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第四話 君からの贈りもの

 三十年もの間、待ち望んでいた美里との生活は、幸福に満ちていた。


『そういえば貴方、仕事に行かなくてよかったの?』

「今年、退職したばかりだよ」


 どうでもいい会話でさえ、涙が滲むほど嬉しい。


『六十で退職ってはやすぎないかしら』

「後継者を育てて、会社を譲ったんだ。不動産と配当の不労所得で生活費は十分賄えるし、貯金もまだまだあるよ」

『これだから金持ちは……』


 私は世界的に有名なグローバル企業を親から継ぎ、去年までは社長をやっていた。それ故に多額の資金を持っていたため、美里の脳を冷凍するという金のかかる手段を取ることが出来たのである。ちなみに、美里と出会ったのは、社会経験の一つとして自身が継ぐ会社の平社員をしていた頃のことだ。


「まぁ、貧困格差が三十年前より極端に進んだのは間違いない」

『その中で、貴方は勝ち組にいるのね』

「あぁ。君と再会出来たのだから、確かに私は勝者だ」


 満足そうに頷きながら、私はベッドの中に潜り込む。大きな箱の形をした彼女と共に眠ることが出来ないことだけが残念であった。……これも一週間前であれば考えられなかった贅沢な悩みである。


『貴方、あれは何?』


 布団から顔を出して美里に視線を向ければ、彼女は機械の腕で壁際を指差していた。その先には丁度人が横たわれるほどの大きさの透明なカプセルが置かれている。


「君のアンドロイドだよ。もう一週間前に停止させた」

『やだ、私ったら老けているじゃない』


 アンドロイドの【美里】が横たえられているカプセルを覗き見ながら、美里は嫌そうな声を上げる。


「それはそうだよ。人間らしくするために定期的に見た目を老いさせていこうと決めたのは君じゃあないか」

『それは覚えているけれど、こうして改めて見せられると嫌なものだわ。まぁ、今の私は人間の姿もしていないのだけれど……』


 自身に酷似させたアンドロイドを作ると決めたのは美里であった。その理由の一つは、彼女が死んだ時点で私も後を追いたいと、当時の私が呟いたためらしい。確かにそのようなことを言った覚えはあるが、その言葉を聞いた彼女は私を一人にしてはならないと確信したそうだ。また、冷凍した脳から人間を蘇生する技術が私の生きている間に開発出来るかどうか分からなかったため、その場合に自分の代わりになってくれる存在があった方がいいと判断したのも理由の一つだという。

 そして、彼女は病を発症してから脳を冷凍するまでの五年間、AIに自身の情報を学ばせ続け、そうして作り上げた自身と瓜二つのアンドロイド【美里】を置いて、冷凍庫の中で眠りについた。


「君が私にプレゼントしてくれたアンドロイドのおかげで、辛いはずだった君のいない三十年を耐えることが出来た。本当にありがとう、美里。君を愛している」

『……歯の浮くようなこと言っていないで、さっさと寝なさいよ』


 ぼそりと言われる。これは手厳しい。


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