不吉の神鳥3
一同が見守る中、虹色に輝く鳥は現れた。光が強く輝き、天高く上っていく。
「鳳華ですぅ」
「きれい……」
本当に造られたのかと聞きたくなるほど、その鳥は美しい。巫女の名に相応しい魔道生物を造ったのだろう。
「うさぎもいるのね」
「はいですぅ」
暴れていた前科をもつうさぎは、覚えていないからか当たり前のようにいた。まるで最初から仲間であったかのように。
「手を貸すのはこれだけよ」
「はいですぅ!」
嬉しそうに尻尾を振る九兎に、虹色の鳥はわかりやすくため息をついた。
「神鳥になにが起きているかわかるか?」
協力してくれるとわかるなり、虚空は現状を教えてくれと問いかける。自分にはまったくわからないが、彼女ならわかるだろうと思ってのことだ。
すると探るように空を見上げる鳳華。巫女として造られたからには、その能力も高いようだ。
「……目の前で巫女を殺されたみたい。だから怒っている」
それをやったのは邪教集団だろう。神鳥を怒らせて、なにがしたいのかはわからないが。なにか意味があってのはず。
目標を達成させないためにも、早く怒りを静めなくてはいけない。
静めるのは可能かと訊ねれば、やってみなければわからないと答える。鳳華が巫女の代わりをしていたのは、何千年も前のことなのだ。
今も昔と同じとは限らない。怒り狂う神鳥が鳳華に応えてくれるかもわからない。
「やれるだけやってみる」
強い光を放つと、鳳華は鳥から人の姿へ変わる。白髪の美しい女性は背中に虹色の翼を生やしていた。
目を閉じて祈りを捧げながら力を放てば、光が天へ上っていく。
「怒りを静めてくれればいいが」
「それにしても、誰が巫女を殺したんだろ。巫女は鳥海山にいるはずなんだけどなぁ」
山を見上げながら蒼翔が不思議そうに言う。巫女は神鳥に護られているはずなのにと。
「誰かが、これを破ったのでしょうね」
入り口を調べていた瑚蝶は、自分にはできないと言った。ここには神鳥の結界が張られているのだろうと。
簡単に破れるものではない。なにせ神鳥が張った結界なのだから。
長く、長く祈りは続く。鳳華ではできないのかもしれない。そんな空気が流れ出す。
「巫女殿の歌声は役立たないか?」
「私、ですか?」
フェンデの巫女は精霊の儀式を歌で行う。
「精霊を癒す歌声……できるかもしれない! やってみよう!」
過去の世界で、フェンデの巫女は精霊を癒した。癒しの力が込められた歌声なら、神鳥にも届くかもしれない。
やってみなくてはわからないが、試してみる価値はあるはずだ。
柊稀が言えば九兎が頷く。このうさぎも、過去の巫女を知るからこそできるかもしれないと思ったのだ。
「わかりました。やってみます」
全員の視線を受け、氷穂は頷く。
自分の歌声が役立つなら、少しでも彼らの役に立てるというなら、これほど嬉しいことはない。
できるかどうかわからないが、やってみようと思った。
澄んだ歌声が辺りに響き渡る。空気を震わせ、歌声と共に魔力が解放されていく。
祈りと共に天高く響いていく歌声に、一同聴き入ってしまったほどだ。
「これが巫女の歌。すごい魔力だわ」
強い魔力を察知し、瑚蝶は杖が震えるのを感じた。
普段はそこまでの魔力を感じないということは、歌声で魔力を解放するよう訓練がされているのだろう。
それにしても、と思う。魔法槍士の分家でもあるフェンデの巫女が攻撃魔法を使えば、かなりの威力になるのではないかと思わずにはいられない。
「光が消えてく……」
鳳華が放つ光が、役目を終えたように消えていく。後ろへ倒れそうになった身体を、朱華はそっと受け止める。
「歌声に惹かれて、たくさんの精霊が来たみたい。神鳥の怒りをなだめて、眠りにつかせた」
新たな巫女が現れるまで、神鳥は目を覚まさないだろうと彼女は告げた。
「巫女がいないと、神鳥は眠っているのか?」
虚空の問いかけに鳳華は頷く。目覚めさせることができれば、それが新たな巫女の証となるようだ。
鳳華にも可能ではあるがやるつもりはないと言えば、しなくていいと誰もが言う。
ホッと一段落し、もう大丈夫だとわかれば、鳳華は再び召喚具の中へ戻っていった。
「ありがとう。これ…」
「持っていて。鳳華はあなたが気に入ったみたいだから」
ペンダントを返そうとすれば、華朱はいらないと首を振る。
彼女のことが気に入ったから、鳳華は応えて手を貸してくれたのだ。ならば、自分の元にいるよりも、彼女の元へいる方がいいに決まっている。
朱華はペンダントを見て考えてみたが、鳳華が望んでいるならと受けとることにした。
「これで、ここは大丈夫だね」
「いえ、まだです! なにか来ます!」
誰よりも早く察知し、柏羅が叫ぶ。同時に、向かいから無数の氷の刃が一同を襲った。
「まさか……」
ハッとしたように氷穂が相手を見る。これを誰がやったのか気付いてしまったのだ。
遠くからゆっくり近づいてくるのは、長い茶色の髪を結わえ氷のように冷ややかな目をした、一人の青年。
「琅悸……」
あまりのことに、氷穂の小さな呟きが宙へ消えていった。
.




