不吉の神鳥
何事もない、平和な日々を過ごす一同。朱華と華朱の関係も平和的に解決をした。
さすがに、今すぐに仲良くとはいかないが、いい方向へ進んだことは喜ばしいことだと、誰もがホッとしている。
そんな彼らが慌ただしく出掛けることになったのは、鳥獣族から救いを求める知らせが来たから。
「鳥獣族に詳しくないのだが、教えてくれないか」
寒い地であるベル・ロードに、鳥獣はあまり行きたがらない。翼が凍ると嫌がっているのだ。
そのため、虚空は鳥獣族の知識があまりない。氷穂も同様で、よくわからなかった。情報がまったく入ってこないのだ。
「鳥獣族は、簡単に言えば李蒼達みたいなもんだよ。獣と人の姿を兼ね合わせた一族だね」
教師をするだけあって、蒼翔は種族のこともある程度は知っている。それでも交流がない一族だと話は違うのだが、基本的なことは知っていた。
「僕も数回見たことがあるぐらいかな。翼が生えてるから、見ればすぐにわかるよ」
どちらの姿でも生活をする一族。そのため、住居はどちらの姿を重視するかで変わってくる。
地上で暮らすか、木の上で暮らすかというような形だ。両方というパターンもあるらしいと、蒼翔は得意げに言う。
鳥獣族の文化としては、各種族に巫女がいることが有名だ。
「巫女、ですか?」
同じ巫女であっても、さすがに知らないと氷穂は驚く。
「うん。竜族はフェンデの巫女だけだけど、鳥獣には五人。風の巫女、火の巫女、水の巫女、地の巫女、神鳥の巫女がいるんだよ」
神鳥の巫女は特別だと言われており、唯一神鳥と言葉を交わすことができる存在。
各種族の巫女は、神鳥へ祈りの儀式をするだけの存在なのだと、蒼翔は話す。
「詳しいな」
「えっへん! 見直した?」
虚空が感心したように言えば、蒼翔は胸を張ってもっと褒めろと言う。
「あぁ。さすが教師だ」
「神殿にも出張教師をしてほしいぐらいですね」
氷穂の知識は魔法槍士が残した一部。すべてではないため、やはりというべきか他種族には疎い上に偏っている。
竜族としては知識も豊富な巫女であるが、他種族の情報はどうしても曖昧にしかわからない。基本的に神殿から出ることはないからだ。
「俺も、あいつらと一緒になってからしか知らねぇや」
琅悸の代わりにいるのだろうか。ユフィを見ながら虚空はそんなことを思う。
この精霊は本来琅悸といるのであって、氷穂といるわけではない。けれど、彼がいなくなってからもずっと傍にいる。
まるで、琅悸が大切にする者を護ろうとするようにだ。それが琅悸のためになると言うかのように。
助かっているのだが、それと同時に思わずにはいられない。
(つまり、それだけ琅悸が氷穂を大切にしているわけか)
鳥獣族のことが終われば、一回落ち着くはずだ。そうなれば、彼を訪ねる時間が取れるだろうか。いや、訪ねたいと考えていた。
邪教集団を完全に潰すには、戦力面で彼は必要だった。攻防どちらも可能な者は彼しかいないのだ。
「変異は神鳥のことだったわね。あのうさぎと同じようなことが、起きているのかしら」
神竜すら手中にいれている邪教集団。神鳥を手中に入れていても、おかしくはない。
「んー、巫女としか会わないって聞いてるんだけどなぁ」
神鳥は己の巫女にしか姿を見せない。蒼翔はそう聞いていた。だからこそ、誰も姿を見たことがないのだ。
そのような存在と接触することができるのだろうか。
「巫女が裏切った。もしくは、巫女になにかあった。これが妥当な線だな」
虚空が言えば、みな黙ってしまう。どちらも考えたくはなかったから。
「飛狛みたいなのがいたら、引きずり出すこともできるだろうけどな」
のんびりと秋星が言えば、視線が集まる。
「まぁ、そうですね。過去に精霊王すら引きずり出しましたから」
それは知らないと秋星が視線を向ければ、飛狛はなんとも言えない表情で受け流す。
「あのときの飛狛はやばかったですから、神鳥すら引きずり出せそうです」
どれほどやばかったのか、と一同の視線に笑って誤魔化す飛狛。にっこり笑えば、とりあえずなんとかなると。
「わりぃな、待たせた」
「星霜が寝坊したもので」
「言うな!」
その場の空気を変えるよう、遅れて姿を現した双子に一同笑う。気さくな天竜王に、誰もが遠慮なく接することができていた。
もちろん、気を使わないように本人達がやっているのかもしれないが。
「まっ、頑張ってこいよ」
「僕達は未来の故郷を楽しみますから」
のんびりと見送りをするのは、過去組の三人。この三人からすれば、目的は達成している。
華朱のことを見届けた今、三人は残るべきか正直悩んでいた。
鳥獣族の救援が終われば、行く先は邪教集団の元。三人が手を貸すことはなく、その結末も見る必要はないと思っていた。
しばらく一緒に過ごしていたが、彼らなら大丈夫だろうと自信を持って言えたから。
それでも残っているのは、気がかりなことがあったからだ。
「俺も、探る方へ行く。一人なら小島への潜入も楽だしな」
別行動をすると告げた黒耀に、陽霜は頼むと一言告げた。
敵の本拠地に行くなら下調べは必要。彼ほど最適な人材はいない。
前線で戦える黒耀を送り出せるのも、すべては彼女のお陰でもある。
「なにかあれば、黒欧を呼べ。お前の声には応える」
「うん。任せて」
邪教集団と戦うなら、連れていってくれと華朱は自分から言った。
復讐がしたいのではなく、自分のような者を作らないため戦いたいのだと、力強く言った。
それを聞いて、反対する者はいない。彼女は戦力として考えても、頼りになる存在だからだ。
「それじゃあ、行くわよ」
瑚蝶と莱緋。二人の力を使い、大規模な移動の魔法を組み立てる。術を教えたのは飛狛で、制御をするのは瑚蝶だ。
どうやら莱緋は、魔力は強いが制御が苦手らしいとわかったから。苦もなく瑚蝶がやってみせるのは、さすがと言えよう。
「気を付けてね」
「はい」
いつもと変わらず穏やかに笑う飛狛。その笑みを見ていると、柊稀はホッとすることができた。
彼が笑っているということは、それだけ自分達を信じているということ。力を認めているからこそ、彼は笑って見送るのだ。
みんながいなくなると、笑っていた飛狛の表情は一変。
「嫌な予感がする」
「俺も、それが気になってます」
過去と現在の魔法槍士は、共に同じことを考えていた。だからついていかなかったのだ。
「邪教集団がおとなしすぎる」
始祖竜を狙いにこなければ、駒を失っても動かない。なにかあると考えるのが普通だ。
そのなにかも概ね察している。絶対に手を出すと思っていたからだ。
別行動にしたのはそれを探るため。黒耀一人なら、自由に動き回れる。
「気を付けろよ」
「なにがあるかわからないですからね」
三人は村に残るが、なにかあれば動くつもりだ。
「あぁ……行ってくる」
黒欧に跨がり、一人邪教集団を探りに行く黒耀。その背中を見ながら、三人ともが嫌なものを感じていた。
感じていたというよりは、自分達が向こう側ならやると言い切れたことなのだ。
「最悪の展開になるかもしれませんね」
「そうだな」
想定していたことだが、いざそうなると感じれば嫌な気分になる。外れてくれと、土壇場で願うほどに。
顔を見合わせた三人の表情は、とても険しかった。
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