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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
五部 氷鬼なる琅悸編
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不吉の神鳥2

 移動先はセーベル地方の北にある鳥海山。直接行けるよう協力してくれたのは、やはり飛狛である。


 瑚蝶と莱緋は鳥海山など行ったことがないのだから、どれだけ魔力を注ぎ込んでも直接は無理だった。


 それをこれぐらいなら許されるだろうと、笑いながら手伝ってくれたのだ。


「これは、神鳥と戦うことになるか?」


 いざ向かった先で漂う空気に、虚空の表情が険しくなる。


「巫女がいれば……」


 戦いを回避できるかもしれない。けれど言い切れないのは、あくまでも可能性でしかないからだ。


「ふきゅ。主殿、鳳華(ほうか)を喚ぶですぅ」


「鳳華?」


「はいですぅ。鳳華は巫女の代わりに造られたですぅ」


 九兎は華朱にいくつかの召喚具を渡していた。召喚具ひとつに魔道生物が一匹。


 李蒼と李黄はピアス、焔莉は腕輪、楓莉が指輪 。首元に下げているペンダントが鳳華という鳥の魔道生物。


 すべてを九兎が管理し、九兎が主と認めれば使えるのだ。当然ながら、途中でダメと判断された場合は使用ができない。


「応えてくれるかな」


 しかし、鳳華だけが未だに喚べたことがない。なぜだか表にでてこないのだ。


 ペンダントを握ると、なんの気配も感じられない。本人が応えたくない証拠だ。


「困ったですねぇ……」


「主殿、朱華になら応えるかもしれない。誰かの代わりに造られた、というのが同じだしな」


 右耳のピアスが淡く輝き李蒼が話しかける。鳳華との付き合いも長いが、彼女が心を開いたことはない。


 辛うじて、最初の主とだけ交流をとっていた。それは普通ではないから。


「やってみてくれる?」


「えっ…う…うん……」


 彼女の物を奪うようで複雑な気持ち。それでも、喚び出せれば戦いを避けられる。そのためにやるのだと言い聞かせる朱華。


 渡されたペンダントを受け取ると、肩に九兎が飛び乗った。


「やり方を教えるですぅ。感覚で覚えるですよぉ」


 どうやら呪文などはいらないらしい。それも召喚具のおかげなのだろう。


 魔力を引き出される感覚を感じながら、朱華は九兎にすべてを任せた。


 魔力をペンダントへ注ぐと、鼓動が感じられた。誰かがいるような気配。


 誰と考えるまでもない。おそらく鳳華と接触できているのだろう。


「あなたも…造られたの……」


「えぇ」


 この鼓動が鳳華なのだとわかった。魔道生物が生きている証であり、自分へ興味を持ってくれたということ。


「あなたも…私を利用するの……」


「いいえ」


 迷うことなく言えば、鳳華との距離がすこしばかり近づいたような気がした。


 次の瞬間、鳳華の過去が流れ込む。巫女の代わりとして造られ、散々に利用された挙句、巫女が生まれたことで捨てられる。


 鳥獣族から罵られ、行き場を失い、そして出会ったのだ。なにも言わずとも居場所をくれる者に。


『なんで俺といるんだ』


 彼はよく森にいた。その森も居心地がいいと思ったが、彼も居心地がいいと思えたのだ。


『わからない。ただ、なんとなく』


 何度目かわからない時間を過ごしたあと、問いかけにそう答えた。これは初めての会話。


 この一言しか伝えなかったが、彼はそうかと一言で済ませ、それ以上は踏み込んでこなかった。


 いたいだけいていいと言われ、鳳華はそのまま傍に居続けたのだ。時折、彼に力を貸すのを条件にして。それすら、彼が望んだことではなく、鳳華が自主的に力を貸した。


 ある日、彼に召喚魔法というものを聞かされ、どうするかと問いかけられたのだ。


『まだ最終的なことまで考えてねぇけど、無理強いはしねぇさ。お前に任せる』


 すべて決めてからの判断でもいいと言う。だから待った。待って決めたのだ。


 少なくとも、安全に過ごせる場所は得られるからと。


 彼は、魔道生物が虐げられることを良しとはしない。だからこそ、その要として九兎を置いた。このうさぎなら要としては間違いないだろうからと。


「利用はしない。嫌なら断っていいんだよ。ただ、あなたの力を借りたいの。戦いを避けるために」


 何人も主ができたが、鳳華は誰にも興味を持つことはなかった。けれど、この女性は同じで同じではない。


 そんなところに興味を持った。


「……なぜ。造られて、なぜそこまでやるの」


 あなたも利用されたのに、どうして自分とは違うことを考えることができるのだろうか。不思議でたまらない。


「好きな人を危険にさらしたくないから。戦わずに済む道があるなら、その道を進みたい」


 好きな人、と小さく呟かれた。


「それに、こんな私を受け入れてくれた仲間ができた。役立てることがあるなら、なんでもやってみせる」


 造られた命でも関係ないと言ってくれる仲間がいる。だから、自分ができることを精一杯やるのだ。


 それが受け入れてくれた仲間への恩返し。自分がしてしまったことへの罪滅ぼしなのだ。


「そう…あなたはこうしてきたの……」


 鳳華の中へ、朱華の記憶が入り込む。


 造られてからの日々。柊稀へ刃を向けたときの気持ち。華朱への罪悪感。それらがすべて流れていく。


 二人の心が触れ合っている証だった。


「あなたには、仲間がいないの?」


 同じ魔道生物達は仲間ではないのだろうか。ずっと一緒だったというのに。


「仲間…違う…けど、そうかもしれない……」


「友達かな?」


 クスッと朱華が笑うと、目の前に虹色の鳥が現れた。とても美しくて、思わず見とれてしまうほどの。


「きれいね」


「昔の主殿も言ったの。見えていなかったから、なにを根拠に言ったのかわからないけど」


「きっと、感じたんだよ」


 キラキラと輝く光を感じたのだろう。今、朱華が感じているように。


 見えなくてもこの光ならわかる。巫女の代わりに造られた彼女は、とてもきれいで暖かい。


 自分とはあまりにも違いすぎて、少し羨ましいぐらいだった。






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