(仮)対ブランドル戦 その2
「次は監督についてのレポートです。今季からブランドルの指揮を執っているロベルト・デ・ゼルベ。最近では頭文字を取って『RDZ』と呼ばれている、別名、『パスタの国の魔術師』です」
「うんうんうん」とリバポの仲間達。
現在リーグ戦では6位につけ、飛ぶ鳥を落とす勢いのブランドル。なんと先週、あの死神博士が率いるチェルシーから白星を挙げてしまったのだ。試合後にテレビのカメラマンに切り取られたトゥルエル監督の恨めしそうな顔が脳裏に焼き付いている。
「現役時代から熱心なグアルディオルの信奉者として有名で、2014シーズン、初めて指揮を執ったセリエCのフォッジャーナで当時のバイエルンそっくりの戦術を駆使して破竹の快進撃を遂げ、一躍その界隈で有名になった監督です」
「たしか、その後、セリエAにいたよね、この監督」と穏やかな顔でモーさん。
「はい、セリエAのベネティアとサッスーノの監督をしていました」
「うん、なんかやり辛かった記憶はあるよ」と当時ローマに在籍していたモーさんは言った。
「的確な動きで然るべきスペースを利用するポジショナルプレーの信奉者でもあるデ・ゼルベは5レーンを使いこなし、ポゼッションに拘り、GKからのビルドアップを得意とする。ここら辺はまんまシティーのグアルディオル監督と一緒ですね」
「たしかに」
「そして、この監督のスペシャルな武器でもある戦術が『疑似カウンター』です」
……そう、疑似カウンター。
司が明和からSC東京に特別指定選手として引き抜かれた際、置き土産として優斗や拓郎に仕込ませた‶あの"戦術だ。(※2)
当時、俺達がいたJ1でも山下君達がいた横浜マリナーズがその戦術を用いて得点を荒稼ぎしていた。
相手を自軍深くまでおびき寄せ、中盤の底まで降りてきたFWのレイオフプレー(※2)で一気に盤面をひっくり返す。
もっとも、その完成度と言ったら、優斗たちが見よう見まねでやっていたアレとは雲泥の差。そして今季ブランドルはその疑似カウンターのラストピースに、三苫郁という俺達の世代で最高のドリブラーの一人を手に入れたのだ。
ブランドルはシーズン前のキャンプインからこの戦術を用いてテストマッチを行っていたが、肝となる両Wの選手が生え抜きのマーチとベルギー代表のトロターク。
フットボーラーの資質としては申し分ないが、疑似カウンターで必要とされている爆発的なスプリント力を持ったドリブラーとは言い難い。両者とも優れた才能を持ったフットボーラーなのは間違いないが、どこにでも適材適所というものがあるのだ。
昨年まで『RDZ』が指揮をしていたサッスーナから愛弟子のジェイミー・ボクという快速ウイングを呼び寄せるつもりだったらしいが、今夏、レンタルバックして来た三苫君を一目見て「いいモノみーっけ」と言ったとか言わないとか……ともかくRDZの一目惚れだったらしい。
そうして第二節から左Wのレギュラーに納まった三苫君を使って現在EPL6位の位置をキープしている。
実際、BIG6に通用するのだからその破壊力は凄まじいの一言に尽きる。
個性と戦術が一致するとこれほどまでの爆発力を発揮するものなのか。
既にサポーターからは『オリエンタルエキスプレス』の愛称をいただいている三苫君。
子供の頃(二度目の)からのライバルとして、そして元チームメート兼ルームメートとしても鼻高々である。
すると……「おい、神児!!」と怒鳴る司。
「なっ、なんだよいきなり」
「ちゃんと聞いてるのかよ、これから対ブランドル戦の作戦の重要な所いうんだから聞き逃すなよ!!」と。
ヤバッ……ちょっと、自分の世界に入ってしまってた。
でも、いいじゃねーかよ、お前に付き合って昨日の夜遅くまで、このミーティングの打ち合わせに付き合ってやったんだから。
そんなおっかねー顔しなくてもちゃんと頭ん中に入ってますよ。
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――その日の夜、
リビングで来月のアジアW杯最終予選で対戦するベトナムとオマーン戦の分析に余念のない司を尻目に、先日ようやく手に入れた『eFootball ウイニングイレブン 2021』をプレーする俺。
一応これだって遊んでるわけじゃないんですからね。だって、『リバプール』vs『ブランドル』でプレーしてるんだから……
ゲームは俺のハットトリックで3-0と勝ったところで司が俺に話し掛けてきた。
「また、随分と自分に都合よくパラメーター動かしてるじゃねーか」とため息つきながら司。
「んっ、お前のパラメーターもモリモリに上げといてやったぞ」とホットミルクを飲みながら俺。(夜寝る前はカフェインの入っているコーヒーではなくホットミルクを飲むのが俺のルーティン)
「そりゃ、ありがとな」そう言って一旦ノートPCを閉じる司。そして……「なあ、神児、俺達がこの世界にやって来てさ、一番の目標ってなんだっけ?」
何を今さら……大丈夫かコイツ?
「そりゃ、W杯出場に決まってるだろ!!」と俺。
「そうか、よかった、忘れてるわけじゃなかったんだな」
「どうした、お前?」と眉間にしわを寄せて俺。
「来月のW杯最終予選、史実通り、ベトナムとオマーンに連勝しなければ俺達SAMURAI BLUEがカタールW杯に出場するのが難しくなるのは分かってるよな」
何を今さら……「そりゃ、もちろんだろ。前の世界でもここからカタールW杯の出場を決めるまで連勝を続けてたんだから、そんなの俺達の中での既定路線だろ!!」
「そうだ。そしてその最大の功労者は、今度のオマーン戦から日本の左Wのレギュラーに納まる郁だってことはお前も覚えてるよな?」
「……もちろん」
実際、オマーン戦の決勝点をアシストしたのは三苫君だったし、カタールW杯を決めたオーストラリア戦で決勝点を決めたのも三苫君だった。(おまけにその直後にダメ押しも決めてたし……)
「なあ、こういうこと、あんまし言いたかねーけどさ、『手を抜け』というつもりは毛頭無いけど、郁に怪我だけはさせんなよ」
「……はい?」
司は、「ふーっ」とため息を吐くと、「さっきからゲーム見てりゃ、郁に抜かれりゃ、後ろからガンガンスライティングぶちかましやがって、挙句の果てに前半の途中に負傷退場させちまってるじゃねーか!!」
「こ、こ、こ、これはゲームだから。ホントの試合でこんなことする訳ねーだろ」と声を震わせながら俺。
「はん、どーだか。お前、試合になって頭に血が上ると見境ねーじゃねーかよ。天皇杯で翔太にスライディングして直後のU23の代表選、ケガで出れなくさせた事、忘れてねーからな!!」
「……ういっす」
はははは……そんなこともありましたっけ。(遠い目)
「頼むぜ、神児……」
と、その時だった。テーブルの上に置いていたスマホから“ピコン”とLINEのメッセージが……
見るとそれは春樹からのメッセージで……画面を見ると、
『今週末、郁君との試合だよね』
『あのさ、今度の試合で郁君に怪我なんかさせたら、どうなるか分かってるよね』と……
※2、564,565話『スクラップ&ビルド その4、5』にて疑似カウンターの説明を図解説明しております。
※3、レイオフ=主に前線の選手が降りて来て受けた縦パスを、ワンタッチまたはツータッチで近くの味方に落とすプレーです。ボールの受け手は相手ゴールに背を向け味方に向かってボールを蹴るために、受け手はそのまま強いパスを前線に蹴り込むことが可能となります。ただし、味方に渡すパスが少しでもズレたら失点の危機に直結することもあります。




