サッカー小僧の戴冠 その5
それからも翔太の一人舞台は延々と続く。
パラグアイのゴール前で三人に囲まれるも、スルッと躱し、四人目が来る前にあざ笑うかのようなチップキックで南君にパス。
これは惜しくもシュートは決まらなかったが、スタジアムのお客さん達からはやんややんやの大喝采。
「楽しいサッカー」を言葉通りに体現するSAMURAI BLUEの10番。
前の世界ではテレビの画面越しからだったが、同じピッチの上に立ってみると、翔太のヤバさがビンビンに伝わって来る。ホントお前、スゲーんだな。同じフットボーラーとして心から尊敬するよ、翔太。
ディフェンスにおいても、パラグアイの9番、サブディオのシュートをゴール前まで戻ってブロックする翔太。
まさに、『中島翔太劇場』と言っても過言では無い鹿島大明神蹴球競技場。この試合を見れるのなら、東京から100キロ、電車で2時間は決して長くはないはず!!(ですよね!!)
きっとテレビの画面越しには、この試合を見に来なくて歯ぎしりしているSAMURAI BLUEのサポーターも沢山いる事だろう。(だってチケットあと1万枚残ってたんだから……)
その後も翔太は、大高さんへの決定的なスルーパスに、相手の虚をつくループシュートとやりたい放題。
そして遂に前半のアディショナルタイムに伝説のあのプレーが飛び出したのだ。
自軍左サイドで富安君からの浮き球を難なく納めた翔太。
すると、なんとそこからリフティングドリブルを開始しやがったのだ。いわゆる『なめプ(相手を舐めたプレー)』って奴だ。もっとも本人はその気がないから始末が悪い。
それを見たパラグアイの7番サブリナが目の色変えて翔太目掛けてスライディングタックル。(危ない!!)
両足もろとも派手に刈り取られスッテンコロリンの翔太。
だから言わんこっちゃない!!
すぐさま翔太の元に駆け寄る俺。
「いや、ヤバいって、何考えてんだよ、翔太。相手の7番、明らかにお前の事削りに来てたぞ!!」と。
まあ、そういうプレーする奴はその気かどうかがわかるんだよねー。(なんででしょう……)
すると、「大丈夫、大丈夫、来るの分かってたから、その前にジャンプしてちゃんと避けたし」と相変わらずニコニコの翔太。
オイッ!?大怪我するかも知れなかったこの状況でそう言う無邪気な笑顔見せるから、一部のサポーターから『天真爛漫なサイコパス』とか言われちゃうんだぞ!!
W杯予選直前なんだからもうちょっと後の事考えろよ……
審判がサブリナにイエローカードを提示すると同時に、前半の終了を告げる笛を吹く。
日本対パラグアイの親善試合は前半を終了して2-0となる。
控室に戻るなり、
「翔太ー、大丈夫かー!!」と血相変えた森監督とトレーナのみなさん。
すぐさまその場で翔太のメディカルチェックが始まった。
まあ、翔太がいなけりゃようやく完成にこぎ着けたこの『Nシステム』も絵に描いた餅。5日後にはW杯予選も始まるんだからナーバスにならざる得ないか。
しかし、相変わらず本人はキョトンとしている。ホントにこいつ日本の10番背負っている自覚あるのかね。
いや、無いな。
だから、あんな自由なプレーが出来るのだろう。
その昔、どっかのクラブのサポーター達がおらがクラブの10番にこんな言葉を送ったっけ?
「うちの10番の背中には天使の羽が生えている。それだけで十分だ」と……
今ならなんとなく、そのサポーター達の気持ちが分からなくもない。
翔太の体のチェックが終わり、どうやら虎の子の10番に怪我がないことが分かると一安心するスタッフの皆さん。
すると……「おい、カズ、後半は翔太の代わりに入れ」とこれまた日本の未来の10番に対し、森監督から直々のご指名だ。
「はい、分かりました」と即座に返事するカズ。
「他のメンバーは変わりなし。後半10分を目途にどんどんとメンバーを入れ替えていく」と森監督。
「ういっす!!」とSAMURAI BLUEのみんな。
そういやコイツにもまだ、代表最年少ゴールの記録が掛かってたんだっけ?
しゃーねーなー、だったら元クラブの頼れる先輩としていっちょ汗かいてやりますか。
そんな感じであっという間にハーフタイムが終了した。
後半に入り、翔太が居なくなってからも勢いはそのまんま。
圧倒的にゲームを支配するも最後の最後で点が取り切れない日本。
カズにも結構いいパスだしてんだけれどなー……
そんな歯がゆい思いをしてたら、後半の15分過ぎに俺と司がそろってお役御免。
まあ、5日後に本番が控えてるんだ。ここで無理してもしゃーない。
その後は純然たるテストマッチの様相を呈していく日本対パラグアイの親善試合。結局スコアは動かずのまま、日本対パラグアイは2-0で日本の勝利となった……
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そして5日後、日本はカタールW杯アジア2次予選の初戦、ミャンマー戦を2-0で快勝すると、翌10月に行われた第2戦のモンゴル戦を6-0、第3戦のタジキスタン戦を3-0、その翌月に行われた第4戦タジキスタン戦を2-0と無敗で勝ち進んでいく。
『Nシステム』を完成させた日本にとって、正直、アジア2次予選で対戦する国々では相手にならなかった。
無敗の快進撃を続けるSAMURAI BLUE。カタールW杯に向けて視界良好と思えた矢先、世界は新型コロナウイルスによるパンデミックに覆われた。




