グランメゾン★サムライブルー その8
茹で立ての手長海老をレモンとマヨネーズでパクパクむしゃむしゃ。うーん、ミソのところが濃厚でうめーなーと舌鼓を打っていたら、
「『ウニのエスプーマ』と『ウニのグラティネ』なのだー」とドラマで出て来たまんまの料理を出してきた。
「おおー、やっぱ、俊平さんってすごいんだなー」と改めて尊敬のまなざしでおにぎりを見る三苫君。
ええ、伊達に私と司のお給金からしっかり給料出してるわけじゃないですからね。意外といい金取るんすよ、コイツ。
まあ、節税対策にも一役買っているのであまり大きな声では言えませんが……(ニヤリ)
「そういえば、例の津久谷さん、いつお会いできるのかしら?」とおば様。契約や税金関係の相談で代理人の津久谷さんと是非お会いしたいと頼まれてたんだっけ。
「ああ、リモートでよかったら今週中にでも時間作りますよって言ってたよ」とこめかみを押さえながら司。
「あら、悪いわね、司。ちょっとこっちの契約関係で分からないところが結構あってね。えーっと収入印紙ってこっちじゃどうするの?」
「ああ、そこら辺も全部津久谷さんに任せちゃったら?」
「うーん、そうしちゃおっかなー」と『ウニのエスプーマ』を食べながらおば様。すると、「あら、俊平君、これちょっとレシピ変えた?」と。
「そうなのだー」と俊平。そして、「ここはやっぱし、原作のドラマをリスペクトしてナッツオイルを足してみたのだー」と……
途端に「ゴフッ」っと咳き込む面々。
すると、「えーっと、ナッツアレルギーの人いないよねー?」と俊平。
「まぁ……」、「確かに……」と複雑な表情の面々。
別にそこまで原作を忠実に再現しなくてもいいんだぜ。
「じゃあ、俊平から料理の説明よろしく」と遥。
「ハイなのだー。『ウニのエスプーマ』は生のウニにの中にハマグリのブイヨンで茹でたソバの実と白ワインビネガーとナッツオイルを詰めて、ハマグリのだし汁を泡立てたソースを乗っけたのだー」と俊平。
おやおや、説明を聞くと随分とまた凝った料理なんだな。
「ところでエスプーマってなーに?」と陽菜ちゃん。
「『エスプーマ』とはスペイン語で『泡』という意味で、最近の料理のトレンドでソースを泡立てることで軽い食感を出すことを指しているのだ」と胸を張っておにぎり。
「これって、ハマグリの出汁を泡だて器で立てるとこうなるの?」と春樹は言うと、泡立ったハマグリのソースを指で掬ってペロリと舐める。
「いや、泡だて器で立てただけじゃこんなんにはならないのだ。そうなるために大豆のイソフラボンの粉末を少し入れてかきまぜるのだー」と身振り手振りで春樹に説明する。
「へー、随分と凝ってるんだなー」と円藤さん。
「ちなみにこっちは?」と『ウニのグラティネ』を指さして釜田君。
「そっちは殻を外したウニの中に身を戻してサバイヨンソースを入れて、サラマンダーで火を入れたのだー」
「サバイヨンソース?」と富安君。
「卵黄をシャンパンとすましバターで泡立てた、超高級マヨネーズみたいなものなのだー」と俊平。
なるほど、確かになじみのある味と言えばそうだよな。
「ところで『グラティネ』って?」と陽菜ちゃん。
「『グラティネ』とはフランス語で『焼目を付ける』という意味で、 おろしたチーズやパン粉をふってグラタンにすることなのだー」と。
「なるほど、ウニのグラタンって意味なんだな」と司。おう、頭痛治ったか?
すると、UMA君。
「よーっし、分かったー。じゃあ、オニギリ、ちょっと醤油とワサビ持ってきてくれよ。あとついでに生うに、二、三個杯」といい塩梅に出来上がったUMA君。
えーっと、それって……
一瞬、俊平の額に怒筋が浮かんだような気がしたのは……うん、きっと気のせいだ。
UMA君の言葉を聞いた俊平はそのまま能面の様な顔で踵を返しキッチンに戻って行った。
--------------------★★★--------------------
その後も、UMA君のわがままな注文はとどまることを知らず。
『ナスのプレッセ』にはポン酢を、『鱸のロティー グレープフルーツのソース』には再びワサビ醤油を、『牛の胃袋のグリエ』にはコチュジャンを、そして遂にメインの『鹿肉のロティとコンソメ』の時に事件は起こった。
「おーい、オニギリ、鹿肉のクセがつえー、ニンニクとショウガもってこーい」と、どうやらカツオのたたきのようにしていただきたいらしいUMA君。
すると……「テメーは海原雄山かー、フレンチなめんなよー!!」と鉄のフライパンを振り上げながら俊平がキッチンからやって来た。
どうどうどうどう。
「上等だー、オニギリ、表出ろーい!!」と完璧に出来上がったしまっているUMA君。
どうどうどうどう。
直後、‶バシャッ"、‶バシャッ"っと、目にも止まらぬ速さで、コップの中に入っていた水を二人にぶっかけた遥様。
……しーん。
そして、「他にもお客様がいらっしゃるので、お静かに……」と今まで数回しか見せたことの無いような般若の様なお顔で遥様はおっしゃられました。(そういや、沖縄で見たことあるなー)
「……はい」とUMA君。
「……はいなのだー」と俊平。
そうして、何事もなく晩餐会は再開したのでありました。やれやれ。
――翌日、
「でも、やっぱ、俊平さんのお料理ってすごいんだねー」と『野生鴨の胸肉ロースト、カヤの実と昆布オイルのプラリネ』を食べながら春樹。
「陽菜もあんなすごいフランス料理食べたの初めてー」と『ラムショルダー(肩肉)の蒸し煮』を頬張りながら陽菜ちゃん。
「でも、俊平さんの作るお料理っていつもちょっと変わった料理だよねー」と手づかみで鴨肉を頬張る春樹。
「そうそう、和食でもないし、フランス料理でもないし、これって何料理なの?」とこちらも手づかみでラムの肩肉を食べる陽菜ちゃん。
「えーっと、俊平の作っている料理ってのは……」と俺。
「なんか、北欧の方の料理なんだけどなー」と司。
「自家製の味噌使ったり、納豆使ったりなんや面白いけどけったいな料理がおおいなー」と優斗。
昨晩おば様から聞いたのだが、俊平が普段から何気に出している料理ってのが、あの『グランメゾン★東京』のライバル店、丹後シェフのいるお店、『gaku』の料理のベースになっているものなのだ。
実は『gaku』監修している『INUA』のトーマス・フレベル シェフってのが、俊平が『nomu』にいた時の直属の上司だったそうで……
どうも、世間ってのは思った以上に狭いんだね。
そこのテーブルの上に飾ってある写真の中で、俊平の横に立っている白Tにデニムのエプロンを付けたどう見てもミシュランの星を持っているようには見えないメガネのおじさんが、トーマス・フレベルその人らしい。
さて、春樹も陽菜ちゃんも普段から食べている料理が『グランメゾン★東京』の中に出てたことを一体頃気付くのだろう。
遥と司には口止めしてるのだが……
お兄ちゃん、ちょっと意地悪だったかな?




