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第一話 令嬢騎士と魔女見習い

 ある晩、私はひっそりと身を潜めて生まれ育った街の外へと出て行った。

 メランドリ家の伯爵令嬢として生まれた私には、ある夢があった。

 その夢はズバリ、冒険をして世界を見て回ること! 

 でもずっと冒険はできないわ。私には令嬢としての勤めがあるもの。だから私は両親と交渉して、一年間旅をさせてもらうことになったわ。

 そして今日がその旅立ちの日なの! もちろん身分は全力で隠すわ。身分がバレて家に迷惑がかかることは絶対にあってはいけないから。

 偽名も既に決まっているわ。ハンナ•チャンドラーよ。深い意味はないけどね。


 「それにしても最近の道具は便利ね」

 私は魔法の粉を使って化粧を施し、魔法の櫛を使って元々の金髪から緑髪に変化させる。通常の変装道具を使わないのは、途中で変装が解けてしまうのを防ぐためだ。

 粉も櫛も最低一ヶ月は効果があるから、変装が解ける合間にさえ気をつければ私の正体がバレることはない。

 変身魔法を使えるのが一番良いのだけれど、私はお兄様や妹と違って魔法の才能に恵まれなかったのよね。その分剣術は私が一番なのだけど。


 「さて、まずは近くの街を目指すわ!」

 今のところ誰かに尾けられている様子はない。立場上日中に移動できなかったのが歯痒いが、この初日を乗り切れないなら冒険など到底できないだろう。

 街の外は森となっていて、道は整備されている方だ。だが灯りは別で、私は手に持ったランプの灯りを頼りに森を歩いていた。

  夜の森は月明かりがあまり届かない。私は先に進めば進むほど、ランプの灯りのみを頼りにするようになっていった。


 そして森の中心に着いた頃、私は斜め右前方に白い光を見つけてそれに引き寄せられていった。

 「あれはもしや、魔法による光? 使用者がいるはずだけど、一体誰なのかしら?」

 その動機は完全なる好奇心。罠の可能性も考慮しなかったわけではないが、興味の方が勝ってしまった。

 「……誰? 一人は危ないよ?」

 「わっ!」 


 私が光に近づきそれを確かめようとした瞬間。背後から何者かに肩を触られ、私は咄嗟に後退りした。

 「急にごめんなさい。ボクは魔女見習いのカルラ、君は?」

 「私はハンナ。最近旅に出た騎士よ」

 暗闇から姿を現した人物は、茶色のローブを身につけた、長い赤髪に赤眼が特徴的な少女だった。年代は私と同じぐらいだろうか、身長はあまり高くないが雰囲気的にそんな感じがする。

 立派な大きな杖を両手で持っていて、杖の先の空間には火が燃え盛っていた。


 「ハンナ。君は一人で大丈夫? 良かったら夜が明けるまで一緒にいない?」

 彼女は表情の乏しい顔で私に詰め寄ってくる。敵意はなさそうで、心配してくれているようだが少し怖い。

 「ちょっと不安かも。お願いしても良い?」

 「分かった。ボクも少し不安だったから助かる」

 カルラは頷くと、私を光のある方に誘導する。光の正体はやはり彼女が魔法で生み出したもののようで、その周辺にはカルラの荷物などが置いてあった。

 「好きに使って」

 「ありがとう!」

 カルラは彼女の荷物を漁りながら、私を椅子に座らせてくれる。おそらく彼女のものなのだろうが、座って良かったのだろうか。


 「少し探索に行ってくる。ここは結界が張ってあるから心配しないで」 

 突然、カルラは荷物を漁るのをピタリと止めると、私に背を向けて光の外から出ようとする。

 私はそれをみて慌てて彼女を呼び止めた。

 「待って、一人で行って大丈夫なの?」

 私が物を盗む可能性もあるし、一人は不安だという話ではなかっただろうか。

 「すぐ戻る。花を取ってくるだけだから」


 カルラは私に手を振ると、「ヒートヘイズ」と唱えてその行方を一瞬にして眩ました。私の背後を取ったのと同じ魔法だろうか。

 「花を取ってくるか。夜にしか咲かない花はあるけど、ここに生息しているなんて話聞かないけど」

 わざわざ今花を摘みに行く理由はそれ以外考えられない。あるいは、彼女が私に嘘をついているかだ。


 「……私を害する気はないはず」

 彼女は一度私の背後を取っている。私に何かをする気なら、あの場でやれば良かったはずだ。

 理屈を抜きにしても、私から見た彼女のあの優しさは紛れもないものだった。


 「それにあれは……焦っていた」

 カルラは荷物を漁っていたが、結局何も取り出さなかった。あれは異常を察知して、物を取り出すどころではなかったからなのではないか。

 「その異常とは何? 考えられるのは——」

 私はそこで、彼女の職業について思い出した。

 「魔女狩りだ。お父様が兵隊さんと話していたわね、魔女を拉致している連中がいるって」

 その目的は不明だが、魔女狩りの連中には魔女もいるらしい。本当によく分からないものだ。


 「カルラはおそらく魔法か何かでそいつらの存在に気がついた。だから私を置いて逃げたのね」

 では逃げたのは何のためか。それは決まっている。

 「行こう。ここにいては危険だわ」

 私は地面に耳を付けて音を聞く。そこで聞こえてきたのは爆発音。方向にして1時の方向だ。

 「なるほど。そこね」

 私は剣を引っこ抜くと、一目散に音の方向に向けて走り出した。

 「絶対に逃さないから!」


 私は大地を蹴り木を蹴り岩を蹴り、立体的な動きをしながらどんどん加速していく。暗いが特に問題はない。もう既に目は慣れている。

 遠目で複数の人間が目視で確認できる。付近が炎の光で逆光になっていて顔は確認できない。

 だが一人、カルラらしき人物が倒れ込んでいる。爆発音といい、戦闘があったのは明白だ。

 「ちょっと待ったー!!」

 私はカルラと何者か等を分断するように飛び込み、地面を大きく抉る。カルラに怪我がないよう、落ちる場所はカルラに最も遠い位置だ。

 砂埃が落ち着くと、フードを被った謎の男達が私のことを見下ろしていた。強い敵意が感じられる。


 「誰だ貴様。我々魔神教の邪魔をするな」

 「名乗るほどの者じゃありません。あなた達程度ではね。大丈夫、カルラ?」

 「なん……で?」

 私は変な集団を無視し、後ろを向いてカルラの様子を確認する。軽傷ではありそうだが、立ち上がることはできなさそうだ。私一人で片付けよう。

 「後ろを向くとは愚か者め。死ね」

 この隙を逃すまいと、フード集団は一斉に杖から黒い電撃を放ってくる。私はそれを剣で受け止めると、フード集団に向けて剣を振り——彼らの利き腕をまとめて斬り落とした。


 「試し斬りがしたかったんだけど、まさか人間相手に使うことになるとはね」 

 「ぐがぁぁぁぁ!! なんだ貴様!!」

 「さぁ? 通りすがりの剣士とでも言っておくわ」

 フード集団は呻き声を上げて地面に転がっている。だらしない連中だ。人を傷つけておいてこの程度か。

 「ちっ……撤退だ!」

 フード集団のうちの一人がそう言うと、彼らの周囲に魔法陣が現れ一瞬にして彼らの姿は消えてしまった。取り逃がしてしまったか、尋問する気だったのだが。


 私は倒れているカルラをそっと抱えると、安全な場所に移動させて安静にさせる。私が彼女の怪我している部分に応急処置をしようとすると、カルラは「大丈夫、自分で治せる」と言って回復魔法を使って自分の傷を治療していた。

 「ありがとう。でも何故来てくれたの?」

 「嘘が下手なのよ、あなたは。私を巻き込まないためにあなたはあそこから離れたんでしょう?」

 「……」


  図星か。カルラは私のためにあそこから離れたのだ。あの場所は魔法を存分に使っていた。故にカルラ本人が注意を惹きつけなければ、間違いなくあの現場は襲撃されていただろう。

 つまりカルラは囮になってくれたのだ。彼女が拠点からかなり離れた場所にいたことからもそれが窺える。私を拠点から出さなかったのは賊やモンスターに襲われることを危惧したからだろう。


 「ねえカルラ。私と一緒に旅をする気はない? もしあなたが旅をしてくれるなら、私はとっても嬉しいわ」

 見ず知らずの私にそこまでしてくれた彼女ならきっと、良い仲間になってくれるはずだ。それに私は単純に彼女と旅をしてみたくなった。

 「うん、こちらこそお願い」

 カルラは二つ返事で了承する。断られたと思うと少し緊張したが、引き受けてくれて良かった。

 「ありがとう! それじゃこれからよろしく頼むわ、カルラ!」

  「——ええ」

 私がカルラに握手をした時。一瞬だけ無表情だった彼女の顔に、笑顔が浮かんだように見えた。

好評だったら続けます! 

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