37.手掛かりと武器の受け取り
ゴッツさんはその情報を俺に教えた後に、冒険者カードとミリアの髪を一本抜いて渡してきた。
「これをお守りに持っておけ」
『……はい。これを持って、俺は絶対ミリアを生き返らせます!』
「あぁ。なにか手伝えることがあったら言ってくれ。俺が契約してあげたい所だが、ミリアに聞いたところ、ナイルの場合は専属契約なようだ。クーガを見捨てる気は無い。すまないが……」
『いいんです。貴重な情報をありがとうございます』
「ナイル、しっかりな」
ゴッツさんは肩を叩くと去っていった。
「マスター、モドルトイイナ」
クーガさんも肩を叩くとゴッツさんの後を追って行く。
ミリアを布で包むと持ち上げて街から少し離れたところに埋めた。そして、俺の手に残った剣のグリップを刺す。
『ミリア、守れなくてごめんな。俺、必ず生き返らせるからな。またあったら……俺と契約してくれよ?』
俺の言葉は虚しく宙に消えていく。
日が落ちかけてきた頃。
噂を聞いたのだろう。
リンスさんとダンテさんがトボトボと歩いていらるのが見えた。
『ここにミリアは眠っています』
「ナイルさん、話せましたの!?」
『実は、今日念話をミリアがとってくれていたんです』
「それはなんですの!? 自分の死ぬのを予見していたとでも言いますの!? ミリア! どうなんですの!?」
その声も闇に消えていく。
「グスッ……なんでなんですの……グスッ…………せっかく仲良くなりましたのに……グスッ」
ミンスさんは墓の前に膝をつき空を見げながら涙を流していた。
「ナイル様。お辛いことでしょう。これからはどうされるんですか? 念話も取得した事ですし、宜しければウチで護衛でもして余生を過ごされては……?」
ダンテさんは俺を気遣ってそう提案してくれた。
『お気遣いありがとうございます。けど、俺は旅に出ます。レベルを100まであげればミリアを復活させる事が出来るかもしれないんです! 俺は、その情報に望みを掛けてみようと思います。そして……ミリアをこんな目に合わせたやつは許しておけません』
「検討がついているのですか?」
『はい。目に傷のある男。そいつがミリアを刺したのだと思います。なので、そいつを追います』
「そうですか……お手伝いしたい所ですが」
『いいんです。気持ちだけで有難い。剣ができるまではこの街に居ます。その間に奴の情報を集めます』
「微力ながらお手伝い致しますぞ」
『ありがとうございます!』
しばらく三人でミリアについての思い出話を墓の前でした後、リンスさんとダンテさんは屋敷に帰っていった。
俺はというと。
『この辺で目に傷のある男を見なかったか?』
「あー。見てねぇなぁ」
『そうかい。ありがとう』
銅貨を渡して居酒屋を後にする。
情報を得るなら酒が出るところと思ったが、やつは酒場には居ないらしい。
ダンテさんともやり取りしているが、中々手がかりはない。
そういやぁ、前の時も目撃してたのはパン屋だったな。
王都にはパン屋が複数ある。
今の時間は営業していない為、昼間に聞き込みすることにした。そうして、王都の外に出た。
こうして平原を一人で歩いているとホントに一人なんだなぁと実感する。
だが、悲しんでいる暇があったらミリアの為にモンスターを倒すのが近道だ。そう思って以前使っていた安いロングソードを短期だけ使う気で買ったのだ。
一の剣までにすれば問題ないだろう。そう思い、森に入っていく。
その日から夜に王都に近づくモンスターの数が極端に減ったんだとか。その事を俺は知らない。
来る日も来る日も同じ日々を過ごしていたが、ある日変化がおきた。
「あー。その人なら知ってます。昨日もパン買ってくれましたよ。もう西に行くんだって言ってましたけど?」
『!?……有難う御座います。これとこれと、これをください』
「はい。ありがとうございます!」
なぜ、相手が普通に話してくれるのかと言うと。それは、手袋をして服を着て、頭にはローブのフードを目深に被って居るからだ。
いつの間にか首に提げたペンダントにはミリアの髪を入れている。
情報は手に入れたし、今日は丁度大太刀を取りに行く日だ。
そのまま鍛治屋に向かった。
『ガジルさん。出来てますか?』
「おう。ナイルか。あたぼうよ。嬢ちゃんはどうした?」
『知らなかったんですね。ミリアは死にました』
「…………すまねぇ。知らなかったんだ。ずっと工房に篭ってたから……」
『いや、いいんです。ワイバーンの皮の方も?』
「あぁ、皮鎧は出来てるが……」
『俺が着ます』
目を見開いてこちらを見るガジルさん。
ため息を吐くと。
「そうかい。それなら無駄にならないな」
『無駄にはさせません。ミリアは生き返らせます』
ガジルさんは顔を顰めた。
「ナイル、気持ちはわかるがよぉ。思い詰めすぎは良くねぇぞ?」
『俺には、生き返らせる算段があります!』
ガジルさんは黙って頷いた。
「ナイル……お前も死ぬような事にならねぇ様にな。この太刀がありゃ、お前さんなら死ぬことはねぇと思うがよぉ」
ガジルさんが出した大太刀を鞘から抜く。
鞘の装飾に竜が模されていて素晴らしいと思ったが、大太刀は言葉を失うほどだった。
うっすらと赤いが透明感のある刀身。
極限まで研ぎ澄まされていて触れただけで真っ二つにされそうな危うさがある。
「コイツはなぁ、かなりのじゃじゃ馬だぞ。ちょっとやそっとじゃおれんしの。斬れ味は保証する。そして、魔力伝導率が高い。だが、一つ間違えると斬れん。角度により斬れない。きちんと敵に対して立てるんだ。いいな? 銘は陽炎。綺麗な名前だろう?」
『はい。綺麗な名前ですね。大太刀の特徴についてはわかりました。ありがとうございます。皮鎧もしっかりとミリアに着させます』
「あぁ。達者でな」
大太刀を背中に吊るし、ガジルさんに見送られながら鍛治屋を後にした。




