氷鬼なる琅悸3
剣で押さえ込まれている隙に、朱華と華朱が挟むように攻撃をする。
「火竜爆竜破!」
「竜牙崩焦!」
横から突っ込んでいく朱華と、下から突き上げるように火柱をあげる華朱。造られた者だからだろうか、朱華と華朱は息がぴったりだった。
二人も一瞬視線が合い、驚いたあとに不謹慎とわかりつつ笑みを浮かべる。
「不味い! 二人とも引け!」
琅悸の動きから、ユフィがどのような攻撃を使うのかがわかり怒鳴った。微かな動きで彼が使う魔技がわるのは、この家系を見守り続けただけではなく、誰よりも彼の強さを知っているから。
「主殿!」
「朱華!」
李蒼が華朱を庇い、柊稀が朱華を庇う。吹き飛ばされ人の姿を保てなくなった李蒼が、狼の姿で倒れた。
それだけのダメージを負ったのだろう。
「李蒼! よくも!」
知り合いだというから、面識はないが使わないようにしていた力。けれど大切な友人を傷つけられたら話は違う。
華朱の瞳は金色に輝き、今までとは格段に違う魔力が放たれる。
精霊眼の力が解き放たれ、魔技の威力もさらに跳ね上がった。剣の押し合いでは分が悪いが、素早さと技の威力でなんとかカバーする。
李蒼の代わりに李黄が主をサポートするよう、華朱と共に戦う。というよりは、どうやら怒り狂っているようにも見える。
李黄は、李蒼を一番という考えがあるため、傷つけられて怒り狂ってしまったのだろう。
そこまでやっても、琅悸と対等に戦うことすらできない。朱華が加わるが、それでも状況は変わらなかった。
実力だけの問題ではないのかもしれない。
(実戦慣れしている。傭兵家業のようなことをしていたのかもしれないな)
意図的に戦い方を変えていたり、利き手を誤魔化していたり。実力を隠していたのは、その辺りに理由があるのかもしれない。
戦い方を見ていた虚空は、冷静にそのようなことを考えていた。
(しかし、傭兵……)
仮に傭兵のようなことをしていたなら、彼ほどの強さがあれば有名なはず。
しかし、ベル・ロードの統治者としての立場があっても、そのような話は聞いたことがない。なら、一体どこで実戦を積んでいたのか。
道場で剣術を教えるだけなら、実戦にはならないだろう。
知っているとしたら、この精霊だと虚空は思う。ずっと傍にいたユフィは、すべてわかっているはずなのだ。
なぜこうなってしまったのかも含めて。
(言わないだろうな)
口止めされているのだろう。それは見ているだけでわかる。
(黒耀が必要だ。華朱なら呼べるか)
冷静に状況を見れば、完全に動けないのは星霜と莱緋、瑚蝶の三人。陽霜も怪我が酷く、蒼翔の弓での援護は意味をなさない。
女性陣では受け止めるのもやっとの攻撃。虚空と柊稀だけでは、彼を押さえることすらできないだろう。
正直、ここまでの実力差があろうとは思わなかった。自分よりは強いとわかっていたが、全員でかかれば取り戻せると思ったことを悔いたほどだ。
「華朱、黒耀を呼べ!」
後ろへ下がらせるよう前へ出れば、華朱がハッとしたように見る。
背後を見て、戦えるのがどれだけなのか、彼の攻撃に対して対応できる状況を正確に把握すれば、華朱は後ろへ下がった。
「行かせません!」
追うように虚空を吹き飛ばす琅悸へ、柏羅が割り込む。
「柏羅ちゃん!」
さすがに華朱が慌てる。本来の姿を取り戻したとはいえ、彼女は華朱よりも腕が細い。琅悸の攻撃など、とてもじゃないが受け止めきれない。
始祖竜だからといって、絶対ではないのだ。
「華朱お姉ちゃん、早く!」
助けに行きそうになり、華朱はぐっと堪える。みんなが黒耀を待っているのだ。この状況を打破するために。
「黒欧!」
魔法槍士である彼と連絡を取るため、すぐさま呼びかける華朱。
乗りきるために黒耀の力が必要。彼が加わっても、乗りきれないかもしれない。
――主殿が必要なようですね――
冷静な声が聞こえてきたとき、華朱はホッとした。応えてくれるとは言われていたが、自分は伴侶ではない。今はまだ、恋人という立場だ。本当に届くのかは気になっていたのだ。
「このままじゃ、皆殺しになってしまうわ」
黒欧との会話をするために、自分を護るよう仲間が戦う。けれど、それも長くは続かないだろう。
ここまで前線で頑張っている柊稀と虚空は、いつまでも耐えられるような状況ではない。いつ限界がきてもおかしくないのだ。
「強すぎるのよ、彼が……」
あの状態だったことがあるから、華朱にはわかることがある。力が増幅するということだが、目の前にいる青年はそうではない。
そうではないのに圧倒的な力を見せるのだ。
――最悪の事態が、現実になりましたか。すぐに向かいます――
「お願い」
さすが魔法槍士だと思えた。仲間が敵になるという事態も推測していたなど。
もちろん、華朱は加わったばかりで彼のことに詳しくなければ、彼がいなくなった理由もわからない。
(持ちこたえてみせる。黒耀が来るまで)
剣を握り締めると、彼女は一気に攻め立てた。持ちこたえる時間はわずかでいいのだ。
あの魔道生物の足を使えば、一瞬で移動することが可能なのだから。
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