白い小さい闘牛士 その1
♪ 神戸を~愛し~た~い~ ♪
♪ オオオ~ オ オーオー オオオ~……♪
スタジアム全体から神戸FCのチャント『神戸讃歌』が聞こえて来る。
クリムゾンレッドのサポーターにジャックされた『キング アマラオ ステイディオン in ちょーふー』
普段はガラガラのアッパーデッキまでお客さんがパンパンだぜ。ウホッ!
社長、大入り袋って出るんですか?
「いやー、しっかし、よく入ったなー」と感心を通り越して呆れたように司。
「まあ、なんてったって、イエニスタさんの日本デビューだからねー」とアッパーデッキまでぎゅうぎゅうに入り込んだお客さんを見ながら俺。
すると……「それだけじゃないさ、お前らの日本でのリーグ戦最後の試合ってのもあるだろ」と自軍ゴール裏を指さして森永さん。
見ると、『世界へ羽ばたけ東京の貴公子 北里司』という横断幕と、『世界を蹂躙!!東京のロードローラー鳴瀬神児』の横断幕が……
『貴公子』と『ロードローラー』か……一体どうしてこうなった?
俺が首を傾げていると、「ちゃんと後でサポーターさん達に挨拶しに行けよな」と森永さん。
「でも、まだ、もう一試合ありますよ。ここで」と俺。
「リーグ戦は、リーグ戦、天皇杯は天皇杯だ。それに、週末しか来れないサポーターさんだっているんだから」と……おっしゃる通りでございます。
チームとの話し合いの上、俺達は今日の神戸戦と、来週の水曜日に行われる明和戦をもってSC東京を退団することとなった。
クラップさん的には1日でも早くリバプールに来てキャンプに参加して欲しいらしいのだが、こっちにもこっちの都合ってものがある。
まあ、そう言われて悪い気はしないんですけれどね。
すると、その時だった。『おおおおおー』と地響きのような歓声がスタジアム全体から湧き上がって来た。
見ると、選手通路口から背番号8を付けたスペインの英雄、『白い小さいマタドール』こと、アンドレア・イエニスタがやって来た。
「ホントに来たんだー」と目を真ん丸にして一英。
「やっぱ本物だー」と目を真ん丸にして司。
「あとで、ユニフォーム交換してくんないかなー」と俺。
観客だけでなく、選手達もイエニスタの登場に釘付けになる。
そういやこの人も、この前までスペイン代表としてロシアにいたんだよなー。お休み取らないで大丈夫ですか?
まあ、スペインさんも日本と同じベスト16で敗退だから休めたっちゃあ、休めたんだけれどねー……
そんな感じで、試合前の練習の時点で過去最高潮の盛り上がり。
これで試合が始まってしまったら、一体どうなってしまうのだろう……と、その時、
♪ な~るせ~ しんじ~ シャララ~ シャラララ~ラ~ ♪
♪ な~るせ~ しんじ~ シャララ~ シャラララ~ラ~ ♪
と、SC東京のゴール裏から、俺のチャントが聞こえて来た。
そうだそうだ、俺達が飲み込まれてどうする。
それに今日は、俺達のリーグ戦最後の試合だ。
これまで応援してくれたサポーター達に無様なところなど見せられない。
すると……
♪ オーレー オレ オレ オレ~ きたざと~ つかさ オーレ ♪
♪ オーレー オレ オレ オレ~ ♪
と、今度は司のチャントも聞こえて来た。
「オイッ、行くぞ、神児」
司はそう言うと、ゴール裏に向かってダッシュを開始した。
俺も直ぐに司の後を付いて行く。
俺達は感謝の気持ちを伝える為に、サポーター達に大きく手を振って、ゴール前でダッシュを繰り返す。
2018年8月5日 SC東京vs神戸FCの戦いの幕が切って落とされる。
昨日から急にPVが跳ね上がり、何事かと思ってたら、なんとなんと、投稿三年目にして『注目度ランキング』の第三位にランクインいたしました(^o^)/。表紙に乗ったの初めてでございますです。はい!!
今更ですけれど、『いいね』と高評価の方、よろしくお願いします。




