カタールW杯アジア最終予選 Ⅱ その3
控室に入るとすぐに森監督のミーティングが始まった。
DFラインのズレはないか?
プレスの連動で穴はないか?
サイドの寄せは甘くなってないか?
『良いディフェンスから良い攻撃』をモットーとする森監督のサッカー。やはりDF面についての優先順位が必然と高くなる。
前回の対戦で試合終了間際に選手達の足が止まり失点を喫したのがどうしても脳裏によぎる。
アジアの戦いでは、この暑さの中でしっかりと90分間走り続けることが求められるのだ。そしてそれは、そっくりそのまま、1年後のカタールW杯で求められることになる。
俺、富安君、真矢さん、司、永友さんに坂井さん、そして拓郎……DFラインの選手達が集まり、オマーンの選手達の特徴や気付いたことを共有する。
「寄せが甘いぞ」と永友さん。
「DF間のスペースをもっと詰めて行け」と坂井さん。
そして、「後半は両サイドもっと圧縮していく」と司。
各々が感じたことを忌憚なくぶつけ合う。
すると……「後半、メンバーを変える」と森監督。
その途端、選手間の間にざわめきが起きた。
交代するのは誰だ?
選手間で視線が交錯する。
そして……「学、ごくろう」と柴崎さんの肩を叩く森監督。
前半から献身的なプレスでスペースを埋め続けてくれた柴崎さんだったが、ロングボールの蹴り合いとなってしまった現状では、このゲームで柴崎さんのストロングポイントをあまり見出せなくなっていた。
「後半は、4-3-3から4-2-3-1に変更する。トップ下には拓実が入れ。そして郁、お前が拓実のいた左Wに入るんだ」
「ハイッ!」と三苫君。
三苫君は目を瞑ると、大きく息を吸ってから「おーっし!!」と声を上げ、自らの気合を入れる。
俺達の僚友、三苫郁の代表デビューがついにやって来たのだ。
柴崎さんが三苫君の隣にやって来ると「郁、頼んだぞ」と。
「分かりました」と三苫君。
するとそこに南君と司も加わり、コーチの斎藤さんからポジショニングの細かな打ち合わせが始まった。
「DFは気にするな。ボールを持ったらオマーンの左サイドをぶち抜いてやれ」と司。
「郁、お前のスピードだったらオマーンを押し込めるはずだ」と南君。
一通りの打ち合わせが終わり、タブレットから目を放す三苫君。
息をふーっと吐いて、辺りを見回す。
すると、ちょうど俺と目が合った。
そして……「神児君、待たせたね」と。
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2022 FIFAワールドカップ・アジア3次予選グループB 第六節 オマーン vs 日本の後半戦が始まる。
日本のメンバーチェンジは柴崎さんに替わって三苫君。一方のオマーンはメンバー変更なし。
じっとりと粘りつく暑さの中、オマーンのキックオフで試合は再開した。
前半同様、オマーンはさほどDFラインでのビルドアップにこだわりを持つことなく、日本のDFライン裏のスペースを狙って大きく蹴り出してくる。
素早く落下地点に入った富安君がセーフティーにボールを弾くと、そのこぼれ球を司が納めた。
そこに目掛けてオマーンの11番がボールを奪いに来るも、司はそれを察してかボランチに下がった田中君とのワンツーで無難にプレスを躱すとそのままボールを前に運ぶ。
オマーンのプレスが一瞬遅れる。すると空いたスペースにスルスルとボールを持ち出す司。
視線の先には、左サイドに大きく張り出した三苫君の姿が……
直後、司の右足から正確無比のインサイドキックが放たれる。
三苫君は代表でのファーストタッチを完璧なトラップで足元に納めると日本の左サイドに閃光が走った。
三苫君のマークに付いていた敵の8番のボランチ、アルアグリがコースを切っていたにも関わらず、強引に突破を計る三苫君。
彼らの常識としたら、「この体勢になっていたら既に死に体、バックパスかタッチに逃げるくらいしか選択肢が無いだろ」と思ったはずだ。
だが、川崎の……いや、既に、日本の誇る超特急が発車した。
なんと三苫君は、マークに付いていた8番と、そして念のためにとサイドに待ち構えていた14番の右SB、アルハルドの二人をまとめてブチ抜いてしまったのだ。
ピッチの上に衝撃が走る。
日本の攻撃にもかかわらずこの日一番の歓声が上がるスルタン・カーブース・スポーツコンプレックス。
すると、三苫君の予想外の加速に泡を食ったのか、敵の14番が思わず三苫君の肩を掴んでひき倒してしまった。
ピッチに主審の笛が鳴り響く。
すわっ、PKか!?と思うも、ペナルティーエリアまであと僅か。うーん、残念。
もちろんSBの14番にはイエローが提示される。
オマーンの選手達の動揺している顔が伝わって来る。
もちろん、オマーンの選手達だって、三苫君の事は知らないはずもない。
東京オリンピック三位決定戦、メキシコ戦でのインパクトで既に世界デビューを果たしていた三苫君。クラブに戻ってからもプレミアで旋風を巻き起こしていたのだから……
オマーンだって十分に対策を練っていたはずだ。だが、これほどまでか……と、オマーンの選手達の予想を遥かに上回る三苫君のパフォーマンスに衝撃を隠せないでいた。
でも、こんなもんじゃねーぞ、うちの郁は!!
なんてったって、この俺が、13年以上も煮え湯を飲まされ続けてたのだから……




