53.命を燃やせ!
「はぁぁぁぁ。痛かったぁぁ」
『ありがとうな。おかげで倒せたわ』
「ううん! 私も役に立てて嬉しいんだぁ!」
ニコニコとそういうミリアだが、手は赤く腫れ上がりなんだか可哀想な気がするが。本人は至って冷静で手をさする位でなんとも思ってないみたい。
片手を拾い肘の位置に持っていき魔力を巡らせるとくっ付いた。
これが魔力で運用されているモンスターの身体である。
奥に向かうと。
ここの部屋にも宝箱があった。
ここの箱にも罠はなく、中にはナックルが入っていた。
ねぇ。このダンジョンなに?
欲しいものが出てくるなんて。
『ミリア。これはあげる』
「あー! すごーい! これでもう痛くないね!」
しかもこのナックル、アダマンタイトか?
でも色的にオリハルコンかもしれない。
『ミリア、それめっちゃ硬いと思うぞ?』
「そうなの? ラッキー! さっきのホントに痛かったんだよねぇ。これで痛い目にあわなくてすむね!」
それはそうなんだが、なんだか欲しいものがピンポイントっていうのはなんか凄いな。
これが前前世で聞いたご都合主義とかいうやつか?
『そうだな。付けてみたらいいんじゃないか?』
「えぇ? なんか呪われたりしてたら嫌だなぁ」
『外れなくなったりしてな?』
「ちょっ! ちょっとぉー! 脅かさないでよぉ! まったくぅー!」
装着してみるとサイズも丁度いいしいい感じなようだ。
「あっ! また階段だ!」
少しゆっくりと慎重に進む。
こんなモンスターが出た後に何が出るんだろうか?
ゆっくりと扉を開ける。
見えてきたのは布を被ったナニカ。
あれはなんだ?
レイスか?
「ボォォォォォ」
おぉ。喋ってるよ。
俺より優秀だなレイス。
レイスの周りには闇の球が浮かび上がり、いつ放たれてもおかしくない。
『ミリア、さっきのナックルつけておいた方がいいぞ』
「だねー! さっそくつけて暴れるぞぉー!」
『その意気やよし。だが、果たして攻撃がレイスに効くのか?』
それが疑問なんだよなぁ。
少し近づいてみるか。
俺は様子を見ながら近づいていく。
すると、ダークボールを放ってくる。
それを咄嗟に紙一重で避ける。
続けて連弾を放ってくる。
これは突っ込むしかないな。
体を沈めて一気に縮地で肉薄する。
目の前にはレイス。
入る!
ドラゴニック流 太刀術
『竜牙一閃』
渾身の一閃はレイスの胴体をとらえたが、手応えがない。やはり、物理攻撃は効かないか?
一旦レイスの元から離脱する。
「あれってやっぱり物理攻撃無効な感じ?」
『そうだな。なにか考えないとまずいぞ』
「ごめーん! 私、魔力なくなりそうなんだよねぇ」
『おぉふ。なんてこった。俺がもう一発いってみる!』
そう話をしている間にレイスはまたダークボールを浮かせて待機させている。いつでも行けますよと言っているようだ。
「ボォォォォォ」
『なんだよ!? かかって来いってかぁ!?』
魔力を体に巡らせて太刀にも巡らせる。
炎を吹いたところで渾身の力で太刀を一振する。
ドラゴニック流 太刀術
『火竜の咆哮』
巨大な火球がレイスに迫る。
「ボォォ!」
火球に浮かんでいたダークボールを集中させて対処するようだ。
拮抗していた火球とダークボールだが。
やがて両方が霧散した。
まずいな。
俺も魔力が怪しくなってきたぞ。
胸の青い炎が若干弱い。
俺が戦っている間に隙を見て近付いていたミリアがレイスの後ろをとった。
「ボルトォォ!」
ミリアの手から放たれた雷撃がレイスの霊体の体に駆け巡る。これで少し弱るといいんだが。
「ボオォォォ」
『ミリア!』
レイスが向き直ってしまう。
このままじゃやられる。
またミリアが。
ミリアがまた居なくなるなら、俺の命を削る。
胸の炎が激しく燃え上がり全身を包み込む。
太刀にも巡った青い炎は太刀の炎と混じり合いオレンジ色の炎となった。
力が漲ってくる。
『お前の相手はこっちだぁぁぁ!』
太刀を鞘に入れ、力の限り地面を踏み抜き。
オレンジの閃光となりレイスに迫る。
『おぉぉぉ!』
これが俺の全力の一閃だ!
ドラゴニック流 太刀術
『竜牙…………滅閃!』
放たれた瞬速の一閃は。
空間を斬り裂き、レイスは霊体にも関わらず真っ二つになって霧散していったのであった。
「あぁー。危なかったぁ。ありがと!」
『いや、危なかったぁ。はぁ。俺も魔力が切れそうだ』
「大丈夫? 少し休もっか」
『だな』
奥の部屋に行き少し座って休む。
「ねぇ、宝箱開けていい?」
『いや、待ってくれ。俺が開ける』
「むぅーー!」
俺はまたミリアに何かあったら嫌なんだよ。
分かってくれよ。
重い腰を上げて宝箱に向かう。
また罠はなさそうだった。
開けると中に入っていたのはゴールドのシンプルなバングルであった。
「わぁー! かわいいじゃん! ねぇ、ナイルゥ。もらっていい?」
上目遣いで悪戯な笑みを浮かべてねだられたら俺には何も言えねぇよ。
『いいさ。ミリアの方が似合うだろうよ』
「そうかな? ふふふっ。ありがと!」
そのバングルはミリアの可愛さを引き立てるアクセサリーだった。
さらに華やかに明るくなったミリア。
何やら魔力を回復する物だったらしい。
宝箱の回収を終えると先へ進んだ。
その先にはダンジョンコアがあり、手を翳すと外へと出ることが出来た。
入ったはずの入口は消えて無くなっていた。
デクダは外に出ていたから弾き出されたようだ。一息ついて野営することにしたのだが。
焚き火の先には黒い蠢くものが。
「ねぇ、ナイル? なんかいない?」
よく見ると。
巨大なアリの怪しく光る赤い目がこちらを見つめていた。




