第20話
「やっと見つけたわよ!」
野盗の情報収集を開始してから五日後。私はロックスの街の酒屋で、見覚えのある女性に詰め寄られていた。
「別に隠れてなどいないのだがな」
温くなった果実酒を口に運びながらソニアに返事をする。彼女の大きな声とテーブルを叩いた音で、周囲の視線は私の元へと集中していた。
ソニアはそれを気にする様子もなく、私の目の前の席へと座り始める。ソフィもそれに続いて、空いている席へと腰を下ろした。
「突然あの場から消えてしまったので、驚いたんですよ!すいませんが私達にもアレックスさんと同じものを頂けますでしょうか」
何食わぬ顔で注文を始めるソフィ。もしかして彼女達は私と食事を共にするつもりなのだろうか。ソニアも追加で料理を注文し始め、それが終わると先日と同様勧誘が始まった。
「アレックスさん……て呼んだ方が良いのよね?この間も話したけど私達とパーティーを組まない?貴方のような強い人が居てくれると心強いのよ!」
「アレックスでいい。呼び方などさして気にする問題ではない。先日も言ったが、その誘いは断らせていただく。君達と行動するよりも私一人で行動した方が利は大きいからな」
「そこを何とかお願いします!私達なんでもしますから!」
私の手をソフィの柔らかい両手が包み込む。現在、彼女はルナが私に教授してくれた『上目遣い』を放っているのだが、なるほどこれは普通の男性には効果が高いはず。
修道服に覆われているが、ソフィの豊満な胸部が作りし峡谷のようなラインが性欲を駆り立てているのが分かる。ソニアの時よりも圧倒的に魅力的なものだった。
だが生憎、私はそう言ったものには疎いため彼女の誘惑には微塵も心が揺るがなかった。
「何でもしますと言われても、君達が出来ることは私でも出来る。つまり一人で問題ないということだ」
彼女の手を振りほどき、少し強めな口調で言葉を返す。ソフィは残念そうに項垂れるが、今度はソニアが私の腕をつついてきた。
「あ、あなたがその気なら、あ、あっちの方だってしてあげるわよ!」
頬を紅潮させ身体を強張らせながらそんなことを言い放つソニア。身悶えするほど恥ずかしいのであれば、言わなければいいのに。
「女性が軽々しくそんな発言をするな。残念ながら君達と行動する利が私にない以上、どんな誘いであろうと受けることは出来ない」
「……ごめんなさい」
説教じみた私の言葉に、ソニアもソフィ同様にうつむいてしまった。私の夢が世界を旅することである以上、他人と行動を共にするのは足枷になってしまう。彼女達には悪いが、どんな条件であろうと私が首を縦に振ることは無いだろう。
それにしても、この二人は容姿が整っているな。ソニアは大剣を振るう割に華奢な身体つきで、ソフィは言わずもがなだ。私の標的である野盗に遭遇してしまえばすぐさま餌食になってしまうだろう。
「それにしても、野盗の情報が全く手に入らんとはな」
彼女達がしょぼくれているのも気にせず、情報収集に励んだ五日間で全く成果が得られていないことに思わずため息混じりの言葉を漏らす。情報が得られそうなギルドや酒屋に立ち寄り、野盗の居場所を探っていたのだが、ロックスの街周辺に野盗が居るという情報は得られなかった。
こうなるとフランチェスカが私をBランク冒険者に昇格させないために、不可能な条件を突きつけたとしか思えなくなってくる。そう思っていた時──
「野盗ですって!?あなた野盗の情報を集めているの!?」
落ち込んでいたはずのソニアが急に笑顔になり、声を張り上げながら詰め寄ってきた。彼女の顔が目の前に近づいて来たことで、私は驚き身体を後ろへと倒す。
「あ、ああ。野盗を捕縛もしくは殲滅すれば、私はBランク冒険者に昇格することが出来るのだ。そのために情報を集めていたのだが、うまくいかなくてな」
私の言葉を聞いたソニアがニヤリと笑い、椅子にドカッと座りなおした。先程とは打って変わって、その顔はどこか嬉しそうだ。ソフィはそんなソニアを見て困惑している。
「……私知ってるわよ。野盗の居場所!」
「なんだと!何処に居るんだ!」
ソニアの発言に思わず目を見開き声を荒げる。ソフィが私の声に驚き体をビクリと震わせたがそんなことは気にもならない。私がこの五日間で入手することが出来なかった情報を目の前にいる女性が持っているのだ。
興奮気味にソニアへと詰め寄る私だったが、含みのある笑みでそれを制するソニア。
「教えてあげても良いわよ?でもその代わり──」
「......パーティーを組めと言いたいのだな?」
「そう言う事!悪い話じゃないでしょ?貴方は野盗の居場所を知れるし、私達は貴方とパーティーを組める!」
「それは君達にとっては悪い話ではないだろう?私にとってはそうではないのだ。情報を得るためだけに、長い間君達に縛られることになるのだぞ?」
ソニアの提案は公平なものではない。パーティーを組むということはこれから先、彼女達の意思を私の行動に組み込まなければいけなくなってしまう。いざとなれば彼女達を置いてほかの街に移動すれば済む話だが。
「長期間パーティーを組んでほしいわけではありません!一年……いえ半年でいいのです!私達とパーティーを組んで頂けませんか?」
ソフィが頭を下げ、懇願を始める。私は彼女を見つめながら、思考を巡らせた。なぜ半年でいいのか理由は定かではないが、半年程度であればパーティーを組むくらいいいのではないか?
私も冒険者になって数日しか経過していない身だ。その半年間で彼女達から冒険者の知恵を授かるのも悪くはない。屋敷で書物を読んでいただけでは知ることが出来なかったことも、彼女達なら知っている可能性はあるからな。
「……本当に半年でいいのだな?」
私の口から出た言葉に、二人の表情がパッと明るくなる。彼女達の熱意に負けたわけでは無く、あくまでも私にとって最善の策を選んだだけなのだが、彼女達にとってもこの選択は最善の結果になったと言えるのだろう。




