(仮)対ブランドル戦 その1
「今シーズン、ブランドルのCBユニットはダンケとダジーのコンビでこれまで戦ってきてます」
マクレクターユナイテッド戦のフィードバックが終わった後、一休みしてから、今度は今週末対戦予定のブランドル戦のチームミーティングが始まった。
どちらかというと、今日の午後の打ち合わせはこちらの方がメインらしい……って、オイッ!!
壇上には、いつの間にやらモニター前が指定席となった司がブランドル戦について事細かく説明を始めている。一体いつの間にここまで調べ上げたのやら……ってか、同時進行で日本代表の方もやってるんだよな。コイツホントにちゃんと寝てんのかよ?
「右のサイドバックはフォルトマン。オランダ代表、2014年のブラジルワールドカップにも出場したことのあるベテランプレイヤーです。対人守備の強さが持ち味の守備的なサイドバックで、ビルドアップ時には 後方から正確なフィードを供給し、攻撃の起点となることができます」
「ふんふんふん」
「続きまして、左のSBはカクレジャ。スペイン出身。豊富な運動量と高い俊敏性を兼ね備えた左利きのサイドバックです。バルサのカンテラ出身なだけあって足元の技術はチーム内でもピカ一。年代別代表はもちろん、最近ではフル代表の方にも呼ばれております。記憶に新しいところでは今年の夏の東京オリンピックでも活躍したスペイン次世代の有望株です。一方の課題というと、シュートの決定力不足と対人守備においてボールホルダーに食いつく癖があり、裏のスペースを開けがちなことが指摘されてます」
そういや、こいつ、一英の元同僚だっけ?昨シーズン、ヘタファでチームメートだったよな……
「積極的な守備が持ち味である一方、今シーズンは何度か決定的なピンチを招いたこともあります。サルーさんのマークが予想されております。ある意味チャンスかもしれませんよ」そう言ってニヤリと笑う司。
すると、「全ては神様の思し召しね」とどこまでも穏やかにモーさん。
「ブランドルはここ何試合か4-2-3-1の布陣が基本となっておりますので、予想としては中盤の底はダブルボランチ。そして一角はカイセラ。エクアドル代表で昨シーズンブレイクした若手の選手です。ネクストマケレレの呼び声高く、特徴無尽蔵のスタミナでピッチ内を走り回り、積極的なプレスとクリーンなタックル、インターセプトが持ち味のハードワーカーです。ある意味、今のブランドルを支えている選手と言っても過言ではありません」
うんうん、前の世界でも有名だったなコイツ。『マケレレロール』※1にあやかって『カイセラロール』なんて言葉も生まれたっけ?親近感半端無いプレーヤーだ。
「そして、もう一角のボランチは現アルゼンチン代表の主力でもあるマクアリー。アルゼンチンでもブランドルでも舵役を任されているゲームメーカー。全盛期のピルロを彷彿とさせる戦術眼の高さで、今季ブランドルの快進撃の立役者でもあります。パス、ドリブル、シュート、全てを高いレベルでこなします。あえて弱点を上げるとすればフィジカル面においてやや劣るかも……と言った具合です。もっともその欠点は相棒のカイセラによって綺麗にかき消されておりますが……」
まるで、全盛期のミランにいたピルロとガットゥーゾを思い起こさせるブランドルのカイセラとマクアリーのコンビ。厄介な事この上ない。
「トップ下にはベルギー代表のトロターク。前線のポジションならどこでもこなせる万能型のアタッカーです。ドリブルの突破が得意で昨シーズンまでは左Wが定位置でしたが、今季はチームの事情で右Wやトップ下を任されることが多く、試合の状況に置いては頻繁にポジションチェンジを繰り返します。決定力も高く、ベルギーリーグ時代にはシーズン二桁得点も記録しております」
「ういっす!!」
「そして右のウイングにはマート。今シーズン8年目を迎えるベテラン選手です。この選手も元々は左Wを主戦場としていましたが、右Wにポジションを移してから、利き足が外側になったことで、フィニッシャーというよりもラストパサー役となりアシスト数を大幅に伸ばし、右Wのレギュラーに納まったプレイヤーです。また、戦術眼も高く、前線からのプレスのスイッチを入れる役目を任されており、運動量も豊富で時には自分のサイドを捨てて逆サイドまで流れてきます。ゲームの流れの中で数的有利性を確保するためにはうってつけのプレイヤーと言えます」
こういう縁の下の力持ちタイプ、僕も結構好きですぞ!
「そして、今あげた二人のプレイヤーから左Wのポジションを奪った選手が、僕と神児の元チームメイトの現日本代表左W、三苫郁です。まずは今シーズンの三苫のプレーをダイジェストに纏めましたのでそれを見てからの説明となります」
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――10分後、
「ムリムリムリムリ」と顔を真っ青にしてTAA。
よくもまあ、これだけエゲツない動画を集めたもんだ。ベルギーの時はもちろん、川崎の時に決めたゴラッソまでしっかり取り揃えている。とくにこの横浜戦で決めた60mドリブルなんかエグかったもんなー。山下君達悔しそうだ。
昔から一瞬の抜け出しの早さは、翔太や伊藤さんにも負けて無かった三苫君。ヨーロッパに来てからドリブルの精度も格段と上がっている。まあ、コロナ禍の下、来る日も来る日も俺とのマンツーマンに明け暮れたお陰なんですけれどね。えっへん。
ってか、敵になるとこれほどまでに厄介なプレーヤーになってしまわれたのですね。神児感激。って、それどころではない……
すると、「ブランドル戦は神児がスタメンね。元チームメイトなんだからクセとかいろいろ知ってるだろ」と言ってウインクをするクラップさん。「状況によっては後半にTAA投入するから、可能ならそれまでに出来るだけ体力を削っておいてくれ」と。
「ういっす」と俺。
あれ、なんか、ビクトリーズのジュニアにいた頃からやってる事変わんないような気がするのは……うん、多分気のせいだろう。
「そしてセンターフォワードはブランドルの大黒柱、ウェルバック。EPL14シーズン目のベテランだ」
「アレ、ウェルバックってそんなにキャリア長かったっけ?」と現役最多出場記録を更新中のミルトンさん。
そりゃ、あなたに比べたら誰だってキャリアはそんなに長くないですって。
「17歳でユナイテッドデビューですから年齢はまだ30歳なんですよね」
「ああ、俺達が小六の時からプレミアリーガーなんだ」
「そんなことを言ったら、そこのミルトンさん、俺達が幼稚園の頃からプレミアリーガーだぞ」と司。
……おみそれしました。
「ともかく、ウェルバックと言ったら『ミスター献身性』と言われるくらいのフットボーラーです。プレスの際もGKまでしっかり追うのは当たり前。二度追い、三度追いも厭わないその献身性は近代フットボールにおける理想像と言っても過言ではありません。にもかかわらず、ポゼッション時には、しっかりと中盤の底まで降りて来てビルドアップにも加わってくれます。ただ、所属していたチームがユナイテッドやガンナーズというビッククラブだった為、必然とポジション争いするライバルが悉くワールドクラスだったという不遇な時期を長く過ごしてましたが、昨シーズンにブランドルに加入してからはFWのファーストチョイスとなり、安定した成績を残しております。もしかしたら今シーズンキャリアハイを刻むかもしれません。プレースタイルは、185cmの恵まれた体格を活かしたポストプレーや、ボックス内での強さを兼ね備えているターゲットマンタイプです。また、相手の裏のスペースを狙うラインブレイカーとしても一流で、複数のポジションをこなせる万能性も持っています」
「ほうほうほう」
実際、今季の三苫君のブレイクにこのウェルバック選手は欠かせない存在であった。偽9番的に動くウェルバックに合わせて相手CBが引きずられると、その裏のスペースを狙って三苫君がドンッと来る。
そして一瞬でも気を抜いたら『疑似カウンター』が炸裂してあっという間にGKと一対一。このパターンを今シーズン何度も目にしていた。
ウチとは関係の無いチーム同士の試合なら子供の頃からのライバルで元チームメートでもある三苫君の活躍を心から応援してたのだが、こうやって対戦するとなると話は別。
三苫郁という極上のフットボーラーを前にして俺の闘争心は否が応でも燃え上がるのであった。ゴリゴリ。
※1、マケレレロール=「role」とは「役」という意味の方で、巻き巻きの方の「roll」ではありません。(念のため)つまり、『マケレレ役』という意味。2000-03シーズン、ジダンを始めとする攻撃全振りのレアルの中で、中盤の底で守備を一手に任されていた「クロード・マケレレ」の様なプレーをする選手のことを指します。当時、ジダンを始め、レアルマドリーの全選手達からその価値の高さを認められておりましたが、唯一会長のペレスだけはマケレレの価値を認めて無かったため、愛想をつかしたマケレレはレアルを退団。「ロス・ガラクティコス(Los Galácticos)」とも称された銀河系集団の崩壊はクロード・マケレレ選手の退団から始まりました。




