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始まりの竜  作者: 朱漓 翼
五部 氷鬼なる琅悸編
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不吉の神鳥

 何事もない、平和な日々を過ごす一同。朱華と華朱の関係も平和的に解決をした。


 さすがに、今すぐに仲良くとはいかないが、いい方向へ進んだことは喜ばしいことだと、誰もがホッとしている。


 そんな彼らが慌ただしく出掛けることになったのは、鳥獣族から救いを求める知らせが来たから。


「鳥獣族に詳しくないのだが、教えてくれないか」


 寒い地であるベル・ロードに、鳥獣はあまり行きたがらない。翼が凍ると嫌がっているのだ。


 そのため、虚空は鳥獣族の知識があまりない。氷穂も同様で、よくわからなかった。情報がまったく入ってこないのだ。


「鳥獣族は、簡単に言えば李蒼達みたいなもんだよ。獣と人の姿を兼ね合わせた一族だね」


 教師をするだけあって、蒼翔は種族のこともある程度は知っている。それでも交流がない一族だと話は違うのだが、基本的なことは知っていた。


「僕も数回見たことがあるぐらいかな。翼が生えてるから、見ればすぐにわかるよ」


 どちらの姿でも生活をする一族。そのため、住居はどちらの姿を重視するかで変わってくる。


 地上で暮らすか、木の上で暮らすかというような形だ。両方というパターンもあるらしいと、蒼翔は得意げに言う。


 鳥獣族の文化としては、各種族に巫女がいることが有名だ。


「巫女、ですか?」


 同じ巫女であっても、さすがに知らないと氷穂は驚く。


「うん。竜族はフェンデの巫女だけだけど、鳥獣には五人。風の巫女、火の巫女、水の巫女、地の巫女、神鳥の巫女がいるんだよ」


 神鳥の巫女は特別だと言われており、唯一神鳥と言葉を交わすことができる存在。


 各種族の巫女は、神鳥へ祈りの儀式をするだけの存在なのだと、蒼翔は話す。


「詳しいな」


「えっへん! 見直した?」


 虚空が感心したように言えば、蒼翔は胸を張ってもっと褒めろと言う。


「あぁ。さすが教師だ」


「神殿にも出張教師をしてほしいぐらいですね」


 氷穂の知識は魔法槍士が残した一部。すべてではないため、やはりというべきか他種族には疎い上に偏っている。


 竜族としては知識も豊富な巫女であるが、他種族の情報はどうしても曖昧にしかわからない。基本的に神殿から出ることはないからだ。


「俺も、あいつらと一緒になってからしか知らねぇや」


 琅悸の代わりにいるのだろうか。ユフィを見ながら虚空はそんなことを思う。


 この精霊は本来琅悸といるのであって、氷穂といるわけではない。けれど、彼がいなくなってからもずっと傍にいる。


 まるで、琅悸が大切にする者を護ろうとするようにだ。それが琅悸のためになると言うかのように。


 助かっているのだが、それと同時に思わずにはいられない。


(つまり、それだけ琅悸が氷穂を大切にしているわけか)


 鳥獣族のことが終われば、一回落ち着くはずだ。そうなれば、彼を訪ねる時間が取れるだろうか。いや、訪ねたいと考えていた。


 邪教集団を完全に潰すには、戦力面で彼は必要だった。攻防どちらも可能な者は彼しかいないのだ。


「変異は神鳥のことだったわね。あのうさぎと同じようなことが、起きているのかしら」


 神竜すら手中にいれている邪教集団。神鳥を手中に入れていても、おかしくはない。


「んー、巫女としか会わないって聞いてるんだけどなぁ」


 神鳥は己の巫女にしか姿を見せない。蒼翔はそう聞いていた。だからこそ、誰も姿を見たことがないのだ。


 そのような存在と接触することができるのだろうか。


「巫女が裏切った。もしくは、巫女になにかあった。これが妥当な線だな」


 虚空が言えば、みな黙ってしまう。どちらも考えたくはなかったから。


「飛狛みたいなのがいたら、引きずり出すこともできるだろうけどな」


 のんびりと秋星が言えば、視線が集まる。


「まぁ、そうですね。過去に精霊王すら引きずり出しましたから」


 それは知らないと秋星が視線を向ければ、飛狛はなんとも言えない表情で受け流す。


「あのときの飛狛はやばかったですから、神鳥すら引きずり出せそうです」


 どれほどやばかったのか、と一同の視線に笑って誤魔化す飛狛。にっこり笑えば、とりあえずなんとかなると。


「わりぃな、待たせた」


「星霜が寝坊したもので」


「言うな!」


 その場の空気を変えるよう、遅れて姿を現した双子に一同笑う。気さくな天竜王に、誰もが遠慮なく接することができていた。


 もちろん、気を使わないように本人達がやっているのかもしれないが。


「まっ、頑張ってこいよ」


「僕達は未来の故郷を楽しみますから」


 のんびりと見送りをするのは、過去組の三人。この三人からすれば、目的は達成している。


 華朱のことを見届けた今、三人は残るべきか正直悩んでいた。


 鳥獣族の救援が終われば、行く先は邪教集団の元。三人が手を貸すことはなく、その結末も見る必要はないと思っていた。


 しばらく一緒に過ごしていたが、彼らなら大丈夫だろうと自信を持って言えたから。


 それでも残っているのは、気がかりなことがあったからだ。


「俺も、探る方へ行く。一人なら小島への潜入も楽だしな」


 別行動をすると告げた黒耀に、陽霜は頼むと一言告げた。


 敵の本拠地に行くなら下調べは必要。彼ほど最適な人材はいない。


 前線で戦える黒耀を送り出せるのも、すべては彼女のお陰でもある。


「なにかあれば、黒欧を呼べ。お前の声には応える」


「うん。任せて」


 邪教集団と戦うなら、連れていってくれと華朱は自分から言った。


 復讐がしたいのではなく、自分のような者を作らないため戦いたいのだと、力強く言った。


 それを聞いて、反対する者はいない。彼女は戦力として考えても、頼りになる存在だからだ。


「それじゃあ、行くわよ」


 瑚蝶と莱緋。二人の力を使い、大規模な移動の魔法を組み立てる。術を教えたのは飛狛で、制御をするのは瑚蝶だ。


 どうやら莱緋は、魔力は強いが制御が苦手らしいとわかったから。苦もなく瑚蝶がやってみせるのは、さすがと言えよう。


「気を付けてね」


「はい」


 いつもと変わらず穏やかに笑う飛狛。その笑みを見ていると、柊稀はホッとすることができた。


 彼が笑っているということは、それだけ自分達を信じているということ。力を認めているからこそ、彼は笑って見送るのだ。


 みんながいなくなると、笑っていた飛狛の表情は一変。


「嫌な予感がする」


「俺も、それが気になってます」


 過去と現在の魔法槍士は、共に同じことを考えていた。だからついていかなかったのだ。


「邪教集団がおとなしすぎる」


 始祖竜を狙いにこなければ、駒を失っても動かない。なにかあると考えるのが普通だ。


 そのなにかも概ね察している。絶対に手を出すと思っていたからだ。


 別行動にしたのはそれを探るため。黒耀一人なら、自由に動き回れる。


「気を付けろよ」


「なにがあるかわからないですからね」


 三人は村に残るが、なにかあれば動くつもりだ。


「あぁ……行ってくる」


 黒欧に跨がり、一人邪教集団を探りに行く黒耀。その背中を見ながら、三人ともが嫌なものを感じていた。


 感じていたというよりは、自分達が向こう側ならやると言い切れたことなのだ。


「最悪の展開になるかもしれませんね」


「そうだな」


 想定していたことだが、いざそうなると感じれば嫌な気分になる。外れてくれと、土壇場で願うほどに。


 顔を見合わせた三人の表情は、とても険しかった。







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