荒れ狂う獣神3
激しい戦いをした一晩。傷だらけで村に戻れば、ライザとミルダが駆け寄ってきた。
その際、華朱の姿を見て二人は複雑な表情を浮かべる。そして一言、謝罪をした。
複雑な心境もあったが、とにかく疲労が酷かった為、誰もが休息を選んだ。
そして翌日、この先どうするかと話し、しばらくここに滞在することを決める。
怪我が治るまでとりあえず休息は必要だと、全員の意見が一致したのだ。含む部分も込みで。
「まぁ、僕はいいけど」
「ありがとう」
村に滞在する間、華朱が泊めてくれと柊稀を訪ねてきた。この先をどうするのか、気持ちの整理も含めてゆっくり考えたいと。
朱華達が造られた過程、なぜ華朱が狙われたのか。それらの説明はすべてされた。
あとはどう考え、選択するかは華朱次第。おとなしく殺されるつもりはないが、彼女の選択を受け入れると朱華は告げた。
村がよく見える部屋を借り、華朱はじっくり考えた。
「ふきゅ。懐かしい家ですねぇ」
「知っているの?」
「はいですぅ」
家の中を見ていた九兎は、二本失った尻尾を振りながら華朱にすり寄る。
痛くないのかと問いかけたが、九兎からは問題ないとのこと。力が失われるだけで、切り落とされることに痛みは感じないらしい。
「ふん。最初の主の、叔父が住んでいたな」
「ですぅ」
陽が当たる場所で寝そべる李黄に、華朱は笑みを浮かべた。あれだけ激しく戦ったのに、その欠片も感じさせない。
「そうなんだ。ねぇ、みんなはどうしたい?」
これからどうするか、みんなの意見を聞く。そうすれば間違うことはないだろう。
今回、自分は一人でないと気付けた。すべてを失い、一人だと思ったのは違うのだと。
憎しみに任せて動いても、自分を壊すだけだということも。
そして弱かったからこそ、邪教集団という見知らぬ組織に利用されたのだと。自分にまったくの非がない、などと言えなかった。
「我は、主殿が決めたことならなんでも従う。復讐だろうが。ただ、造られた命も傷つくとだけ、覚えといてくれ。我々にも感情があり、思考がある。苦しいと感じるのだと」
姿を現すことなく李蒼が意見を述べる。魔道生物は造られた命。だからこそ言えることもある。
「李蒼と共に行く。それだけだ」
そっけない李黄は、そっぽ向いたまま言う。
「……造った奴が悪い」
だが、珍しく自分の意見を言う李黄。造り、命令した奴が悪いと。
彼女からしたら朱華は自分と同じ立場。造った邪教集団は、主と同じ立場なのだ。命じられるがままに、彼女は動いただけなのだ。
「そう、ね。彼女は造られただけ。そして、主に逆らったのよね」
造られたことを除けば普通の女性。恋をして、好きな人と一緒にいたいと願う。
(そんな気持ち、わかっちゃうから困るよね)
なぜあれだけ恨んでいたのかわからない。それほど、今の華朱には憎しみがなくなっていた。
過去の魔法槍士にたいしても同様のこと。なぜ過去へ行ったのか。それすら仕向けられていたような、そんな気持ちになる。
両親のことも、よく考えてみれば恨む先は邪教集団だ。だが、造られた両親を見て、話してみて、彼女は思った。
(お父さんもお母さんも、きっと復讐は望まない。朱華の両親で、あの二人は私の両親じゃない。育ての親も私にはいるし)
村で暮らしていた頃、よそ者と受け入れられなかった中、唯一友人となってくれたイリア。
友人の両親が育ての親。血の繋がりはないけど、本当の両親と思っていたほどに大切な存在。
(色々考えても、私は不幸せなわけじゃない)
色々と会ったかもしれないが、幸せに過ごしていた日々はあった。両親は殺されてしまったかもしれないが、育ての親がいて、愛情を注いで育ててもらえたとわかっている。
「主殿、お客ですよぉ」
深く考えていた華朱は九兎の言葉に外を見た。イリアは村へ帰っている。自分を訪ねてくるような知り合いがいただろうか。
「あっ……」
見上げて華朱を見たのは黒耀だった。昔、たった数日を一緒に過ごした青年。
家を出ていくときに見せた微笑み。それにときめいたのは、誰にも言っていない秘密。
二人で近くの森へ行った。一言も話すことはなく。
「柊稀が教えてくれた。いい場所だな」
ふっと笑みを浮かべる黒耀。この無表情な青年が、驚くほど優しい笑みを浮かべるなど、何人が知っているのか。
「あの日の夜、覚えているか?」
「うん、覚えているわ」
雨が続いたとある日の夜。明日には出ると宣言した最後の夜だった。
「なぜ、あんな話をしたのかわからなかった」
なぜか、自分の話をした。誰にも本音を話したことがなかったのに、名前も知らない相手に話していたのだ。
「居心地がよかった。家族の暖かさを知れる家で」
「だから、喋っちゃった?」
「そうかもしれないな」
黒耀は家族との仲がうまくいっていなかった。後継者として育てられ、竜王山にいることが多かったのだ。幼い頃からあまり家にいなかったことも、影響していたのだろう。
弟妹とどう接したらいいかわからず、気付けば居場所を失っていたのだ。
血の繋がりはないと聞き、それでも家族として成立していた。とても羨ましく感じ、これが家族なのだと知れた。
そして家族になれたような錯覚まで、感じてしまったのだ。
「華朱……」
真剣な表情を浮かべ、黒耀の手が華朱の頬に触れる。
「ずっと傍にいてやれない。魔法槍士は、短命だからだ。俺は、もう先は短い」
短命と聞き、驚いたように華朱は見上げた。一人の王に一人の魔法槍士だと思っていたからだ。
一般の民には魔法槍士の認識はその程度のもの。王と違い名前も知られないからだろう。
「だから、お前が柊稀を好きなら諦めようと思った」
「違う。柊稀は特別だったけど……だけどそれは」
自分に世界を教えてくれたから。名前すらなかった華朱に、名前をくれた。だから彼は特別なのだ。
それが恋なのかと聞かれれば、今は違うと自覚している。
雨が降ったから声をかけただけで、華朱はその前から黒耀を見ていた。薬草を採りに行く際、彼を見かけたのだ。
「私は…あなたが好きです……」
「どれぐらい、一緒にいられるかわからない」
「構わない。だから……」
傍にいさせてくれと華朱は訴える。
ピナスに再び来たとき、ここに住もうと思った。ここが魔法槍士に縁のある村だから。
もしかしたら、また彼と会えるかもしれない。もしかしたら、彼が来るかもしれない。そう考えたからだ。
暖かい陽射しが差し込む森の中、華朱は唇に触れた温もりに驚く。
「俺は、真面目過ぎるらしい。苦労かけるかもしれない」
「ふふっ。それは楽しみ」
楽しみなんて言われるとは思わず、わかりやすいぐらいに黒耀は驚き、すぐに笑みを浮かべた。
どちらとなく再び唇を重ね合わせ、強く抱き締める。現実なのだと実感するように。
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