フットボーラー補完計画 ーThe last lesson Ⅱー その9
ハセケン監督の掟破りの三枚替えにスタジアムはどよめきがおさまらない。
ゴール裏のイケイケさん達は、ハセケン監督の覚悟の決まりっぷりに一部で大盛り上がりだが、残りの大半は「えっ、大丈夫なの、この試合延長あるんでしょ?」と戸惑いを隠しきれない。実は私もそうです!!
そして、明和の選手達も前線にずらっと並べられた、ディアスさん、長井さん、一英の三枚看板にちょっと腰が引けて見える。
じゃあ、母校のみんな、J屈指の火力、とくと味わってくれよな。俺と司からの置き土産と思ってくれたら幸いです。グエーッヘッヘッヘ。
そんな感じで、東京のキックオフで後半戦が開始した。
すると、いきなり、ビックチャンス。
DFラインまでボールを戻すと、司が持ち上がり、明和のブロック前で待ち構えているディアスさんに向かってピンポイントのクロスを入れる。
しかも、拓郎にクリアされることの無いようにライナー性の低いクロスだ。
その難しいボールをディアスさんが胸トラップでビッタシ納める。
5-4のブロックのど真ん中でポールをキープするディアスさん。明和の選手達に囲まれるもJトップクラスのキープ力の高さを見せつけると、ノールックで走り込んで来た一英にフリック※2。
後半開始早々、明和の右ポケットを取った一英。そこからマイナスのクロスを入れる。
そして、そこに飛び込んできたのは、東京のスピードスター長井謙佑。
行った―!!と思うも、そこは武ちゃんと順平が体を挺してシュートをブロック!!
惜しくもコーナーキックに逃げられた。チッキヒョー!!
明らかに前半戦とは空気感が変わった怒涛の東京の攻撃に、ゴール裏のイケイケさん達もボルテージが上がっていく。
『バーモス トキョー』の掛け声に合させて、左コーナーから司のコーナーキック。
インスイングから蹴られたボールは鋭い弧を描きながら明和のゴールを襲う。
おおっふ、司さん、直で狙ってきますか!!
だが、それに合わせてディアスさんも体ごと押し込んでやろうと突っ込んでくる。
今度は空中でディアスさんと拓郎、順平の三人で激しく体をぶつけあう。
しかし、ボールは惜しくも枠を逸れ明和のGKとなった。
うーん、残念。
だが、明らかに前半戦とは違う攻撃の厚さに険しい顔になる明和イレブンwith遥様。
このままの無傷で、試合終了なんかにさせないんだからね!!
そうしてようやく、後半の12分、遂にその時がやって来た。
司がボールを持って左サイドを持ちあがると、更にその大外をオーバーラップしてくる長井さん。
そのあまりのスピードの速さに中野君がぶっちぎられてしまった。
フリーで長井さんにボールが渡ると、そのままグリグリと左サイドを抉る東京のスピードスター。
そうして満を持してのマイナスのクロス。
そこに飛び込むのは今や東京のエースとなったディアスさん。
拓郎も負けじと体を競り合わせるも、そこは百戦錬磨のディアスさん。
フィニッシュに持っていくのが難しいと見るや、瞬時にカムイ・フンペを道連れにしてニアでしっかり潰れる。
すると、そこに詰めてきたのは今日はオフェンシブハーフで出場のケンティー。
インサイドできっちし合わせて枠内にシュートをするも今度は武ちゃんが足を伸ばして必死にブロック。
ぐぬぬぬぬ~、流石は俺達の幼馴染、往生際が悪い!!
ディフレクション※3したボールを順平が必死にパンチングでクリアするも、そのボールがまたまた俺の足元にやって来た。
うほっ!!いいボール。
俺は明和のPAギリ外、ゴール正面23mのところでボールを納めた。
明和ゴール前ではニアでディアスさんと潰れた拓郎と、スライディングして倒れたままの武ちゃん。そして、パンチングをしたためにゴール前から飛び出した順平。つーわけで、ゴールががら空きだウホ!!
俺は考えるよりも先に感じると、ブルース・リーの教えに則って条件反射で左足を振り抜き、そのまま『スカッド』発射!
『ドン シンク フィー!!』
が、その時、「させるかー!!」と優斗が死角から足を延ばして飛び込んで来た。
うわっ、しつけーな、コイツ!!
俺の放ったスカッドに、僅かに‶チッ"と優斗のつま先が掠めるも、その勢いは全く削がれることなく、ポッカリと空いた明和ゴールに向かって進んで行く。
おっしゃ、まずは一点……と思った直後、優斗のつま先を掠めて僅かにコースが変わったボールは、ゴールポストに‶バイーン"とジャストミート。
思わず、オーノーと頭を抱え込む間もなく、今度は勢いよくリフレクション※4したボールがゴール前にいた一英の顔面に‶バコーン"と直撃すると、ピンボールのように再びリフレクション、結局ボールは明和のゴールに収まった。
えーっと、コレって……俺は瞬時に線審の旗を確認すると、旗は上がっておらず。指さし確認、ヨシッ!!
思わず目と目が合った俺と線審さん。
何かが通じ合ったのか「うんうん」とお互いに頷き合うと同時に、主審は「ピー」っと得点を認める笛を吹いた。
天皇杯 JFA 第98回全日本サッカー選手権大会4回戦 SC東京vs明和大学のスコアは後半12分、俺のシュート……もとい、一英のゴールにより、1-2となる。
ちぇっ残念……って、それどころではない。
俺はすぐさま一英の元に駆け寄って様子を伺うと、そこには目をぐるぐるに回して両方の鼻の穴から盛大に鼻血を噴出す一英の姿が……見なかったことにしよう。うん。
直後、‶パコン"っと司に後頭部を叩かれると思わず頭を押さえる俺。
もう、勝手に人の心読むのホントやめてもらいませんか!?
「そんなもん、見なくたって、態度で分かるんだよ!!」と司。
……って、お前、今のは読んだろ?
だが、そんなことを言っている場合ではない。
「担架呼ぶ?」と審判さんも心配そう。
しかし、一英はすぐに立ち上がると「大丈夫です」と言って、ふらふら歩きながら自らタッチラインの外に出る。
「えーっと、コレって……」
「脳震盪ならアウト、鼻血が止まらなくてもアウト。ともかく今は出血を止めるのが先だ」と司。
「ですよねー」と俺。
ハーフタイムで交代のカードを全て切ってしまっていた東京。
恐る恐るベンチを振り返ると、真っ青の顔のハセケン監督と安田コーチ。
「俺、知ーらねっ」と……
さぁ、東京の明日はどっちだ!!
ちなみに俺と司は渡航の準備をするつもりだよ!!
※2、フリック=前方から来たボールをダイレクトでアウトサイドやインサイドを使ってオシャレに‶テイッ"と後ろに逸らすテクニック。ここではディアスさんは自分でキープしたボールをアウトサイドで斜め後ろに叩いた感じ。厳密にいうとフリックとは言えないかも知れないけれど、まあ、いいじゃないの。
※3、※4(鳴瀬先生のサッカー講座)




