死神博士と俺たちの200日戦争 緒戦 その9
試合の数日前、司が立案した作戦で行こうという話になったのですが、すると、モーさん。
「えーっと、僕もCBの脇まで降りてこないとダメ?」とつぶらな瞳で我々に訴えかけて来た。(キュン)
まあ、たしかにあの爆発的なスプリントを生み出す為に運動量を減らすのは致し方ない。
これには司も、
「ああ、大丈夫ですよ。片側だけ下りて来るだけでも十分ですし」と上司司の大岡裁き!!
すると、「ああよかった」とニッコリとほほ笑むモーさん。うーん尊い。
大丈夫ですよ。そういう汚れ仕事はそれ専門でする人間がちゃんといますから。
俺とか、俺とか、俺とか、あっ、そうそう、優斗とか……(ニチャ~)
「というわけで、優斗分かってるよな」と相変わらず下僕には当たりの強いウチ上司。
「じゃっ、じゃあ、僕、司君の下まで降りてくればええんやね」とそこら辺はまあ、こちらの世界に来てからそろそろ10年の付き合いの優斗。お前もいろいろ苦労してるんだな。
……だが、そこではたと話すのを止め何やら考え事を始める上司。
大体こういう時、こいつは碌な事を思いつかない。
「そうだ、いいこと考えた。お前、神児の方も下りてこれない?」
「ぱーどん?」と目を真ん丸にして優斗。
おおっと、まさか優斗の口からフランス語が飛び出て来ようとは。えっ、お前、もしかしてリーグアンとかご興味あったり!?
そういや最近南君と一緒にフランス語教室行ったりしてたよな?
「あっ、そうか、出来るか、そりゃよかった。うんうん」と一人で勝手に納得してアナライザーさん達のところに戻る司。
ところでお前知ってると思うけれど「ぱーどん」は別にオッケーって意味じゃないからな?
そんな感じで、アリソンさんからボールが入ったら上がった司の裏のスペース迄降りて来て、ついでに俺にボールが入ったら、わざわざピッチを横切って俺が上がった裏のスペース迄降りて来る事が決まったのだ。
なぁ、お前、もしかしてこの試合で死ぬんじゃね?
という訳で、試合が始まってからなんだか一人で必死の形相でピッチ中駆け回っている優斗。
さすがにこれには日本のロードローラーもドン引き。
今日の試合が終わった後の優斗のヒートマップがどうなってるかちょっと楽しみだ。
そして俺にも司直々のオーダーを言い渡されており、「優斗が俺の方(司側ね)に下りてきたら、チェルシーがどうするのかしっかり見とけよな」とのことです。はい、上司、しっかり見てますぞ。
もちろんのことだが、優斗が俺の方に下りてきたら司がチェルシーのフォーメーションがどうなるのかは司がしっかり見てくれるとのことです。はい。
すると……おやおや、チェルシーの手口が分かってきましたぞ。
なんと、優斗が下りて来ると、元々ついているCBが一緒に下りて来たではあーりませんか!!
しかし、もともとは、チェルシーは5バック気味の3CB。空いたスペースを全員で閉じて4バックで凌いでいるのです。
そして念のため、モーさんにお願いして何度か俺の裏まで降りてきてもらったら、チェルシーはさっさとあきらめてゴール前でブロックを敷いている。
なるほどねーふれきしぶるだなー。
《優斗が降りて来た場面》
そして新たに気付いたことが……
優斗がCB脇まで降りて来るのを追いかけていたチェルシーのCBアスピリなのだが、足が売り切れたのかどうかわからんが、ドンドンと優斗に追い付けなくなってきている。
あらあら、普段からちゃんと走り込みはしないとだめだぞ!
まさかの瓢箪から駒。
相手のCBの足を売切れさせるとは、なかなかやるな。よかったら俺の替わりに今度右SBやってみるか?
時計を見ると前半の43分、いい塩梅に前半の頭から相手左サイドのスタミナを削った甲斐があったのか、あからさまにマークが緩くなってきたチェルシーのDF陣。
まあ、この時間帯が一番きついからな。(ニチャ~)
すると、ここが勝負どころか!?とサルーさんも下がって来て、俺―優斗―サルーさんのトライアングルで、右サイドの突破に成功した。
ペナルティー脇まで来た俺は、そのまま一気に中に折り返す!!
……と、その時気が付いたのだが、中に全然人数が足りて無い。
よくよく見たら、中に張って無きゃいけないはずの優斗とサルーさんがまだ戻り切ってなかった。(テヘペロ)
だが、久しぶりのクロスにチェルシーDF陣も慌ててくれたのか、何とゴール前にウチの選手が誰もいないのにもかかわらず、ゴールラインにクリアーしてくれた。ラッキー♪
ようやくと言った感じでCKを得ることが出来たリバプール。
まあ、いいさ、ここから反撃の狼煙を上げればと、気合を入れて司のCKを待つも、何故だか全然リスタートされない。(まあ、原因は分かってんだけれど……)
見ると、ピッチの脇で優斗が両足の太ももの裏を押さえて口から泡を吹いている。
それを見て、優斗の両足のつま先を持って必死に伸ばす友達思いの拓郎。
どうやら、限界を迎えた優斗の両足は只今絶賛こむら返りの真っ最中。
まあ、ハムはイッテないだろう……多分。
様子見がてら俺も優斗のところに行ってやると、案の定「攣った、攣った、攣った、攣った」と悲鳴を上げて七転八倒。
審判もちょっと試合を止めて様子を見てる……と、そこに司。
「うーん、無理そう?」と。
「いや、大丈夫やで、司君」と健気に立ち上がるも、「あっかーん!」と再び両足の太ももの裏を押さえてのたうち回る優斗。
「これはちょっと厳しいかもねー」と拓郎。
すると司は「あっそ、分かった」とあっさり見切るとクラップ監督に向かって両手の人差し指を交互にぐるぐる回して交代のハンドマーク。
状況も、状況って事であっさりマネラさんと交代。おつ、優斗。
そうして担架で運ばれていく前半のウチの立役者。
係員の担架に運ばれていくのを一緒に寄り添いながら司。
「よくやったぞ、優斗、ミッションコンプリートだ」と最大限の賞賛を惜しまない我らが上司。うらやましいワンッ!
「ぼ、ぼく、頑張ったで」と司に褒められて大そう嬉しいのか、健気にも何とか体を起こし、息も絶え絶えに優斗。
そんな優斗の手をギュッと握り、「後は、まかせとけ」と司。
そう言うと、司は慈愛に満ちた笑みを浮かべて優斗をピッチの外に送り出したのでした。
ありがとう優斗。さようなら優斗。僕達は君の頑張りを忘れないよ。(無理しやがって……)
そうして司は、優斗の姿が見えなくなったのを確認してから、「ったく、使えねーな。前半でいなくなんなよ。……チッ!」と。
えっ、今、もしかして、舌打ちした?あんなひどい事させておいて???
人間不信になりそうな下僕の僕。(なんか語呂良いね♪)
母さん、なんだか、今晩うなされそうです。




