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孤独な娘を探し求めて、父は森のなかをさまよう。
コラージュがいない場所になら、セナがいるかもしれない。ミズキからの助言を頼りに、シンはなるべく人通りの少ないところを選んで探すようにしていた。
倉庫、リネン室、ボイラー室、閉鎖された旧射撃場……探すべきところには困らなかったが、終わりは見えなかった。
「なんて暑さだ」
シンは額ににじむ汗を拭いながら呟く。旧射撃場を捜索したあとのことである。
単に捜索するだけならいい。だが、いまは七月の終わり。しかも夕方の、西日が強い時間帯だった。何時間も外を歩き続けていい時期ではない。
このままでは身体が持たない。シンは近くの建物の陰に身を隠し、地べたに座りこんだ。
「まったく……どこにいるんだ、セナは」
彼はタイル貼りの外壁に背中を預けると、足元の石を拾い上げ、それを投げる。石は三メートルほど先の、旧射撃場の門に当たり、かちんという音を立てる。また石を拾い、門に当てる。もう一個拾い、門に当てる。それを何度も繰り返していると、建物の勝手口がゆっくりと開き、なかから白衣姿の女が現れた。
彼女はシンを見下ろして言った。
「さっきから変な音がすると思って来てみれば、こんなに大きな子どもが石を投げて遊んでいたのね」
女は、年齢はシンと同じくらいだろうか。ブロンドの長髪に、整った目鼻立ち。白衣の下にはおそらくブランドものであろう服を着こなしている。コラージュではなく人間なのだと一目でわかる装いだった。
「あんたもやりたいのか」
シンは持っていた石を女に差し出した。
「ごめんなさいね。私、そういうお遊びはもう卒業したの」女はにっこりと笑った。「それから、外に長くいるときは、ちゃんと水分補給をしないと駄目よ。ええと……」
「ソノエ・シン。今日、ここに配属された監察官だ」
すると女は、まあ、と驚きの声をあげた。
「あなたが噂の新人さんね。私はミヨシ・ユミ。この森の専属医師よ」
「医師か」
シンはユミの手元を見た。つけ爪のされていない、白く細い手だった。
「それで、新米パパがどうしてこんなところで石ころ遊び?」
「担当するコラージュが行方不明でな。セナというんだが」
「あなた、スノーホワイトのパパに……」
微笑みを浮かべるユミの唇の端が、緊張でかすかに引き締まった。
「白雪姫。それがセナのコードネームって話だが、なんでそんな名前をつけられたんだ。お姫様ってのは戦場から最も遠くにいるものだろう」
「会えばわかるわ。それにしても新入りにそんな大変な役を任せるなんて、施設長はいったい何を考えているのかしら」
「やっぱり問題児なのか、そのセナって子は」
「セナはもう立派な大人よ。年は二十五。人間でいうと何歳かわかる?」
「二十五だろう。それくらい知ってる」
シンはユミの言葉を遮った。
「そう。コラージュは人間と同じ見た目をして、人間と同じ速さで年を取る。でも、人間ではない。予習はちゃんとしてきてるみたいね」ユミは言った。「セナは問題児というか、難しい子なのよ。誰にも心を開こうとしないの。仲間にさえも」
「さっき出会ったコラージュが、セナを猟犬と呼んでいた。その役目のために、同胞から避けられているとも」
「そう。彼女は孤独なの。いままで何人もの人間たちが彼女の心の鍵を開こうとしたけれど、駄目だった」
後ろめたげに伏せられた目が、彼女もその何人もの人間たちの一人であることを物語っているようだった。
「そんな娘をなぜおれなんかに預けるのかね」
セナというコラージュは、そうとう入り組んだ事情と心根を持っているらしい。シンは彼女に会うのが不安になってきた。