40.奇跡
ほっとしたのもつかの間。
体から光が溢れ出した。
『ん? なんだ? これ?』
「グルルア(進化だ)」
『えっ!? レベルが100になったのか!?』
「グルルグルルア(そのようだな)」
俺の問いに答えてくれたのはファイヤードラゴンであった。
昨日までの意識が無くなるまで狩りを続けていた事と邪竜の討伐で大幅にレベルが上がったみたいだ。
体が光り出すと世界の声が聞こえてきた。
『個体名ナイルのレベル100到達を確認しました。進化を試みます』
ブンッと表示されたウインドウには、進化先多岐にわたる進化先がある。
一番いいのはヴァンパイアだろうか。肉体も手に入るし。リビングアーマーは食べれなさそうだからなぁ。
『はっ! そんなこと考えている場合じゃない!』
ウインドウに出てくる選択肢を全て確認する。確認したんだが……。
『ない。……なんでだ!?』
ウインドウに縋り付く。
────可能性がある。
ゴッツさんがそう言ってたよな?
なんで無いんだよ!
『進化なんてどうでもいい! だから! だから……ミリアを……前のマスターを生き返らせてくれよぉ……』
俺の声に世界の声が反応した。
『前マスターの情報を確認………………削除されている為、確認できません。固有名ナイルはネームドモンスターです』
見当違いのことを言っている。
俺の事はどうでもいい!
ミリアのことを!
削除されているだと?
このペンダントにミリアの髪が入ってるじゃないか!
『おい! これは前マスターの髪の毛なんだ! 使えないか!?』
ペンダントを差し出すと、光を放ち始めた。
『遺留品の情報を元にアーカイブから情報を検索………………発見しました。進化の為のエネルギーを前マスターの復活に使いますか? またレベル1からのスタートになります』
『助けてくれるのか!? 頼む! ミリアを復活させてくれ!』
『承認を得ました。固有名ミリアの再構築を行います』
そうアナウンスがされたかと思った瞬間。
目の前に光が集まりだした。
ペンダントからも光が溢れていく。
空からの地面からも、周りの空気からも、ありとあらゆる物から光が溢れていく。
俺の体を覆っていた光はゴッソリ目の前の光と一緒になっていく。
眩しすぎて目を手でおおっていたが手の隙間から溢れる光が少し収まったことで手をゆっくりと下ろす。
そこに一糸まとわぬミリアがいた。
『ミリア!?』
俺が駆け寄ると。
『進化のエネルギーの消失を確認。終了します』
世界の声がミリア復活の終了をつげた。
「ん?」
『ミリア? 大丈夫か? 俺がわかるか?』
「あれ? ナイル? たしか……刺されて……」
『ミリア……死んでんじゃねぇよ……どれほど辛かったことか……』
「えぇっ!? 私死んじゃったの!?」
『そうだぞ……でも、仇は取ったぞ』
「あれ? っていうか裸じゃん! なんか着るのちょうだい!」
『……すまん。これを着てくれ。ミリアように作っていたワイバーンの皮鎧だ。全身装備だ』
脱ぐとミリアに渡した。
嬉しそうに着心地を楽しんでいる。
「おぉ。なんかいいね!」
「グルルルア。グルルア(よかったな! お嬢!)」
ファイヤードラゴンに祝福されて顔が綻ぶミリア。顔を近づけると、あの時の竜だと気づいたようだ。
「あっ! あの時の!」
「グルルルア? グルルルア! グララララ!(この者は必死だったぞ? よかったな! ハッハッハッハッ!)」
「そっかぁ。ナイル。ごめんね?」
ミリアが俯きがちに小さくなる。
その姿を見ると胸がキュゥッとなる。
『ミリア、俺の考えが甘かった! 本当にすまなかった! 死んでから何度も何度も何度も……後悔して……あの時なんで強く避難誘導するように言わなかったのかとか……先にギルドに行かないでBランクにならなければよかったとか……考えたらキリがなかった。ミリアが一度でも死んでしまったのは俺のせいだ! ミリアは俺が守るなんて言っておきながら……すまん!』
「……」
俺は精一杯頭を下げた。
そして、今まで言えなかった懺悔の言葉を口にした。しばらく沈黙の時間が訪れる。
ミリアは俺とはもう……。
「あのー。あげる剣はないんですけど……立派なの持ってるし……。だから、元気な荷物持ちはいりませんか?」
『どれくらいの荷物を持てるんだ?』
「えっ? えーっと……麻袋一袋くらいなら」
『それは少ねぇな。じゃあ、一度テイムしたら他のモンスターをテイムできないっていうお荷物なモンスターをテイムしてくれないか?』
「ふふふっ。あらあら? それは相当厄介ですねぇ。どうしたものでしょう?」
「今なら竜の鱗からできた剣を携えて敵無しのモンスターなんですけどねぇ。ただし……」
『「ホネ!」』
『「あっははははっ!」』
ミリアとまた笑い合えるなんて最高だ。
なんて幸せなんだろう。
今世は最高だなぁ。
さっきまではドン底だったけど、奇跡が起きた。そういえばあの時の宿でミリアが占った時の変化がそのまま今の状況を現している気がする。
あながちあの占い水晶も外れてはいなかったわけだな。占いも侮れないな。女の子が好きなわけだ。
さぁ。仇はとった。これからはまた俺の進化の為にレベルを上げよう。
「ナイル、また宜しくね? テイム!」




