表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/24

第3話


 口付けに特別な力など無いことを知ってから数日後。グローリー家の庭先で、ユグル兄様と父上が剣の訓練を行っていた。


 私はそこから離れた場所で椅子に座りながら、二人の動きを観察している。


「はぁ!」

「甘いぞ、ユグル!!はぁっ!……よし!今日はここまでだ!」


 ユグル兄様の渾身の一撃を、軽々と受け止めた父上がそう告げたことで、本日の訓練は終了した。一度深くお辞儀した後、肩で息をしながら地面へと座り込むユグル兄様は、メイドからタオルを受け取って汗を拭っている。


「はぁぁ疲れたぁ!アレックス!折角見学に来てるんだし、ちょっとやってみたらどうだい?」

「いえ、大丈夫です。身体を動かしに来たわけでは無いので、そのまま続けてください」


 私はユグル兄様の誘いを丁重に断り、私は二人の様子を眺めていた。


 私がここに来た理由は、兄様に言ったように体を動かしに来たわけではない。単純に二人の訓練に興味が湧いたので、観察をしに来たという訳だ。


 そして、実際に訓練をこの目で見た事で気づいた事が多々ある。


 まず、父上とユグル兄様には圧倒的な差があるという事。


 勿論、背丈も違えば筋肉量も違うので、当然と言えば当然の結果なのだろうが、ユグル兄様の職業は父上と同じ『剣士』である。それなのにこうも差が出てしまうという事は、職業以外に大切なものがある様に思える。


 私の知識が正しければ、恐らくそれはステータスの差だろう。


「父上。何故同じ『剣士』であるのにも関わらずここまでの差が発生するのでしょうか。ユグル兄様も十一歳ですし、子供と言う歳でも無いでしょう」

「んー。簡単に言ってしまえば経験の差なんだろうが、アレックスに分かりやすく伝えるなら、それはステータスの差だろうな!」


 父上はそう言って、自慢げに鼻を鳴らしてみせる。


「やはりステータスですか。それは自分の状態を表すものですよね?体力や魔力量と言ったもので、確か魔物を倒すと得る事が出来る経験値が、ある一定のラインを超えると、その値が上昇するという」

「そうだ!私はこれでも沢山の魔物を倒してきたからな!レベルも二十は超えているし、ステータスはユグルより遥かに上だ!」


 父上のレベルが二十という事は、ユグル兄様はまだレベル一のため、その差は十九もある。流石にそれほどの差があれば、ステータスにもかなりの差が生じてしまうだろう。


 同じ職業で有利に立つためにはレベルが必須という事になるのだ。私はその事実を記憶した後、二人の訓練を見ていてもう一つ気になっていた点を父上に訊ねた。


「もう一つ聞いても良いでしょうか?父上とユグル兄様が、時々叫んでいた『強斬』という言葉ですが、あれは『剣術』スキルですか?」

「そうだ!よく知っているな、アレックス!流石沢山本を読んでいるだけあるなぁ!」


 父上は剣を腰に収め、私が『剣術』スキルについて知っていたことに感心した。だがこんなものは屋敷にある書物を読めば、誰でも知ることが出来るものである。私にとっては書物に記載が無かったスキルの内容についての方が興味深いのだ。


 それは父上とユグル兄様の『強斬』と口にした直後の動作が全く一緒だったことである。

 

 書物には『強斬』のスキルについて『自分の攻撃力を高めた一撃を放つ』と記されていただけであった。しかし二人は『強斬』と口にした後、必ず一歩後ろに下がってから相手目掛けて剣を振るっていた。


 この一連の動作が全く一緒だったのである。果たしてその動作は自覚して行っているのか、それとも無意識に行っているのか。もし無意識に行っているのであれば、それはスキル発動時に動作を強制させられているということになる。


「その『強斬』についてなのですが、スキルを発動する際に、必ず一歩後ろへ下がらなければいけないのですか?何度か発動したところを目にしましたが、二人は全ての発動時に必ず一方後ろへと下がっていました。これではスキル名を口にした途端、その後の動きが読まれてしまうのではないでしょうか?」


 私が問いかけると二人はぽかんと口を開いて固まってしまう。そしてお互いに目を合わせた後、まるで子供をあやすかのように笑みを浮かべた。


「ハハハ!気にしたことは無かったが、確かにそうだな!だがアレックスよ、お前は私よりも早く動ける自信があるか?」

「父上、それは可哀想ですよ!アレックスはまだ五歳になったばかりなのですから!」


 ユグル兄様が父上を窘め、二人は私を見ながら優しく微笑んでいた。父上は私に自分より早く動ける自信があるか?と尋ねてきたが、そもそも話の主旨が違う。

 

 私は『スキル発動時に必ず一歩下がらなければいけないのか?』という話をしていたのだ。

だれも戦闘の事などは聞いていない。


 結局、私は質問の答えを貰えないまま、二人の訓練は終了となった。



作品を読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます。

宜しければ、ブックマーク、評価の程をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ