15.ドラゴン襲来
それは、張り込みして八日目の深夜だった。
暗くて見えないが、人が二人、会って何か話している。
少し近づいてみると、少し会話が聞こえてきた。
「…………はどうした?」
「けいこく…………た」
「だい…………か?」
「…………ない。…………のこどもは…………か?」
「あぁ。…………おーくしょんで…………うる」
ん? オークション?
どこでやるんだ?
「じゃあ、明日」
そう言って別れた。
何処かでオークションがあるのか?
一体どこでやるんだ?
待てよ。
オークションってことは、出す側だけじゃない。落札する側の人間が居るはずだ。そいつらを探せば……。
一旦は、その場を後にする。
明日、裏通りを探っていれば人の流れで分かるはずだ。
その日宿屋に戻るとミリアと打ち合わせをしてから寝た。
次の日は街が異様な空気だった。
何故か。
街の外から来た者が数多く闊歩していたからだ。
奴らは裏に行くと何回か路地を曲がると一件の家に入っていったのだ。その家の前には屈強な男が一人。受付なのだろう。何かを見せて家に入っている。
しかし、家の規模に対して入っていく人数が多すぎる。これは、地下だな。地下オークション。それを領主が行っているのか?
何をオークションにかけるのかわからないが、ろくなものでは無いだろう。中に入れるか? あの男を倒せば異常事態だと知らせることになる。
どうすれば……
その時、空を大きな影が覆った。それだけじゃない。気付けば、街は火の海に包まれていた。
何が起きた!?
上空をみると全長十メートルはありそうなドラゴンが旋回している。飛びながら口から火を放っている。
ファイヤードラゴンの成体だろう。
よく見るとキョロキョロと街を見ている。
なにか探しているのか?
「グルルゥゥゥアアアア!(私の子供をどこにやったぁ!) グルルゥグルガァァァ(この人間共がぁぁぁ!)」
あれ?
ドラゴンの言葉が分かる。
何故だろう?
「あっちが念話を使ってるわ。私達にも分かるもの」
なるほど。
しかしなぁ。
ドラゴンの子供なんて……。
ん?
──────…………のこどもは…………か?
──────おーくしょんで…………うる
あの会話はそういう事か!
「どういうこと?」
奴らは、ドラゴンの子供をオークションで売ろうとしてたんだよ!
「なるほど! そういう事なら話が早いね!」
そうだな。
俺は壁を三角飛びの要領で屋根に登り、ドラゴンに手を振る。
するとこちらに進路を変えた。
息がかかる程の距離で睨み合う。
少し布をズラして魔物であることを示しながら話をする。
「グルグラァ! グルルルルルゥアァァァ!?(なんだお前はぁ! スケルトン如きが私に何の用だぁ!?)」
「カタカタタタカタタ(こどもの場所を知ってる!)」
「グルルルルルァァ!? グルルル!(本当だろうなぁ!? 連れてこい!)」
「カタタカッタタタタ(少しだけ待っててくれ!)」
ドラゴンが頭を一度下げた。
了承したと思っていいだろう。
屋根から下りる。
ミリアは隠れてろ!
「でも、中に入ってから居場所を聞き出すのに、私が必要じゃない!?」
そうか。確かにな。
このままなら問題ないかもな。
今は黒装束にローブを着ている状態だ。
誰かということはバレないだろう。
好都合だ。向かい先はもちろん、見張っていたあの家だ。
扉の前には屈強な男が腕を組んで仁王立ちしている。胸を張って立っているところを見ると負ける気はさらさら無いのだろう。
それは俺も同じだ。
この剣なら二の剣を少し使っても壊れることは無いだろう。アダマンタイトとはそう思えるくらいの硬度はある。
俺が前から行く!
ミリアは後ろから付いてこい!
「わかったわ! 私だって少しは剣術出来るんだから!」
いつの間にか腰には剣が吊られていた。
武器屋に行った時に買っていたのだろうか。
鞘に入った剣を左腰に構え、そのまま入口へと駆ける。扉までの距離は一歩で詰めれる距離ではない。
しかし、縮地では一瞬の距離であった。
ストロング流剣術 剛剣術
「カタタ(紫電)」
男の体に斜めに亀裂が入ったように見えた。
数瞬して体は斜めにズレていき、やがて地に落ちた。
中に入ると目の前にテーブル、本棚、キッチンが壁につく形でそれぞれ設置されている。
状況を把握する。よく部屋を観察し、違和感を感じ取る。
本棚だ。真ん中の段の右にある本にだけホコリがついていない。その本を引いてみる。
ズズズズッ
本棚が横に動きだした。
その後ろから地下へと続く階段が出現したのであった。薄暗く、かび臭い、石造りの構造で不気味な雰囲気を醸し出している。
ミリア、行くぞ。
「うん! ナイルが居れば何も怖くないよ!」
はははっ。
そうか。少し緊張していた俺が馬鹿みたいだな。
階段を下に降り降りていく。
俺達の足音がやけに大きく聞こえる気がする。
こんな時、骨はカツカツ音がするから本当に嫌になる。
何処まで地下に行くのか。そう思わせるくらいの長い階段であった。一体どれだけ大きな空間が作られているのだろうか。
ようやく下に下りたかと思うと目の前には重厚な扉が鎮座していた。この扉の先にオークション会場があるのだろう。
俺は意を決して開けた。




