進撃のシン・トトロドン 序 その4
「チッキショー、あれ、ぜってーPKだったろうが!!」と頭から湯気を立てながらUMA君。
「いや、それよりも、その直後のCK決めとけよ」とアシスト一つ取りこぼしたと言わんばかりの伊藤さん。
「それよか、前線からのプレイスバック遅れてるぞ!!」とFW陣の守備の強度に対しておかんむりの円藤さん。
「ってか、全体的にボールのつながりがなってない。勝つ気あんの?」と釜田さん。
「テメー、ダイチ、ケンカ売ってんのか!!」とUMA君……(以下略
「えーっと、シンジ君、試合終わった後っていつもこんなんなの?」とちょっと引き気味の三苫君。
はい、そうなんですよ。「大体負けるといつもこんなんだね」と俺。
「はぁー……」とため息を吐く上司。
そんな感じでシント=トロドン2019-20シーズンの開幕戦、対ロイヤル・アクセル・セリール戦は0-1の惜敗と相成りました。
いい感じで押してたんだけれどなー。
すると、「まあ、全員が合流してまだ日も浅いんだし、今日のところは上出来だろ」とさっさと着替えて、アナライザー班のところに行く司。大方今日の敗因なんかを徹底的に洗い直すのだろう。
まあ、司が言うのももっともなんだけれどね……
と言うのも、我がチーム、シント=トロドンの主力は殆どがどこぞのチームからのレンタルとなっており、つい先日まで所属先のチームのキャンプの方に顔を出していた選手が大半なのだ。
実際、俺も、司も、リバプールの方のキャンプに行ってて、こっちに合流したのはほんの一週間前。
まあ、チーム全体がステップアップクラブとしての自覚を持っているために、そこら辺は結構融通が利くのだ。
そうでなければ、シント=トロドンの経営規模でこのレベルの選手をかき集められるのは難しい。
そんな感じで全員が傭兵としての自覚がある分、結果に拘っているってのがこのチームのカラーと言っていい。
「まあ、来週のアンデルヒド戦までには立て直してシーズン初白星を目指すぞ」と司。
「ったりまえよ!!」とUMA君。
「次こそは勝ってやるよ」と関口君。
「いや、それよりもスタメン勝ち取れよ」と同じレッズだった円藤さん。
「きっついなー、航君」と伊藤さん。
するとそれに合わせてゲラゲラと笑いが起こる。
こういう切替が早いのもこのチームの長所である……そうですよね?上司。
と、その時、チョンチョンチョンと肩をつつかれる俺。
振り返るとそこには三苫君が。
「えーっと、この後の予定って」と三苫君。
あっ、そうだ、司に頼まれてたんだ、三苫君の世話役よろしくって。
「このあと、試合後のミーティングやってその後、俺んちに集合ね。一緒に付いて行くから大丈夫だよ」
「なんか、悪いね?」と三苫君。
「いいって、いいって、気にしないで、司からもちゃんと三苫君の事頼んだぞって言われてるから」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、司君にもあとでお礼言っとかなきゃ」
……そんな感じで、学年は一緒だが、海外生活に関しては一年先輩の俺。
司からは、三苫君の面倒をちゃんと見てやれと言われ、ここ最近それなりに充実した毎日を送っている。
それと言うのも、2月にアジアカップが終わってからというもの、司は釜田君とガッツリつるんでおり、俺との絡みはあまり無いのだ。
なんだか、ようやく、サッカーの価値観が合う選手と出会えたと、暇さえあれば二人で戦術討論。おまけにこちらの世界に来てから封印していたウイイレも二人で楽しそうに遊んでいる。
もっとも、遊んでいるというと、司は怒るのだが、司曰、「これは最も高度なシミュレーションだ」と言っている。
ほんとかね、オイ?
まあ、実際、クラブでも代表でもプレイでコンビを組む機会があるのは、俺よりも圧倒的に釜田君の方が多いんだけれどな……
そんな感じで、ここ数カ月、ベルギーでは手持無沙汰だった俺。
ようやく、三苫君がウチのクラブにやって来て、ちっとは刺激的な毎日が遅れるのかなと、ちょっとは期待したりもする。
――一時間後、
監督からのあっさりとしたミーティングが終わると、選手は銘々に帰り支度を始めた。
「えーっと、この後って、シンジ君ちに行くんだよね?」と三苫君。
「うん、いつものメンバーで食事するんだけれど、三苫君も大丈夫だよね?」と俺。
「うん、そのつもりで予定空けてたから」
「じゃあ、オッケー」
実は司から三苫君のシント=トロドンの試合初出場のお祝いを兼ねての夕食会を開くことになっていたのだ。
俺達はスタジアムの裏門を出ると通りを挟んで反対側のアパートメントに入って行った。
実はこのアパートメントが俺と司の住居となっている。
1Fはシント=トロドン直営のスポーツジムで、二階から住居エリアになっている。
俺と司はこのアパートの5階に部屋を借りてルームシェアで生活しているのだ。
これぞ究極の住居近接と言っても過言ではない。
俺たちは年季の入ったエレベータに乗り込んだ。




