ。本来の流れとはどのようなものだ、と思う。自分達がいる状態が本来の流れだった可能性も、あったのかもしれない。
あの父親は柊稀と会ったことで気付いたが、それがなくても気付いた可能性もある。母親が気付いていたことを、黒燿によって知ってしまったからこそ、飛狛は思うのだ。
色々な考えが頭の中を過り、迷わせる。この先のことも、どうすればいいかわからない。
やりたいようにやってしまってもいいのだろうか。この時代とは関係ない存在なのに。
迷う甥に、夜秋と秋星は視線を交わす。普段なにを言っていても、歳が近くても甥に代わりない。
「ここは俺達の時代じゃねぇ。だからよ、魔法槍士でいる必要ねぇんじゃないか?」
もっと素直な気持ちで動いていいはずだと、さりげなく彼は言った。
「俺はそうするつもりだ。だから、明日から休暇扱いにしろよ」
「秋星……」
今回の件で悩んでいたのは飛狛だけではない。三人ともが琅悸のことを予測していた。
一人になり、付け入る隙があるなら引き入れようと動く。彼は間違いなく、最高の素材だと。
そしてその通りの結果になり、甚大な被害を出してしまった。
琅悸はもちろんのこと、琅悸にやられた他のメンバーもしばらくは動けないだろう。これでは邪教集団を叩くのに時間がかかる。
「僕達が過去から来た、だから関わらない。そう意地を張らなければ、こんなことにはならなかったでしょう。僕も…明日から休暇にしてください」
「もしダメなら、力付くで止めな。お前なら、俺ら二人楽勝だろ」
実力の差は圧倒的なもの。二人がかりでやっても、その気になれば飛狛は止められる。
彼が本気で未来に関わるなと言うのであればの話だが。
沈黙は長く続かなかった。二人が言いたいことはよくわかっていたし、なによりも彼自身が限界だった。
「帰るべきかもしれない。関わるべきではないかもしれない。けど……」
強く握り締められた拳。震えているのを見て、夜秋がそっと触れる。
「血がでるまで握り締めないでください。わかっていますから」
「まったく、世話のかかる甥っ子だなぁ」
「だから、僕達がいるんでしょ。ねぇ、飛狛」
柔らかく微笑む夜秋に、飛狛の表情が緩む。ぎゅっとしがみつくと、二人は視線を合わせて笑みを浮かべた。
「おー、たまにはかわいいことするじゃねぇか」
「うるさい!」
頭をポンポンと叩く秋星に、調子を取り戻したように怒鳴る飛狛。
「叔父さんに向かって態度がでけぇな」
「こんなときだけ叔父さんぶるなよな」
都合のいいときだけ叔父さん扱いしろと言う秋星は、都合が悪いときは補佐官としてすべてを飛狛に押し付けていたりした。
「俺は都合がいいときだけ、叔父さんぶるんだよ!」
「……自慢になりませんね」
自覚があったのかと二人が呆れた表情を浮かべ、夜秋がぼそりと呟けば飛狛が吹き出す。その場には三人の笑い声が響き渡る。
「では、始めますか」
「だな」
傍観者をやめた三人は、それぞれの決意の元、動き出した。
簡単に情報は集めていたが、今の段階では少ないと思った。関わらないようにしていたことで、あまり知りすぎてはいけないと思っていたのだ。
最後の戦いぐらい、役立とうと飛狛は思った。
(それに……)
向こう側にも自分達の存在は知られている。なにかしらの対策は打たれるかもしれないのだ。視野に入れておくべきだと、考えを改めた。
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