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フットボールのギフト ~底辺Jリーガーの俺がフットボールの神様からもらったご褒美とは~  作者: 相沢孝
第八章 (再開)魂のJリーグ編(2ndシーズン)
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白い小さい闘牛士 その9

 もちろん、神戸も直ぐに手を打ってきて、左右のCBを交換して今度はアーノルドさんを長井さんを当ててきたが、大して違いは無し。


 しかも、その直後、アーノルドは長井さんのユニフォームを引っ張って倒してしまい、イエロー喰らってもう後が無い状態。


 そうなってくると神戸も迂闊にDFラインを高くすることは出来なくなってしまった。


 だって、スペースがある状態で「よーいドン!!」をしたら絶対に負けるんだもん。


 とんでもない神戸のバグを見つけてしまった我らが東京。


 未だかつてないこのビックウェーブを逃してなるものかと、長井さんに向かってやけくそ気味で縦一本を入れ続ける。


 ボールポゼッションとか、丁寧なビルドアップとか、そんなの知ったこっちゃ無い。だって、DFラインで一対一させたら絶対に勝てちゃうんだもん。


 こういうのを濡れ手に粟っていうんですよね、上司!!


 本来なら神戸には渡邊さんという絶対的なCBがいるのだが、今日は累積警告でお休み中です。


 今、俺達は、すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。


 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。


 中途半端はやめよう。とにかく最後までやってやろうじゃん。


 だって俺達には沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。


 信じよう。そして共に戦おう。


 ユーウィル ネバー ウォーク アローン。


 おっおー!!


 そんな感じで、馬車馬のように長井さんを働かせる俺達。


 その後、何度か決定的なチャンスを掴みかけるも、生来の決定力の甘さからか、最後の最後で決め切れ無い長井さん。


 まるでジョホールバルの時の岡ちゃんのようだぞ。


 でも、大丈夫。だって、決めるまで、絶対に許さないんだもん!!


 うぉらぁぁぁぁああー。


 と、縦一本マシーンと化した東京のゆかいな仲間達。


 永井さんの顔がみるみるやつれてくる。


 だが、そのスピードは決して衰えず。やっぱスゲーな、この人……


 しかし、『好事魔多し』とはこういう時の事を言うのだろう。


 直後、一英の野郎が、単純なトラップミスをやらかすと、そのボールを三郷さんに掻っ攫われ、前線で張っていたイエニスタさんに通ってしまったのだ。


 やヴぁい、マジピンチ。


 一瞬でひっくり返る東京vs神戸。


 気が付けばゴール前の人数が2対4となっており、神戸圧倒的有利。

 

 いやーん、ほんとにスリリング。 


 そして俺は反射的にイエニスタにハードスライディングをかました。


 ゴリっという確かな手応え……もとい、足応え。アレッ?


 直後、「ピピピーッ」と耳を劈く主審の笛が。


 どうやら、相当深く入ってしまった俺のスライディング。


 足を押さえて痛そうに転げまわっている『白い小さいマタドール(時価総額32億円)』。


 まるで水を打ったように静まり返る『キングアマラオスティディオンinチョーフ』。


 VIP席で、手すりに足を掛けて俺に中指をおっ立てている美樹谷オーナーの勇敢なお姿がよく見える。


 審判は笛を咥えながら、左手を胸のポケットに突っ込んでお馴染みのポーズで走って来た。(本日二度目!)


 うわっ、やっちまった……と背筋から冷や汗が滝のように流れて来た。(本日二度目!)


 ヤダヤダヤダヤダ、リーグ戦最後の試合で一発退場だなんでシャレになってませんて。(本日二度目!)


 ある意味伝説になっちゃいますよ。悪い意味で!!(本日二度目!)


 赤はやめて、赤はやめて、せめて黄色でご勘弁を~……と、心の底から願いつつも覚悟を決めたその時だった。(本日二度目!!)


 審判さんは俺の顔にくっ付けるようにイエローカードを提示した。(もしもし、鼻にくっついちゃってますよ?)


 そして……「鳴瀬選手、分かってますよね。次はありませんからね」と、名指しでどこまでも冷静に最後通告をする審判さん。


「……ういっす」


 ふー、命拾いした。あーやれやれ。


 尚もイエニスタさんは足を押さえてチョー痛そう。


 もしもし、大丈夫ですか?


 するとその時だった。


「テメー、神児!!イエニスタさんに何してくれちゃってんだよー!!」と、まさかの味方の一英が血相を変えてやってくると、俺の襟首をぐいんぐいん掴みながら怒鳴って来た。


 あれー……どうして味方のお前が詰めて来るの?


 俺、キミの先輩なんだけれどなー?


 薄れゆく意識の中でそんなことを思う僕……あれ、なんだか多摩川の河川敷が見えて来たぞ。(ハート)


「ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ」と一英の常軌を逸した激おこっぷりに、神戸の選手達が止めにかかる。


 神戸FCの皆さんのおかげで、どうにか命からがら一命を取り留めた僕。


 すると一英は俺に向かって、「burro」(※4)と罵った後、イエニスタさんに駆け寄り、「大丈夫ですか、イエニスタさん、ケガはないですか」……と、おそらくスペイン語かなんかで話しかける。知らんけど……


 すると、「オー、ダイジョウブネー、カズ……ボクタチノムスコ。ボクタチニナガレテル ブラウグラナ(青とエンジ)※5 ノ チハ エイエンネー デモ マドリーイッタラ ブッコロシマース」と、なぜだか片言の日本語で応えて来るイエニスタさん。日本語上手っすね。


 気が付けば、東京、神戸関係なく、全てのお客さんから ♪ そして~ イエニスタ~ ♪ とイエニスタさんのチャントが歌われている。


 なんだろう。この、かつてない一体感は。


 そして、なんだろう、この……まるで『埼スタ』でのレッズ戦のようなアウェイ感は……


 俺は思わず、何かに縋るように、東京のゴール裏を見てみると、イケイケの皆さんから、ジトーっと、嘗てない程の冷たい視線が注がれていた。おー怖っ。


 すると……「信じらんねー、イエニスタさんにするか、フツー」と司の声が。


 振り返ってみると、傍らには、まるで蛇蝎でも見るかような目で俺を見る司。


「いや、まあ、何ていうか、これもフットボーラーとしての本能かな」と、ニッコリとスマイル。


 すると司は、そのままスタスタと何も言わず立ち去っていった。


 おーい、どこ行くんだよー。



  --------------------◇◇◇--------------------



 (閑話休題)


 ――5分後、


 どうやら大事が無いことが分かると、念のためという事で、仲間達(なぜだか一英も含む)に肩を借りながらピッチを後にするイエニスタさん。


 アマスタのお客さん達は敵味方関係なく、『白く小さなマタドール』に向けて万雷の拍手を送る。


 その感動的な光景に思わず俺も「パチパチ」と拍手。


 すると……まるでシリアルキラーでも見るかのような冷たい目で俺を見つめる仲間達。


 おーい、どうしたんだい。


 僕たちは青赤の血が流れている仲間達じゃないか……仲間達じゃないか。


 ところで、イエニスタさん。


 最後、なんか、おっかねーこと、言ってませんでしたか?




※4、後で寮に戻って辞書で調べたら、『burro』=ブーロ、ロバの意で 、会話で使われると、「馬鹿」とか「間抜け」とか「がさつ者」って意味なんだってさ。なぁ、一英、ちょっと屋上行こうぜ。



※5、ブラウグラナ=カタルーニャ語でブラウエンジ色グラナを指す言葉です。この青と臙脂ブラウグラナは一英のいたバルセロナのチームカラーであり、バルセロニスタのアイデンティティーといえるものだそうです。でも一英、お前のいるチームは青赤だからな、勘違いすんなよ。


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― 新着の感想 ―
神児君に一言「やっちまったな~。漢は黙って土下座」( ノ;_ _)ノ
誰がそこまでやれというたってのが総意よ
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