34.緊急依頼の発出
王都中に響き渡っている鐘の音。
この音が意味するのは。
「こりゃあ、緊急事態の鐘だ! 王都が攻められているってぇことだ!」
「ミリア様、ナイル様も避難を! 私は屋敷に戻ります!」
ガジルさんは慌ただしく工房の中に入る。
ダンテさんは屋敷へと駆けていった。
ミリア、どうする?
「決まってるよ! 王都を守ろう!」
俺達は王都の外を目指す。
どこから攻められているのかもわからない。
こういう時は……。
ミリア! ギルドだ! そこで状況を確認しよう!
「うん! わかった!」
ギルドに方向転換する。
他にも冒険者が集まっている。
王都だから冒険者の数はかなり居るだろう。こういう時の為にS級もいるはずだ。
ギルドは冒険者でごった返していて、ギルドマスターが説明する為に表にでて来ていた。
「冒険者諸君! 集まってくれて有難う! 現在、モンスターに王都が襲われている! 緊急依頼を発出することとなった! そして、ここからはS級クランの白剣のリーダー、アーサーが指揮を執る!」
「おぉ。あの白剣か」
「ここらじゃ、一番だよな」
「アーサーさんは相当やるらしいな」
口々に白剣についての話をしている。
俺達は来たばかりで何も知らないから指示に従うしかないな。
「ここからは僕が指揮を取らせてもらう! まず、ランクがC以下の冒険者は避難誘導に当たってくれ! Bより上の者で外のモンスター討伐だ!」
「「「おう!」」」
ミリアはひなんゆう────
「行くよ! ナイル!」
俺よりも先に街の外へと駆ける。
「おいおい? あんた、Bランク以上なのか? 冗談だろう?」
近くの冒険者に止められ、そう問われて冒険者カードを見せる。そこには、先程更新した為、Bと記載がある。
「私はテイマーです! あそこにいるナイルが主に戦います!」
「あのスケルトンがか!? 」
「はい! いくよ! ナイル!」
「おぉ。ホントにこのスケルトン戦えるのか?」
その冒険者がボヤくのも無理はないと思う。ミリアと俺を見ただけでは信用も何も無いだろう。
ただ、俺は親指を立ててミリアの後を追う。
男は首を傾げていた。
まぁ、見てもらえればわかる。
王都の門の内側ではどの順番で行くかなどを話し合っている。B以上でもかなり多い。百人は居るんじゃないだろうか。
これならモンスターの群れも討伐できるんじゃないかと思わせる。
「じゃあ、前衛職は前に来てくれ!」
ミリア、俺達はどうしたらいいんだろうな?
すると、ミリアが手を挙げた。
「そこのきみ! どうした?」
「私はテイマーなんですけど……」
「あぁ。なるほど、他にテイマーの人はいる?」
チラホラと手が上がる。
「テイマー自身も戦える人は?」
少ない。テイマー三十人に対して自身も戦える人は五人くらいか。
「戦えないテイマーは後ろに下がって!」
また手が上がる。
「はい! そこのかた!」
「俺がいつも指示を出しているですけど……」
「私の指示を聞くように指示しておいて貰えませんか? それなら大丈夫ですよね?」
「はぁ。たしかに」
納得したが、テイムモンスターが心配といった様子。気持ちは分かる。俺は逆。ミリアが無茶しないか心配だ。
「私はこの場にいる命を預かっているんです! 少しでもリスクは下げたい! お分かりいただけますか?」
「……わかりました」
こういう時に、ゴッツさんみたいな人は一緒に戦えるからいいよな。テイマーの理想の形だろう。
恐らくゴッツさんもランクが高いだろうから前にいるだろう。あの人達は二人とも前衛だからな。
後ろで何やらウインドウの操作をしているミリア。
ミリア? 何してんだ?
「ナイル、スキルポイントで念話とっておいたから、周りの人と連携してみて? 私と話すのと違って、念じないと届かないからね。私との念話は一回切るね。違う方に魔力回すから」
『わかった。こうだな?』
「そうそう。じゃあ、たくさん倒して王都を守ろう! 私には私に出来ることをするね!」
『あぁ。頼んだぞ』
「行ってらっしゃい!」
その笑顔は今までで一番眩しくて、なんだか輝いて見えた。私達は最強だ。そういってるように感じた。
振り返って前線に向かう。
味方は沢山いる。一人じゃないなら多くてもやれる。
またミリアと旅を────
ん?
なんか横を目に傷のある男が通った様な……。
振り返ったり周りを見るがそれらしき人はいない。
ふぅ。気のせいか。まぁ、居るわけないよな。アイツはあの時消し炭になったはずだ。
ミリアが手を振っている。
俺が寂しくて振り返ったと思ったのだろうか。
照れたようなはにかんでいる笑顔を見せる。
俺も手を振る。
これだけ見たら恋人同士みたいだな。
俺は骨だけど。
やっぱり肉体を手に入れなければ。
ミリアとそういう関係になれたらどんなに幸せだろうか。
そう思い描きながら俺は前線に経つ。
周りには意気揚々と声を上げながら出撃の合図を待つ人、パーティに喝を入れる人、無言で外の様子を気配で伺おうとする人。
それぞれがそれぞれの理由で戦いに赴いたわけだ。俺達はモンスターが来たから倒すという大義名分で戦いに身を投じたんだ。
そんな一時の感情があんなことになるとは、この時は考えもしなかったのである。




